655: 第三帝国 :2018/04/22(日) 11:38:41


銀河連合日本×神崎島ネタSS――——――「夢幻」


「馬鹿な!
 捕虜の処刑など正気じゃない!」

「これは同盟国ドイツからの要請で――――――」

「参謀長は国際法をどのようにお考えか!?」

フェルは夢を見ていた。
しかし夢にしては奇妙に臨場感に溢れ、自身に関わりのない内容であったので違和感を覚えた。
しかも本当にその場にいるかのごとく、匂い、空気を感じ取ることができる

「コレは・・・?」

疑問を口にする。
会議室で軍人たちが言い争っているのは分かる。
だがどうして自分の夢に出てくるのか理解できなかった。

場面が変わる。

「青葉より信号。
 『捕虜ハ数人ヲ除キ、規定ノ方針ドオリ直チニ処分セヨ』」

「返信!
 『捕虜は洋上で処分することなく、白人は飛行基地の建設に、インド人は気帆船の船員として使用するを有利と認む』」

ここが軍艦の艦橋であるのは最近知ったばかりである。
フェルが初めて見たときは技術的な意味で興味が非常に刺激された場所であった。
何せ文字通り人間の五感だけを頼りとする船などティ連合において既にないものであるからだ。

しかし、今まさに艦橋で交わされている会話の内容にフェルは顔を青ざめる。

「艦長!
 青葉より『直チニ処分セヨ』とっ・・・!?」

「くそっ、『未だ尋問終わらず』と伝えろ!」

視界の先にいる重巡を睨み、歯ぎしりをする艦長とよばれた男。
フェルはその仕草が誰かに似ている気がした。

また場面が変わる。

後部甲板で家庭では良き父、あるいは兄であった者たちが斬殺され海へ落される。

「主よ、許したまえ」

命令を下した艦長。
黛治夫が手にした十字架を握りしめて呟く。

フェルはそれを止めようとして――――――。

「ここまで」

と、誰かに唐突に言われて意識が暗転した。

656: 第三帝国 :2018/04/22(日) 11:39:28

フェルフェリア・ヤーマ・ナァカァラは自分が意識を明後日の方向に行っていたのに気づいた。
ここは神崎島がフェル用に与えた事務室(といってもなぜか突撃バカのデスクが隣にあることでお察しであるが)であり、事務室が鎮守府内にあるため何かと理由を言っては会いに来る艦娘が大勢おり、今まさに目の前にいた。

「フェルフェリアよ?
 ちと、ぼんやりしている様じゃが大丈夫か?」

「え、あ・・・はい」

そしてじっとこちらを見る人間、艦娘の名は利根。
いつもの神崎提督のエロ煩悩を刺激する深すぎるスリットスカート姿ではなく、教会のボランティアから帰ってきたばかりなのかシスター服姿だ。
時刻は丁度夕方の時間帯を指しており、部屋は夕日の茜色に染まっている。

「・・・ふむ、宇宙人も人ゆえに『呼ばれた』のか?
 いいやお主らの宗教観、あるいは死生観は亡者を信じぬ、だからこそ『見せた』のかもしれんなぁ」

亡者の類は人を驚かすのが好きじゃからのう、と利根は述べる。

「ナンの、話でデスカ・・・?」

「ふーむ。
 ちと説明するのは難しいのう。
 何せ先も言ったようにお主はゾンビを見ても怖い、と感じぬ感覚ゆえになあ」

頭を掻きつつ利根がぼやく。
日本人と色んな意味で(ヤル研含み)気が合うティ連の宇宙人たちだが、ティ連の神様仏様の感覚がない点においてはいくら無宗教的な日本人といえども違和感を拭えぬ点であった。

「ううむ、そうだ!
 早霜の言葉を借りるならば『怨念が、おんねん』、というわけだ!」

「・・・えっと、意味わかんないデスヨ」

唐突に始まったギャグにフェルは思わず突っ込みを入れる。
この艦娘は意外と子供っぽい所があるのを知るため『また始まった』と感じる。

「いやいや。
 これほど艦娘の存在を表現する言葉はないぞ?
 我輩らは物理法則に対して真正面から喧嘩を売っている存在。
 そして等しく『過去の因果』に囚われ無念、怨念を抱いてこの世に留まっている」

利根は口元だけ笑いながら続けて語る。

「赤城、加賀達のMI作戦。
 瑞鶴のエンガノ岬沖海戦。
 比叡、霧島のアイアンボトムサウンド」

フェルはゲーム「艦〇れ」が過去の戦いをモチーフにしているのを思い出す。
調べた時には深く考えていなかったが利根の言わんとすることに朧気ながら理解する。

「そして我輩のビハール号事件。
 我らは過去の因果と無念が絡まった存在。
 無念と後悔を抱いて今なおここにあり続ける」

そう言って利根はじっとフェルを見る。
フェルはどう答えれば良いか分からず返答に窮する。

657: 第三帝国 :2018/04/22(日) 11:41:05
「なんて、冗談じゃ。
 ちと、からかい過ぎたようじゃな」

ニカッと笑みを浮かべる利根。

「冗談、デスカ」

「そう、冗談じゃ。
 そしてそなたが見た者は夢幻の類よ」

その回答にフェルはようやく名状しがたい重圧から解放された気分になる。
いかし夢幻にしては臨場感が溢れていたのをフェルはよく覚えていた。

背筋の寒気が取れていないのを気にしつつ、「艦娘と深海棲艦という新たな種族の歓迎をしたい」とする、ティ連合からの親書に答える形で神崎島から艦娘代表として派遣することになった吹雪、深海棲艦側からは駆逐棲姫。
その両者と柏木の東京で行う予定となっている記者会見の手順と内容について確認兼雑談を始めた。

利根も担当者として実戦と同じく真剣に対応し、普段の子供っぽい口調から連想できぬ聡明さを発揮する。

もっとも・・・。


「スカイツリーに浅草!
 それに時間の余裕があればディズニーランドも行きたいなぁ!」

「エット、お土産ハ東京バナナデイイカナ?」

当の本人たちと言えば応接ソファーで騒いでおり、修学旅行生気分な吹雪、それに駆逐棲姫を見てフェルと利根は揃って苦笑した。





おわり

658: 第三帝国 :2018/04/22(日) 11:47:06
以上です。
次回いよいよ記者会見の回となります。

では

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最終更新:2018年04月26日 11:35