748: 陣龍 :2018/06/18(月) 22:25:32
|д゚)

|д゚)…誰も居ないっぽいですな(確認)

|д゚)では一発ネタ爆撃。因みに74(確か)で投稿した奴のリメイク(?)擬きになります

|д゚)後キャラ崩壊している可能性有りますのでそこらへんご注意願います、はい

749: 陣龍 :2018/06/18(月) 22:28:52
『終焉の出撃』


――――1998年某日。呉軍港・某埠頭


「……全く、何時になったら沙汰が下りるんだ?廃艦でも記念艦でも、どちらでも構わないが放置し続ける意味は無いだろうに」


 日本海軍のある種の聖地にも似た重要拠点に、その艦は有った。


「こうして係留しているだけでもかなりの領域を占有している上、幾ら簡単な掃除以上の整備は施してい無いとは言え維持費用も結構なモノなハズなのだが」


 この艦の歴史の始まりは、この国が『帝国』を名乗り、『世界の列強』と言う幻想と麻薬に罹患し、増長と暴走の萌芽を見せ始めた『大正』の時代。


「私としても、軍務とは無関係にわざわざ休日や休憩時間を使ってこの艦を清掃してくれている彼らが忍びない。確かに過去には活躍出来たかもしれないが、今となっては唯のオンボロな旧式艦だぞ……」


 『連合艦隊の生き字引』『原点にして頂点』『日本の誇り』その他多数の賞賛や畏敬の念を持って讃えられていた、栄え有るビックセブン最後の一隻。


「流石の長門さんも、こんなに長い間ほったらかしにされたら弱音も吐かれるんですね」
「……弱くなったと我ながらに思うが、もう航行出来るかも怪しくなっているからな。そう言わないでくれ……雪風」


 船縁に両手を置いて海を眺めながら、記念艦として陸に上がってから会う事は少なくなっていた数少ない帝国海軍の生き残りである駆逐艦・雪風の声に応えた艦霊。その名を、長門と言った。




「それで、一体どうした?私としては、久し振りに君と敢えて嬉しくは有るのだが」

 そう言いながら雪風を見遣る長門。半世紀以上前のあの戦争から大分年月が経過したせいか、あの頃のリスの様な小動物染みた可愛らしかった姿から、今では大人としての落ち着いた雰囲気と聖母の如き柔和な笑み、そして少女の様な健やかさを併せ持つ綺麗な女性へと成長していた。

「……長門さん」
「……うん?」
「……その様子だと、本当に何も知らないんですね」


 小さな溜息と共に甲板へと視線を逸らした雪風の姿に、一体全体どういうことなのか見当がつかずに疑問符を浮かべるしかない長門。


「……支那で今、中国共産党と満州が国境線で軍隊を揃えて威嚇し合っています」
「何…?……そうなると拙いな。満州はロシアの経済や軍事、極東戦略における絶対的な生命線だ。仮に戦闘に発展しようモノなら確実にロシアが介入して大戦争になる。連動して半島でも動乱が起きかねないし、日本にも多大な被害が出るかも知れん……いや、最近は韓国が異様に日本に対して敵対的言動を繰り返している事も鑑みると、確実に出るな……」


 雪風の伝えた一言から自身の知る情報を照らし合わせて、現在の日本が置かれている戦略状況を大よそ把握出来た長門。艦体こそ歴史を重ね過ぎて錆び付いてしまったが、経験と記憶によって弾き出された頭脳の冴えはまだまだ錆び付いては居なかった。


「……だが雪風。そうなると妙に動きが無い様に思えるのだが、若しかして私は艦歴を重ね過ぎておかしくなったのだろうか?特に在日アメリカ海軍が動いた様な気配が全く感じられないのだが」
「……何で同じ情報一つ取るだけで、これだけの差が出るんでしょうね。いや、同盟国の元首や夫人に長官とは言え【あんな連中】と比べるのが長門さんに失礼過ぎますけど」
「……雪風?」


 まるで頭痛を堪えるかのように目頭を押さえて一人で呟く雪風の姿に、相変わらず情報不足のせいで置いて行かれっぱなしな長門。
そんな長門も、雪風から伝えられた現在の状況を伝えられる度に、長門らしくも無く引き攣った笑みと困惑を通り越して思考停止してしまいそうになってしまったのだが。

750: 陣龍 :2018/06/18(月) 22:31:28



「……今日はエイプリルフールだったか?それにしては気候が合わない様に思えるのだが」
「現実逃避する気持ちも雪風は十分分かりますけど、凄く残念過ぎる事に全部現実です」
「…………そうか。ありがとう、雪風。状況を教えてくれて感謝する」
「どういたしまして、です」


