掲示板ネタ




夢は叶っていた






くん

…?

ーーくん

ああ?

ーーまきくん

んだよせっーな

玉城くん!

ああーうっせー!「ひとが気持ちよく寝てんのにうるせーんだよ!」

ばん!

テーブル?を叩いて飛び起きた俺は安眠妨害してくれやがったくそったれに文句つけてやったまま・・・固まってしまった

「ず、ずいぶんな、言い様じゃない・・・ねぇ、たまきん?」

「・・・あ」

「あ、じゃないわよ。 まったくいくらアルコールが入ってると言ったって話の最中に普通寝るかなあ~?」

不満。苛立ち。少しばかりの怒り
併せ持った感情を隠すことなく"そいつ"は俺にぶつけてきた

短く切り揃えられた肩までの艶やかな黒髪。タイトスカートのグレースーツに身を包んだ百発百中どストライクなボンキュボンのボディコンダイナマイツバディに、大人の色気を漂わせている日本人形を連想させる美女

昔、まだ学生時代に子犬拾って何故か
勘違いされて振られてしまった"あいつ"だった

「わ、わりぃ、ちょっと疲れてたから」

「ま、ね。分からないでもないわよそりゃね? 厚生労働省課長様ともなれば日々が忙しいもの。でもさぁ」

"たかが課長ごときが部長様を前にしていびき掻いて寝てんじゃないわよ"

そいつから注意を受けた俺はぼんやりした頭をフル回転させた

そうだよ。俺はこいつを、部長様を誘って飲みに来てたんだったよ。うお、なんで忘れてんだよ俺の馬鹿!

ああいかんなぁ酔いすぎは

仕事柄下手に飲み過ぎて二日酔いとか困るから休みの前日にしか思い切り飲めないんからなぁってアホみたいに飲んでたんだよ。ああいかんいかん

そんでその部長様ってのは、俺が昔好きだったあの子だった
俺課長、こいつ部長、俺が寝る、非礼
まあ当たり前だわ


いやしかしホントに偶然ってあるもんだよなあ

三流高校卒な俺が死ぬ気で勉強してさ。最下位クラスとはいえ東大受験に合格してキャンパスでこいつと再会したわけなんだけどよ

マジで驚きっつーか挙動不審になっちまったよ

人間不信になった原因にして、いまでも内心想い続けてた元同級生の女と東大でまた出会すとか運命的じゃん?

まあさ、振られてんだから脈なしなのは分かってんだけどちったあ期待するよな


といってもまた告白とかもう弱りきったハートにゃ無理だからなんにも言えず終いで大学院まで行って卒業
俺もこいつもまた偶然にも同じくして同じ省庁、厚生労働省なんだけどよ。そこに入省して、俺もこいつも順風満帆な出世コースに乗ったんだなこれが

でもな、出るんだよ。元アホ・・・ま今でもんなに変わらねーけど勉強できるアホくらいにはなれた俺と
マジなエリート街道ばく進中だったこいつとでは自力の差ってやつがさぁ

俺は厚生労働省課長
こいつは厚生労働省部長

つまり上下関係で差が開いちまったわけよ

ああ別に不満はねーよ?

そもそもの俺の夢ってのが官僚になる
あるいは政治家にだったから

念願だった官僚になれて、ましてや順調な出世コースに入っててさ
それも初恋にして今恋でもあるこいつと一緒の省庁に入省と来たもんだ

思わずキターーて叫びそうになったよ入省初日には
ま、そんな馬鹿はもうとっくのとうに卒業してっからマジでやったりしないけどな(笑)

んでまあ連休前だし?なんとなく誘ってみたのよ
したらばどうよ?誘いに応じてくれて俺氏ドギマギだよ
いざ顔付き合わせて飲んでると学生時代の思出話とか、あの子犬拾いアーンドその後の軽蔑事件とかまあ出るわ出るわね昔話

苦い思い出もいっぱい

だけど好きなこいつと昔語りしてるとさ、ついつい酒も進んじゃってまあ酔い潰れてた

不安でいっぱいなのになぜか安心できる

それってやっぱまだ俺がこいつを好きで、好きなこいつが誘いに応じてくれて
だからなのかな。まあ安心しまくりよ?

