43: ひゅうが :2018/06/04(月) 02:06:31


 艦こ○ 神崎島ネタSS――「ノールール・ノーピース」



無主先取という原則がある
簡単にいえば、誰も所有していない土地や島は、先に発見した者の所有するところとなるということになる。
いわれてみれば当たり前のことのように思われるだろう。
しかしながら、ことが大海の上になると事情はやや複雑になる。
発見された島々が、重要な航路上にあったり、島に重要資源が存在していたりしたのであれば経済問題や軍事的な問題を生むことになるのである。
海軍が大洋を押し渡る際にこれらの土地、あるいは島々は絶好の停泊地となるのであり、さらに航空機が洋上を駆けるようになると下手をすれば爆弾を搭載した航空機の出撃拠点となるのだ。当然であろう。

こうした理由から、新たに島々が発見されるとその所有者は常に海洋を自在に行動できる力を持つ人々の関心の的となっていたのだった。
そのため――




――1937(昭和12)年12月15日 南波照間諸島沖合 200カイリ線上


『こちらは、神崎島鎮守府管区 海上警備隊です。貴艦は本管区の排他的経済水域(EEZ)に接近中です。接近意図の通知を願います。』

「やはり早いですな。『船長』」

「うむ。やはり航空機による定期哨戒か」

船長、といわれるわりにはやけに背筋の通った人々が白い船を興味深そうに見つめていた。

「KCG。コーストガード(沿岸警備隊)のようだな」

「軍艦を出してくる基準がわかりにくいですね。」

アメリカ船籍を有する海洋観測船『ビーグル』の任務は測量である。
軍艦を用いた海底地形の調査や島嶼の測量は行われているものの、やはり専門の船に勝るものはない。
この時代の海図は軍事機密の塊である。
であるからどの国も海図の改訂には熱心であった。

「ならばそれをはっきりさせねば。」

船長は別に何がしかをしかけるつもりはない。
この海を時にわが物顔で行きかう漁船団よりはよほど「紳士的」にことを運ぶつもりであった。
この時代、領海についての国際的な統一見解は存在しない。
英国にならって3カイリを領海とする見解、そして経済的理由を主として領海はいくら拡張できるかが曖昧になっていたのだ。
それ以外の公海上においては、誰が何をしてもおとがめなしであったのだった。
海洋自由の原則はこの頃から普遍的である。
領海内であっても他国の軍艦は無害通航の権利を有する。
ただしこの無害通航の定義についても意図的に曖昧になっていた。
そこへ「排他的経済水域」の概念をもつ何者かが登場した。
ややこしいのは、それが出現した海域が、古来から公海とされていた海域上であったことだった。
国際法を知らぬようなフィリピンの漁船でも、また海洋上で操業することになった最盛期に比べればはるかに数が少ない捕鯨船団でも、いきなり出現したものが自国の縄張りと主張されれば面白くはないに決まっている。

それがさらに合衆国からフィリピンという植民地とんで同盟国となりつつある存在の航路上にあってはなおさらである。


「臨検は受けよう。それに伴い、連中にたずねるのだ。彼らの法のよってたつところを。
そしてそれが正義によってたつものでなければ――」

ただ武力をちらつかせて戦いを挑むような時代は少なくとも欧州においては終わりを告げている、と認識されている。
パリ不戦条約こそがそのもっとも偉大なる成果となる。
たとえ、戦争行為に類似するものを「事変」あるいは「紛争」とラベル替えするだけであったとしても。

しかし何という皮肉か。と船長は思った。
合衆国は、1920年代以来、北方アラスカ海上における日本漁船団の跳梁に声を上げて抗議していた。
これは正義であるはずだ。
にも関わらず、今このときはフィリピン航路の権益保持のためにこのようなゲームを仕掛けている。
何より、合衆国が大きく非難していた中国大陸における合衆国のアドバンテージ維持のために。
アメリカの正義という言葉だけを信じていられるほど、もはや船長の年齢――あの大恐慌期に青年期以上であった――はうぶではない。
だからこそ、船長はわずかに非対称になってしまった笑みを浮かべるにとどめた。

「あのコーストガード船に発光信号。所属と船名を知らせてやろう。『ワレ貴船ノ臨検ヲ受クル用意アリ』とな。」


――1937年、太平洋はいまだ静けさを保っていた。

44: ひゅうが :2018/06/04(月) 02:07:25
【あとがき】――私のわがままで第三帝国氏に迷惑をかけてしまいましたので、一本記しました。まことにすみません。

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最終更新:2023年12月10日 18:22