368: 第三帝国 :2018/09/04(火) 11:48:44
銀河連合日本×神崎島ネタSS――——――「記者会見Ⅲ」


「しかし、理解できません。
 なぜここでこんな行為に及んだのか。
 もともとアメリカも最近そうですが日本の中国に対する印象は良いとは言い難いのに」

記者会見の場で中国人記者による投石。
というシーンをテレビでリアルタイムで把握していたドノパン大使が嘆息する

「・・・日本人やアメリカ人ならそう考えるでしょう。
 しかし中国人のロジック、世界観は我々と違います」

新見がぽつりと呟く。

「世界観の違い、ですか?」

「あるいは人が持つ『思い込み』というべきかもしれません。
 例えばその昔アメリカは『日本人は近眼な上に飛行機の性能は劣悪』と思い込んでましたが、
 実際はゼロ戦に苦戦を強いられ、逆に日本は『快楽主義のアメリカ人は潜水艦任務に耐えられない』
 と思い込んでいましたが実際は逆にシーレインを締め上げられ敗北の原因となったように、と言えます」

首を傾げるドノパン大使に新見が分かりやすい例を挙げる。

「ええ、そして今回彼ら的な「思いこみ」で言うならば、
 『日本の晴れ舞台が台無しになって面子が潰れた』ことの方が重要なのです」

面子。
という言葉の概念は日本では単に「見栄」程度の意味だが、中国では「プライド」に近い概念を含んでおりこれがしばし日中の間で文化的摩擦を引き起こす。

何せ日本人は「見栄」程度にしか考えていないが、相手は「プライド」として捉えているのだから問題が起こらないはずがない。

ゆえに相手の面子を潰すことは・・・。

「加えて『東洋鬼の面子を潰した!』
 という事実は中国国内において大きな政治的得点として捉えるはずです。
 そもそも関係が悪化しても問題ないのです、なぜなら元より周辺国の評判など気にもしていないのですから」

「なるほど・・・。
 国内の政治的な勢力争いで優位に立つのが目的ですか・・・」

外国に与えるであろう影響を考えず、国内の政治的事情や勢力争いを優先するする姿勢はどこの国でもありうる事情だが、中国という影響力が大きい大国でそれをされると、はた迷惑を通り越して害悪でしかない。

などと2人で会話を交わしている最中。
アメリカ大使館の職員が静かにドノパン大使に寄って耳打ちする。

「・・・ニイミサン。
 たった今中国政府が国営放送を通じてが先ほどの記者に関する見解を発表したそうです」

そう言うなりドノバン大使がテレビのチャンネルを変えて大陸の国営放送の番組映し出す。

『・・・勇敢なる我が国の記者が行った義挙に称賛を!
 そして日本政府の差別的かつ不当な逮捕に抗議するものである!!』

テレビでは大陸の女性報道官がそう高らかに宣言していた。
その言葉に合わせてその場にいた中国人記者たちが一斉に立ち上がり万雷の拍手を送る。

369: 第三帝国 :2018/09/04(火) 11:49:36
『党は祖国防衛のために新たに軍事予算の増額、前年比の50パーセント増しを決断した!!
 そして古代より我が中華の固有の領土であった琉球と帝国主義者に占領された伝説の島、蓬莱島(神崎島の大陸側命名)を奪還し、歴史修正主義者達に対してしかるべき報いを与えることを人民に約束する!!』

この発言にさらに場の空気がヒートアップし、しまには某毛なおじさんの肖像画を掲げ、涙を流しながら国家を歌い始め出していた。

「・・・色々と突っ込みどころ満載ですねぇ」
「社会主義国らしいプロパガンダですね、ニイミサン」

あからさまにも程がある愛国プロパガンダに新見とドノパンは呆れる。
何せ社会主義国特有の装飾過剰な演説に格一化された一挙一動など突っ込みどころしかない。

「間違いなくあの記者は中国のガーグからの差し金ですね。
 時差が1時間だけ、という点を差し引いても記者が捕まって僅か5分、10分で声明なんて普通はできません」

「わざと逮捕させて愛国心を鼓舞する、初めからこれが目的だったのかもしれませんね」

新見とドノパンの2人が揃って渋い顔を浮かべる。
改めて中国の内情が対外強硬派が牛耳っているのを再確認せざるを得なかった。

そして、

370: 第三帝国 :2018/09/04(火) 11:50:12
「軍事予算の増額、ですか。
 しかも前年比の5割とは半分ホラ話としても脅威ですね・・・。
 いくらこちらが防衛予算を増やしても向こうの方が投下できる予算がここまで違うとは」

「アメリカでもしもこのような発表をすればマスメディアから袋叩きになりますね。
 ただでさえ『世界の警察官』に疑問を抱いている市民が少なくない中でやれば間違いなく首都で大規模なデモが起こります」

いわゆる西側諸国は冷戦終結後の緊張緩和と、国家のリソースを国民に対するサービスへの配分を優先するため軍事への予算の投下は鈍い。

が、今もなお社会主義陣営でありながらも、
資本主義の恩恵を受けて矛盾を抱えつつ経済的な発展を遂げた問題の某国は違う。
国民へサービスを提供するよりも自身の権力保持を優先――――はやい話、軍事や警察に予算を重点配布する。
さらに不十分なサービスを誤魔化すために、国民には過度に愛国心を鼓舞することで解決を試みようとする。

「ともあれ、この筋書きを描いたのは軍部の人間なのは確定でしょう」

「本当に中央政府の統制は風前の灯、ですね」

2人して今後の悪い展開を頭に描いて渋い表情で考え込んだ。

この時、中国と関連性のある企業の株価が大きな揺れ幅を記録した。
大部分は株の売却に絡む動きで中国国内の証券取引所では「大株主の株売却禁止」まで出すことになる。
そんな中、逆に医薬品や軍需メーカーに関連する銘柄株は大きく躍進していた・・・。

さらに今や「お得意様」である中国の需要を見込んでか、欧州の死の商人たちも株の高騰による恩恵と商品の売り込みに積極的に動き出すことになる・・・。





おわり

371: 第三帝国 :2018/09/04(火) 11:57:18
最近忙しかったので掲示板に書き込む気力がありませんでした。
その間支援投稿してくださった方々には感謝乙です。

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最終更新:2018年09月08日 11:20