「ハァ、」

「どしたよ部長様?」

「いやね。ほら私連休明けにはアメリカに出張じゃない? 日本から離れると思うとさあなんだかこう寂しくなるわけよ」

ああそういやこいつ近くアメリカに出張だったな

アメリカ合衆国。第二次世界大戦では大日本に"破れども"同じ敗戦国中華連邦同様に条件付き降伏に留められた国

大日本帝国と、南半球の覇者合衆国オセアニア、そして欧州を纏めあげたナポレオンを祖とする国家社会主義ユーロピア労働者党率いるユーロピア第三帝国に次ぐ世界第四位の大国だ

ナポレオンの欧州制覇で旧ブリタニアやらフランスやら、主要な欧州王政国家の皇族・王族・貴族が軒並み処刑されていく最中、ベンジャミン・フランクリンやジョージ・ワシントンらがいち早く民主主義国家として独立させた東部13州を基にして発展させていった北アメリカ中央に位置する大国でもある
そして万能資源と称されるサクラダイトの一大生産国にして技術の日本と呼ばれて恐れられる大日本帝国にただ一国真っ向勝負を仕掛けてきたヤンキー魂溢れる国家だ

結果についてはまあ歴史の通り、太平洋全域は勿論の事、日本に北はアラスカ、ワシントン州・アイダホ州から南はアリゾナ州・ニューメキシコ州までとロッキー以西の全域+アルファを割譲される形で降伏。当時の対日戦争を行った責任者フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領を始めとした主要な閣僚と軍高官が戦犯として処刑されたわけだが

その後はオセアニアの民主共和制原理主義を封じるためにと日欧同盟に加わる形で日欧米三国同盟の一角を成すほどに急回復した奇跡の国
だが一方では日欧の腰巾着やらとまあ色々貶されてる国家でもある

「アメリカ出張ったって日本国内のロス辺りの都会だろうに。なんでそんなに憂鬱そうなんだよ」

ロスは日本領西アメリカの中心都市だ。はっきり言って東京ほどではないにしてもいまや日本本土の大都市大阪と争うほどの、大日本帝国第二位の都市といっても過言ではない
正直日本の衛生国の一つである北米カナダのどの都市よりも余程発展している
治安も良く住みたい都市ランキングでは常に上位に入るほど。なにをそんなに憂鬱そうにするのかわからん

「ハァー、あなたってホントににぶちんよねぇー」

「な、なにがよ? てかなんだよ唐突に?」

俺が鈍いのは昔からだ。ひとの感情に疎くて実は好かれてたのに嫌われてたうざがられてたと勘違いしていたことがわかったこの間の同窓会では、嬉しはずかしな立場に立たされていた

みんなに好かれていた

んなもん予想外も予想外だよ

恋愛的に好かれていたとかいう話もちらほらで、だからって今さら教えられてどうしろってのよ、ってな

「ああもうクソにぶちんなたまきんめー!」

「うおっ!」

なんか叫んだと思えば部長様は俺の頭を脇に抱えてグーにした拳を頭に押し付けてきた

「痛い痛いっ! 痛ぇってちょっとおい!」

「うっるさーい! 私の気も知らないで呑気にしてるたまきん見てると頭にくんのよーっ!」

なんのことだよわけわかめ?
つかおまえの体はボンキュボンな凶器にして色香たっぷりなんだからやめてくれー!
お、俺のなけなしの理性が色々とやっべーよ!

「てーか、たまきん呼ぶなーっ!」

飲み屋でじゃれてる?のかねぇ
俺とこいつを見て「よっ! にーちゃんすみにおけないねっ!」「ちきしょーっ! あんな人相悪いやつになんであんな美人がーっ!」なーんて声がかかる

……も、もしかして、俺って脈ありなの?

ちーとばかし期待が高まる

ああ、もしそうなら嬉しい
昔の恋が時を経て実る。ロマンチックじゃねえか
いやいや、ロマンチックとかどうでも良いわ!
俺、こいつとマジに結ばれるなら、恋が成就するなら今のポストから出世しなくても・・・

ん?

そう考えたときだった。なんだか肝心な事を忘れてるよーなぁ・・・?

んーなんだっけなあ?