 長門に感謝された事を嬉しそうに微笑みながら言葉を返す雪風。だがそんな雪風を他所に、長門は今までに無かったほどの
激しい怒りと憤りに苛まれていた。現状認識力が極めて甘い数名のアメリカ人に対してではない。一朝事が今現在起こりつつ
あるというのに、何も出来ない自艦に対してである。


「……口惜しいな」
「何がですか」
「もし……もし、今の私の艦体がもう少しマシで有ったのなら、この状況を喰いとめる為にも出撃出来たかも知れない。現代戦に対応出来るとは言い切れないが、少なくとも何かの役に立ったハズだ」


――――女々しくなったものだ、私も

 雪風に聞かれるがまま自身の口が勝手に語った言葉に対して、内心自嘲する長門。『たられば』をいくら語った所で何も変わりはしない。今係留されている戦艦長門は、長すぎた艦歴に加えて長期間重整備も無く放置されていたせいもあって、最早数ノット出す事にすら難儀し兼ねない老朽艦以外の何物でも無いのだ。そんな艦が無理に出て行ったところで、この状況を打破すべく動き出している後輩達の邪魔にしかならない。







「その言葉、嘘偽り有りませんね?長門さん」
「……ああ。だが、私の意志だけでは、最早如何にも出来やしない……」
「それならば……託させて頂きます、私達の力を」
「……なっ?」


 ……『常識に則れば』の話だが。



―――駆逐艦磯風、出る。……すまないな、長門さん。今の私にはこの程度の事しか出来ん
「磯風…?!」

 誰も居ない筈の艦内。その艦内で、雪風に並ぶ武勲艦として讃えられた磯風の音無き声と共に、今の今まで息も絶え絶えに
すり減り続けた機関が、文字通りに息を吹き返し、命をもう一度注ぎ込まれる。


―――私も手伝わせて頂きます。この浜風、必ず長門さんを守り抜く楯と成って見せます
「は……浜、風?」

 浜風の決意に応えるかの如く、錆び付き、朽ち行く筈だった計器が、回路が、今までの過去を切り捨てたかのように再度
動き出す。己の主人に未だ働ける、未だ動ける、未だ戦えると誇示しているかのように。


―――ぴゃ~……酒匂も一緒に行きたかったけど、仕方が無いよねぇ。長門さん、後は、よろしくお願いします
「酒匂!?酒匂、お前もなのか?!」

 使い込まれ、艦に馴染み切った電探、火器管制装置、その他艦に搭載されていた精密機器が久方ぶりに動き出す。酒匂の
願いが、意志無き機械の老兵を呼び覚まし、主の命を受けるべく佇みだす。


―――長門さん!志賀です!大湊から頑張って来ました!志賀は、志賀は、こんな事しが出来ませんけど、長門さんを、
応援して居ます!!
「志賀…!?大湊から呉まで、だと……!?」

 この場所に係留されて以来、殆ど動く事も、そして誰も守るべき者もおらずに無聊な日々を送らざる負えなかった隔壁や消火装置が、小さな志賀の想いに応えて最後の御奉公を果たすべく再稼働を果たし始める。

 彼女達だけではない。日本各地に記念艦として残留していた旧帝国海軍所属軍艦が、それぞれ長門の元へと集い、力を
合わせて長門を動かし始めていた。常識など知った事では無い、長門を蘇らせるのに奇跡が必要ならば、今奇跡を引き起こして見せる。そんな無言の決意と覚悟と共に。


「ふふっ……みんな、みんな来てくれましたね。長門さん」
「ゆ……雪、風……」
「私も含めて、こんな事態になっても座して見守るしか出来ないのは……どうしても、我慢出来なかったんです」
「……だから、動ける可能性の有った私に……か?」
「はい……勝手に色々と押し付けて、ごめんなさい」


 そう言って、頭を下げようとした雪風は……長門の手によって止められた。長門にとって、これでもう一度海へと行けるのだ。
感謝こそすれ、怒ったり恨んだりするのは筋違いが甚だしい事この上なかったのだ。


「長門……さん?」
「……ありがとう、雪風。皆の想いは、絶対に無駄にはしない」
「……はいっ!」

 つい先ほどの、何処かこの世を疎んでいた様な雰囲気等完全に掻き消えた、あの戦争中に幾度とも見せていた武人の
長門と舞い戻った姿に、思わず雪風は同じくあの時の様に天真爛漫な笑顔を浮かべていた。

751: 陣龍 :2018/06/18(月) 22:34:57


「……雪風」
「……あぁ、もう少しでお別れになっちゃいますね。長門さん」


 長門の言葉にそう答えた雪風の身体は、足元から静かに消えつつあった。老朽化し切っていた長門を、ありとあらゆる邪魔者を力尽くで無理矢理にねじ伏せて強引に復活させる関係上、雪風の力も必須であり……時間切れになりつつあった。


