辺境の新伯爵は悩む





所領などをいただいた身ながら中央以上に悩み事ばかりだ

問題が多くてなにから手を着ければいいのやら、書類整理にばかり手を取られている場合ではない

ああ問題と言えばこのひと達も問題の種なのだ
頭が痛い半分はこのひと達がいるからだ

トウ・ヘア子爵改めトウ・ヘア伯爵は開拓に従事している人々と焼き魚を食べながら談笑に耽る輪を開かれた執務室の窓から見ていた

「労働の後の食事は美味しいね。ちなみにこの魚は川で僕が釣ってきたんだよ」

「おおオデュッセウス殿下が」

「カラレス公爵オデュッセウス殿下ではありませんよ。オデュッセウスさんですオデュッセウス・ランペルージが兄上の今のお兄様の名なのですからね。私はギネヴィア・ランペルージ。オデュッセウス・ランペルージの妹です。ギネヴィアさんとお呼びなさい」

「ハッ! しからば私めのことも公爵ではなくカラレスと。トウ・ヘア伯爵領へ出稼ぎに来たただのカラレスにございます」

「はっはっはっ、皆様、いや皆さん面白い発想ですね。では私も出稼ぎ労働者のhamと。侯爵や卿などと間違っても敬称をつけないでください」

「それなら私はリヒテンラーデ侯爵改めひゅうがですね」

「リヒテンラーデ卿おっと、ひゅうが殿は名前だけ聞けば日本人ですな。ひゅうが殿は四国の地理にお詳しいとお聞きしましたが、本場四国のうどん屋巡り旅行を今度考えておりまして」

「カラレスさんはほんとうどん好きですね。話に聞く限りではまるでうどん食の達人みたいですよ」

「日本のうどんは最高ですからな」

そこへ女性がひとり割って入った

「いいえカラレス卿、ではありませんでしたカラレスさん。日本でもっとも素晴らしいのはラーメンです」

「クルシェフスキー卿、いやモニカさん。なにを仰るかうどんこそ至高なのですぞ! 年明けうどんとか!」

そこへまたひとりの女性が割って入った

「そういえば私も年明けうどんのお話は最近になり聞いたことがありますわ」

「ヴェルガモン卿も、じゃないリーライナさんもご存じでしたか」

「ええカラレスさん。私が日本へ赴任したときには既にお聞き致しておりましたわ」

今度はリーライナと呼ばれた女性の隣に接するように座る坊主頭の男性が口を開いた

「麺で終わり麺で始まるか。今年はひとつ年明けうどんとやらを食べてみるかなリーラ」
「ええいっくん」

いっくんと呼ばれた男性に今度はモニカと呼ばれた女性の隣に寄り添う凡庸を絵に描いたような男性が話しかけた

「山本は海軍カレーが合いそうだがな」

「それなら嶋田も海軍カレーだろう」

「「はっはっはっ」」

何してるんだこのひとたちは?

皆が皆、天の采配か連休の重なったやんごとなき人々がロズベルト邸の庭で焼き魚を食べながら話し込んでいるのだ
ロズベルト男爵との因縁ではおもいっきり当事者だったり、某かの関係があったり、トウ・ヘア伯爵自身と関係のあるひとたちばかりが一同勢揃いである

もちろんここは旧ロズベルト邸
庭で盛り上がる一同の姿はロズベルト一族にも見えている

おや?

現実逃避をするようにロズベルト一族へ目を移していた伯爵は、一族より小さな少女が自称第0次開拓団を名乗っている面々に向けて歩き寄り、面前まで進み膝を付いていた


「オデュッセウス皇太子殿下、ギネヴィア第一皇女殿下、ナイトオブトゥエルブモニカ様、ヴェルガモン伯爵家御息女リーライナ様、カラレス公爵閣下、リヒテンラーデ侯爵閣下、ham侯爵閣下、大日本帝国華族シマダ卿、大日本帝国華族ヤマモト卿、折り入ってお願い致したき事がございます」

面々の名をひとりずつ呼び某かを願うロズベルトの少女の脚も小さなその身体も、全身が怯えるように震えていた

お願い

彼女のその願いの察しはついている
あの面々に当事者たるモニカ・クルシェフスキーとリーライナ・ヴェルガモンがいる以上、自分に頼み込んできた事と同じ事を願うのだと
モニカ、リーライナ両名への謝罪
ロズベルト先代当主の謝罪に続きロズベルト一族からの二度目となる公式の謝罪を当事者へと行った小さな少女は、一族を滅亡させた男への決闘の許可を願い出ているのだ

伯爵は既に許可を与えていた。フランク・ロズベルトの法に抵触する行いの確認がとれ次第と

これを補強・強化する意味もあるのだろう

ブリタニア皇太子に皇位継承権上位者のギネヴィア皇女。高位貴族のカラレス卿にひゅうが・リヒテンラーデ卿・ham卿。フランクに貶められた当事者モニカ・クルシェフスキー卿とリーライナ・ヴェルガモン卿
そして大日本帝国の華族シゲタロウ・シマダ卿にイソロク・ヤマモト卿にも後援者、後見人、見届け人になっていただこうとしている

様子を見ていたトウ・ヘア伯爵は静かに窓を閉めた


「はあ、ハードだ領地貴族」

問題だらけだ
しかし仕事は仕事
いまや一国一城の主

決闘など柄ではないが、少女の願いひとつ分くらい仕事が増えてもいいだろう

そうして伯爵は執務机に着き、自分の仕事に戻った

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2018年03月25日 12:13