とっても重要で、でも信じられなくて・・・


あれ?

信じられないってなにをよ


あー、わからん

難しい事考えると頭が痛くなる
難しい事考えるなんて最下位クラスとはいえ東大卒の俺にはわけねーのに

んん?

東大?

帝大じゃなかったか俺が受験してたのって

ああ、わからん

とりあえずこいつはアメリカに主張することがーーーーーは?

アメリカ?

あれ? んな国あったっけか?

ああ、いやいや、アメリカ合衆国は普通にあるよな
世界第一位の超大国、大日本帝国の同盟国だもんな忘れるわけ・・・・・・第一位? ありゃ? 日本て第一位だったか?

「こらぁ! たまきん課長! 部長の私を無視して考えに耽るとはいい度胸してるじゃない!」

「いっ?! あ、すんません部長書類は期日までに!」

「なに呆けてんのよたまきん! もうそんなだからたまきんなんて渾名付けられんのよ~っ?」

「いやいや関係ねーからね? たまきんとか呼んでるの同窓生のおまえらだけだかんな?」

ふう。疲れてるのかねえ?
毎日毎日書類と格闘してるせいか変な事ばっか考えちまう

ま、いつもの気のせいなのはわかんだが、なんかなー、引っかかんだよなー
こう、のどの奥に何かしらつっかえてるみてぇな違和感

気持ち悪い感じ?

はぁ、なんか最近よく変な考えに耽る事があって困るわ
嫌だぜこの年でまさかのアルツ発症とか
でも若年性とかあるし放置も不味いか

ま、人生堅実がモットーな俺の場合貯金ばっかしてっから金はあるし近々人間ドック行っとくかな

ほんと貯金が趣味になっちまってんなぁ

ここだって部長様の奢りだしよ

「えへへーたまきーん♪」

急に猫なで声になる我が上司様
うう、いい加減離れてくんね?
俺いつまでも理性保てるほど紳士でないよ?
っかし、いい匂いだわ・・・
昔と全っぜん変わらん香りだわ

いっそのこと酔いに任せて押し倒してやるか?

あー、いやそれはいかんよな
これでも厚生労働省の課長なんだから
公務員で官僚なんだからいかんよいかん

厚生労働だけに更正しないと、なんちゃって

「うりうりたまきーん! 私が出張するからって泣いたりするんじゃないわよー!」

「し、しねーし、口うるせー上司様がいなくても平気のへーざだぜ?」

だって俺にゃ世界が敵に回っても味方でいるってやつが・・・・・・って、は? んなのいたっけ?


ーーーーーお兄ちゃん


「ーーーっ!?」

痛い。痛いよ頭が。なんかすげー痛い
一瞬浮かんだのなんだあれ。誰だよ今の声。小柄でピンクかベージュっぽい色が見えたような・・・


ーーーーーシン兄様


「痛って!」

まただ。またなんか変な頭痛がした
今度は薄紅っぽい何かが

頭・・・・・・髪の毛の色?

いやちょっと待ておかしいだろそれは
ピンクだ薄紅だどんな色だよそれ
人間の髪の毛の色って基本は黒か茶か金だろ

ああ

痛い

気持ち悪い

なんだよこれ

くっそ、好きな女と酒飲んでんのになんでこんな違和感やら頭が痛てーやら変な感じが

「たまきん、顔色悪いけど大丈夫?」

あいつが心配して覗き込んでくる

「なんかさ、さっきっから頭が痛いんだわ」

「あー、たぶんそれ飲み過ぎよ。寝入っちゃう前にがばがば飲んでたもの」

「あっ、そっか、俺さっき寝てて・・・おー痛つつ!」

「・・・・・・帰ろっか。飲み過ぎるのもよくないしね」

「だな」

「払いは私持ちでいいから」

「け、けどよ」

「部長の私が課長の玉城くんに奢らせるわけにいかないでしょ」

「悪いな・・・」

「いいっていいって、気にしないで」


でま、なさけねーことに自宅まで送ってもらっちまったわけで、なんかまあ成り行きと申しますか



大人の展開になっちまいました・・・

手術は無事に終えた。後は患者自身の生きる力だが

偶然にもあいつが運ばれてきた時に身元引き受け人とその娘だと名乗り出た少年、いや男性と少女の血液型が、患者の型と完全に一致していたからギリギリでの出血性ショックは防がれた