「雪風達は先に往ってしまいますけど……」
「心配はするな。必ず、必ずこの状況を喰いとめて、戦争勃発を阻止して見せる」
「うーん、そうじゃ無くてですね……」


 戦艦長門が復活するに合わせて雪風の身体も次々と消え始め、足元から次はひざ下まで、次は左手から肩までと、長門が
思わずしっかりと握り締めている右手から離れた場所がどんどん虚空へと消え続けていた。


「雪風達は、長門さんに感謝しています。戦争の時もそうでしたけど、その他の事でも沢山お世話になりました」
「何を……何を言ってるんだ……それは、此方が言う事だ……!」
「あはは、じゃあお互い様って奴ですね」


 もっと言葉を交わしたい。もっと話し続けていたい。そんな彼女達の想いとは裏腹に、無情にもタイムリミットは刻一刻と迫り続けていた。今ではもう、雪風は頭と右腕以外全て虚空に消え去っていた。


「……ありがとうございました、長門さん。日本を……お願いします」


 その言葉を最後に、一陣の海風と共に雪風は消えた。後に残っていたのは、稼働状態へと変貌した戦艦長門と、その艦霊だけだった。


「……勿論だ、雪風。そして皆」


 その言葉が発せられた直後、戦艦長門の艦内が俄かに騒がしくなる。耳を澄まさなくとも分かる。今の今まで大した整備も無く放置されていた老齢戦艦が、一体全体どういう訳か完全なる稼働状態にまで蘇っていたのである。その事に驚愕し、絶句し、狂乱しない訳が無い。


「吉報を待っていてくれ。私は、必ず勝利して戻ってくる」


 もう居ない戦友達に対して、長門はただこの一言だけを言った。それ以上の飾りは、不要だった。







――――――戦艦長門

 本来であればもっと早期に記念艦か解体となる筈であったこの戦艦は、紆余曲折と幾つかの必然と偶然の積み重ねによって
21世紀直前まで海原に浮かび続け、東亜危機を最後の出撃として漸く退役、記念艦となった。

 東亜危機後、本来ならマトモに動けない筈で有りながら全盛期の如く稼働した事に驚愕した様々な機関や組織が長門の事を
調査したが、それら全ては判を押したかのように『原因不明』の一言を報告書の結びとしていた。物理的に有り得る筈の無い事が起こったこの事は、オカルトマニアやら造船マニアやら各方面のモノ好きな技術者等多種多様な人間に興味を持たせ、様々な論議や想像を書き立たせていたのだが、その原因で有った戦艦長門はそんな暇な連中を他所に今では記念艦として穏やかな余生を送っている。


 そして戦艦長門が記念艦となった日、同じく長門の傍に建立された碑文が一つあった。建立した者の名前が何処にも書かれていなかったこの碑文には、こう書かれていた。

『過去を学び、現在(いま)を見つめ、そして未来を紡がれたし。私達が望むのは、ただそれだけである』






――余談

 とある都市伝説が有る。中満国境ラインに展開された相互の軍の撤退が確認され、東亜危機の終結が宣言された日の事。
その日、日本各地に存在した記念艦から発光信号とモールス信号が発信されたという。記念艦からと思わしき発光信号の目撃者や、発信者不明のモールス信号を受信したアマチュア無線家も複数存在し、また監視カメラ等で撮影された物も存在した。

 公式発表では『計器の故障』等とされて終わったのだが、相変わらず何処からか湧いて出るアカに毒された盆暗であったり、オカルトを嫌って無駄に叩いて暴れ回った馬鹿が『そんなモノは存在しない』等と大騒ぎした結果テレビ報道などによって日本全土に知れ渡り、学校の怪談等に匹敵する程度に有名な以下の伝説へとなっていた。

『東亜危機の終結が宣言された日の夜、記念艦から『トネガワクダレ』の発光信号が、モールス信号では『ツクバヤマハレ』と打電された。
この事を持って、本当の意味で彼女達の最後の戦いは終わったのだ』

752: 陣龍 :2018/06/18(月) 22:38:58
以上書捨て完了で御座りました。スレ74では兎角シンプルと言いますか人物は出さないようにしましたが今回ガッツリ出しました。若しかしたらこんな裏話が有ったのかも知れませんし無かったのかも知れません。
何時も通り書けるがままに書いたヤツ何で整合性等は考えてません。最低限記念艦とか確認しましたけど、ハイ。


都市伝説も含めて、信じるか信じないかは、彼方次第です(某番組風)

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最終更新:2018年06月20日 13:26