男性は一度所用があるといって娘さんを残して病院を出ていったが娘さんは手術室の前でずっと泣きじゃくっていた
ナースが休憩室の方へ連れていったようだがずっと悲痛な声で泣いていた

回復に向かってもいいはずだ

回復に向かうのが普通な、正常な反応のはずなんだ

なのに回復どころか心拍脈拍呼吸全てが下限知らずに下がりつつある

まるで生きる気力その物が無いかのように

「いい加減にしろよこのうざ野郎。こっちは毎日必死にがむしゃらに生きてるのに人様に迷惑ばかりかけてきて、あんな可愛らしいお嬢さんまで泣かせて、なに悟りを開いたみたいな顔して寝てるんだ」

私はこの患者を知っていた

帝都在住飲食店店員の玉城真一郎

ちゃんねる伍式というインターネットの巨大掲示板の政治・公務員関係のスレで昔『名無しの事務次官』を名乗っていた男だ

一度だけだがリアルでのオフ会で会ったことがある

そのオフ会は場所こそカラオケ屋という意味不明なチョイスだったが割りと真面目に政治家について、官僚・公務員について、世界情勢についてを語り合うものだった
年齢層は様々だった。40台の自称弁護士先生。30台の自称ではない医者こと私。30台の自称学校教師。20台の自称帝国陸軍中尉。全員男

私が自称といったのは彼らの本当がわからないからにすぎず、現実にそれらの職業に就いていたのかも知れない

そんな中でこいつは最も若く実名か偽名かは不明だったが玉城真一郎と名乗りあげた上で20の大学生だと話していた
見た目からしてそのくらいの年頃だったので本当の事だろうと皆は皆でそれとなく納得していたが、オフ会としては相手のリアルを探らない暗黙のルールがあった為、その時のこいつが本当に大学生だったのかは今となっても分からずだ

そんな自己紹介のあとに始まった政治公務員官僚論議。こいつも最初は真面目に議論に参加していた

最近の外務省の対応は
日本はラプラタ戦争時のオセアニアへの対応に対して弱腰だったのではないか
公務員制度改革について

まあ色々と織り混ぜながら議論は進んでいた

しかし名無しの事務次官は次第に飽きてきたのかいきなり曲を入れてカラオケを歌い始めた

まあカラオケ屋なんだから多少はな。みんな一様に考え少しの間だけカラオケを楽しんだ

しかし少しのつもりが、こいつだけは延々とカラオケを歌い続けて酒は注文するわ、絡んでくるわと場を白けさせてしまい、堪えかねた一人のメンバーが帰るわと言ったのを切っ掛けに、次々と抜けていき、やがて最後まで付き合っていたのは私一人となっていた

その時に『テメーもつまんねーなら帰れよ』とふて腐れていたことは今でも覚えている
私は、そう私はその一言に無言で立ち上がりカラオケ屋を後にした

翌日から名無しの事務次官は政治関連スレに姿を表さなくなり、実名か偽名かわからなかったが玉城真一郎という名前こそ出さなかったが、オフ会メンバーたちは皆口々に名無しの事務次官はうざい。自分勝手でエラソーにしてて腹が立つとスレが悪口一色の染まるほど不満を書き立てられていた

結局彼はその後一度として現れることがなく、今も政治関連スレは平穏な議論スレとして進行している

それから数年がすぎ。私はある時、政治スレから飛んだ先。大日本の家族的同盟国ブリタニアの貴族についてを語るスレで『名無しのバーテン』というコテハンを目にした
そしてその言動やら横入りレス等を見、過去の夢やその内容に自分語りまで聞いた辺りでこいつが名無しの事務次官と同一人物だと気が付いたのだ
カラオケ屋でのオフ会らしき話まで語っていたので間違いない

いまはギャンブルスレや貴族スレでごろを巻いているらしく、相変わらずだなと呆れさせられるばかりだった
当然お互いに不干渉を貫いた。まあ私の場合政治系のスレ以外では掲示板で設定されている名無しの◯◯のままで通すことが基本だから通常運転なのだが

どうやら彼が本当に帝都内で飲食店の店員をしているらしいことは話の内容から掴めていた
だからといって何がどうなることでもなかったが

そんな変わらぬ日々。彼は、こいつはまた掲示板内でおちゃらけながらも鬱陶しがられながらもそれなりに上手く住人とは付き合っていたらしい

書き込みも年単位。ずっと住人をやれている辺り少しは空気の読み方等を学習したのだろうか? と思えば、そうでもないところがこいつらしいといえばらしかった

そして今日、コテハンの一人名無しの無職とオフ会をするといった話になったと聞いて昔大失敗した一件を久しぶりに思い出していた

オフ目的が競艇らしかったので政治オフの時のような下手な失敗もないだろうと、昼休憩の時もとくに気にすることなく過ごし私は仕事に戻っていた

そうして夜も更けてきた頃になり急患が一人運ばれてきた

ここは帝都東京。人口は優に2000万を超える人口密集域だ。眠らない街とも呼ばれる大日本帝国最大の都市だ。事故、病気、怪我等により急患が運び込まれることなど珍しいことではない

ただそう、ただ一つだけいつもと違うとすれば

それは運ばれてきた急患がこいつ、名無しのバーテンこと玉城真一郎であったということだった
手術その物は成功。我ながら最高の腕を振るえた自身も手応えもある

身内ではなくとも知らない仲ではない。どうしても見知らぬ患者さんより力が入ってしまうのは人間なのだから勘弁していただきたい

そうだ。手術は成功したのだ
輸血により喪われた血液も寸でのところで何とかなり、世界最高の医療技術を誇る我が日本の本領も発揮できた
塞いだ傷口もその痕跡すら残すことなく消える。そのはずなんだ

だが、だがこいつは、名無しの事務次官は確実に死に向かって進んでいる。消えてない命の火は蝋燭の寿命が近づいているかのように消える方向へと進んでいる

なぜだ?

死ぬはずがない

手術は完璧

運び込まれてきた時は重傷で意識もなかったが、重体とまではいってなかった

それなのに、これではまるで

本人が死にたいと望んでいるようではないか・・・

「手術は成功しました。重傷ではありましたが命に別状はありません」

私は手術室の前に集まっていた名無しの事務次官の関係者たちに術後の経過を嘘偽りなく話すことにした

正直に言おう。私はこの面子を前にしてしっかり話せている自分自身を褒めてやりたいと考えている

それほどにあの名無しの事務次官の身元引き受け人の親族の面子がなんというか・・・滅茶苦茶なのだ

「で、では兄様はっ! 兄様は助かるのですねっ!?」

話始める私に真っ先に食いついてきたのは薄紅の腰まで届くサイドテールの髪をした女性

その御名をマリーベル・メル・ブリタニア。同盟国ブリタニアの第88皇女にして見事強大なる民主共和制原理主義組織ペンタゴンの主要幹部を討ち取り、南ブリタニアの対テロ紛争を終息させた大グリンダ騎士団の最高司令官でもある

明らかに私服と思われる白のワンピースに身を包んだご本人はマリーベル・ランペルージと名乗られて御出だったが、背中まで届く濃い金髪を二つに分けて結っている女性マリーベル殿下の筆頭騎士ナイトオブナイツのオルドリン・ジヴォン卿が隣にいては偽名を本名と言い張るには少々説得力に欠けすぎていた

いや、まだナイトオブナイツだけなら誤魔化しも効いたかも知れない

「あのっ、本当にシンイチロウさんは大丈夫なのですか?!」

言い澱むこちらの心の奥まで見透すような瞳を向けてくる小柄な少女

薄い茶、薄い黄土色か?の髪色をしたウェーブのかかった長髪を持つ儚げで優しそうな印象深いその少女。ナナリー・ランペルージと名乗られているが、間違えるはずがない

政治・官僚スレに何年いると思っているのか
医者として医療面における提携も結んでいるブリタニアについてどれだけ勉強してきたことか

ナナリー・ヴィ・ブリタニア

日本に留学中のブリタニア皇室ヴィ家の皇女殿下だ

「マリー、ナナリー、あの馬鹿が死ぬ。そんな事が考えられるか?」

「ルルーシュ」

「お兄様」

二人を励ますのはルルーシュ・ランペルージという男性
もう多くを語る必要なんてない

ヴィ家のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇子殿下

彼等の護衛にはヴィ家の名高き親衛隊長である青髪の美青年ジェレミア・ゴッドバルト卿と、その妻君となられる予定らしい長い銀髪を一つ括りにした褐色肌の美女ヴィレッタ・ヌゥ卿、ヴィ家親衛隊次席指揮官の茶髪の美丈夫キューエル・ソレイシィ卿までいる

ならばこの帝都総合病院へと再び来訪した少年姿の男性と、休憩室から連れてこられたのだろう膝辺りまで伸ばされたピンク色をした髪の小柄な少女は、噂に聞くブリタニア帝国シャルル皇帝の実兄親子ではないだろうか?

「ねぇ先生っ! お兄ちゃんは大丈夫なのっ! 大丈夫だよねっ! 大丈夫だって言ってよっ!!」

その鮮やかなピンク色の長髪を振り乱しながら少女が叫ぶ

「先生っ! 仰ってくださいお兄様は大丈夫だとっ・・・!」

マリーベル殿下も叫ぶ

「クララ、マリーも落ち着くんだ。ここで泣いて叫んで無理言って。それでシンイチロウが回復するのかい?」

黒のマントに上下揃えの豪華な白い衣服に身を包んだ足首まで届くほどの物凄い長さをした淡い金髪の少年姿の男性が二人を宥める

「おじ、さま・・・」

「パパぁぁ、お兄ちゃん死なないよね? 死なないよね!?」

「大丈夫。大丈夫だよ。馬鹿は殺しても死なないんだ。起きたら試してみるつもりでいたらどうだい? そのくらい気を楽にして待つんだ。そんな張り詰めてばかりいちゃ、体も気力も持たなくなるよ」

ああ、マリーベル殿下が叔父と呼んでるということは、この男性は噂のブリタニア皇帝の兄君で間違いないなIDでもそうと結論付けられる御年令だった。そしてピンクの長髪の少女はシャルル皇帝の兄君のお嬢様にして皇室の親戚だ

名無しの事務次官。おまえの身元引き受け人や交遊関係はいったいどうなってるんだ

「その様子では、術後の玉城くんの経過は芳しくないようですね」

そんなやんごとなき方々の後からやってきたのは灰褐色のスーツに丸眼鏡をかけ古めかしさを感じさせる帽子をかぶった中年過ぎの男性だった

昨今平均寿命が120~150の超長寿大国となった日本およびブリタニアの人間では60を過ぎたくらいは初老とも呼べない

それはいい。いやそれこそどうでもいいことだ。現実逃避だ。やってきたその男性の正体がとても怖い話がつきまとう大日本帝国政財界の超大物だったからだ

「つ、辻正信、閣下」

「ああ、閣下なんて大袈裟です。辻と気軽にお呼びください」

冷静だったり無表情だったり、とにかく静かな人物像な辻元大臣らしく眼鏡の下の瞳はにこやかに笑っている
親しみやすさを感じさせる微笑みだ
だが黒い噂が常につきまとうこの方の笑みほど恐ろしく感じられるものはない

とにかくここは私の領域
私の戦場だ
故に誰が相手であろうとも臆するわけにはいかない
事実だけを伝えるただそれだけだ

辻元大臣の後ろからまたぞろやってきたコーネリア・リ・ブリタニア駐日大使にユーフェミア・リ・ブリタニア駐日大使補佐官の姿を見ながら、いま病院の周囲は私服の警護部隊に取り囲まれているんだろうなと考え巡らせながらも平静さだけは保ちながら

「手術は無事に成功致しました。完璧なる成功です。ですが・・・回復傾向にはありません。むしろ・・・」

「死に、向かっている・・・といったところでしょうか」

辻元大臣が私の言葉に重ねるように告げてきた

「はい・・・生きる力、生きようとする気力がまるで無いかのように、全ての数値が低下の一途を辿っております・・・辻閣下、ブリタニア御皇室の皆々様、正直にお伝えさせていただきます。医者としての見地から申し上げますが」






夜明けまでは持たないでしょう

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最終更新:2018年04月07日 09:50