453: 635 :2018/09/23(日) 20:46:04
銀河連合日本×艦これ神崎島 帰還otherside


老婦人が墓石の前で手を合わせている。

「あの子が言っていましたが、あなたの乗っていた艦(ふね)が帰って来るそうですよ。」

語りかけるように墓に話しかけるが、その相手はここには眠っていない。
遥か遠い異国の波の下で眠っているからだ。

「ふふ、あの子ったら好きな艦が帰って来ると大はしゃぎで私に話したんですよ?」

夫がその艦に乗っていたことは話したことはない。
あまりにも辛い記憶だからだ。
なんとか帰れた夫の戦友が最期を教えてくれた。

「あなたの艦の艦魂様(ふなだまさま)が人の形を持ったかんむすさんが乗っているんですって。
あんなきれいな艦魂様と一緒にあの世に行っちゃうなんて焼けちゃいますよ?」

少し笑いながらそんな話をする。

「あなたも一緒に帰って来るんですかね?」

寂しげな顔をしていると、

「ばあちゃーん!ばあちゃんに用事ある人が来たよ!」
「はいはい、ちょっと待って。あの子が呼んでるんで帰りますね。」


「どうもお待たせして申しありません。」
「いえいえ、こちらこそ突然押し掛けてしまって。私、柏木真人と申します。」
「あらあら、これはご丁寧に。」

孫と共に老婦人が客を出迎えると名刺を差し出した。

「日本政府特務交渉官 柏木真人」

客の名は柏木というらしいお偉いさんなのか護衛と思しき人物が同行している。

「政府の方なのですか?」
「はい、総理よりヤルバーンと神崎島との交渉を任されております。」
「まあまあ、そのような方がなんでこんな所に?」
「色々とありましてね。」

ヤルバーンといえば宇宙から来た人の乗った大きな空飛ぶ船で
神崎島といえば例のかんむすがいるという島だ。
孫はその話を聞いてえらい驚いた様子である。

「早速ですが、神崎島に旦那さんが乗っていた艦がいるのはご存知で?」
「ええ、孫が話してくれましたから。」
「ばあちゃん!じいちゃんあの艦に乗ってたの!?なんで話してくれなかったの!?」
「話すとあの人のことを思い出して辛いのの。ごめんなさいね。」
「ばあちゃん…。」

婦人の辛そうな表情を見てなにも言えなくなる。
そんな空気に耐えられないのか柏木は話を進める。

「あー、今回こちらへ来た理由なのですが、東京で神崎島の帰属条約の調印が行われるのはご存知ですか?」
「ええ、テレビや新聞で拝見していますので。」
「その調印式に旦那さんの乗っていた艦が来ますので現地で迎えて欲しいんですよ。」
「あの私は乗組員の妻ではありますが、乗組員の方が迎えるのが良いのでは?」

なんでそんな事を言うのかと疑問に感じた。
孫も同様に訝しげな表情をしている。

「まあ、ちゃんと説明しないと理解出来ませんよね。」

柏木は苦笑しながら話を続けた。

「神崎島において日本政府は元日本海軍所属の艦艇の存在を確認しましたがそれ以外にも確認された存在があります。」
「妖精と呼ばれる存在になった艦と共に戦死した乗組員の存在を私達日本政府は確認しました。」
「え…?」

理解出来なかった。

「妖精さん?マジで!?じいちゃんが!?」
「ええ、そうです。日本政府はあなたのお祖父さんが妖精になったのを確認しました。」

孫が興奮しているが、私は理解出来なかった。したくなかった。

「もう一度申し上げます。貴女の旦那さんは妖精と呼ばれる存在になり神崎島で生きていらっしゃいます。」
「あの人が…生きている?」
「はい。正確には一回死んでいますが。」

柏木は苦笑いしながらしゃべっているがそれどころではなかった。

あの人が生きている。

涙が溢れ、胸が張り裂けそうだった。

「そんな訳で艦と旦那さんを東京で迎えて欲しいんですよ。」
「ばあちゃん!じいちゃんを迎えに行こう!」

えらく乗り気な孫だが婦人はそれどころではなかった。
何度も頷き返すのがやっとだった。
そんな婦人を柏木達は優しい目で見つめていた。

454: 635 :2018/09/23(日) 20:47:21

孫と共に東京へとやって来た。
老人、若者、子供大勢の人がいた。
おかえりなさいと書かれた横断幕の周辺に自分達はいたが老人が気持ち多い気がする。
多分元乗組員やその家族が多いのだろう。

「おーい、もしかしてあいつの奥さんか!?」

突然声を掛けられた。
孫は訝しげな顔を向けたが自分にはすぐに誰なのか分かった。
夫の最期を教えてくれた戦友さんだ。

「あらら、お久しぶりですね。」
「ホント久しぶりですな。あいつの十回忌以来か?」

思い出話に花が咲くが孫を置き去りにしたことを思い出した。

「この子は孫です。ほらご挨拶なさい。」
「あの、初めまして。」
「おおー、あいつによく似てるなー。」

そんな話をしているといつの間に現れた柏木が拡声器で呼び掛ける。

『皆さん、遠い所お集まり頂き有難うございます。後三十分程で艦隊が到着しますので準備をお願いします。』
「さあいよいよだな。」
「そうですね。」


水平線に艦隊が見え始めた。
その先頭を行くのは先導艦を務める海上自衛隊の護衛艦こんごうだ。
そして彼女達が姿を現す。

「大和だ…。」

誰かがこんごうに続く艦の名を漏らす。

「あれは赤城か?」
「愛宕もいるぞ。」
「金剛…俺の乗ってた艦だ…。」
「イナヅマって書いてある。あの人の乗ってた艦…。」

婦人も目的の艦を見つけた。

「ああ…。」

瞳がぼやけてくる。
あの日見送った艦だ。
今生の別れと知らず、涙を隠し笑顔で送り出した艦だ。

誰かが涙混じりの声で号令を掛けた。

「総員!帰還された連合艦隊全艦艇及び全将兵に敬礼ぇ!」

涙でぼやけた視界を艦に向け自分も慣れない敬礼をした。
夫の敬礼の姿を思い出しながら。
孫も敬礼をしていた。

しばらくすると全艦の片舷に人が姿を現した。
あの人の艦にも。
整列すると一斉にこちらに敬礼をした。

「ああっ!あの人だ…。」

ここからでは顔の判別など出来ないだろう。
しかし、婦人はその中に夫の姿を見つけた。
顔が分かるわけではない、でもわかるのだ。
自分に敬礼を送っている人物が夫だと。

艦が点滅した光を放った。

「っ!泣かせるじゃねえか…。」
「信号ですか?」
「ああ…。」

こちらに信号を送ったらしい。
全艦同じ信号のように見えた。

「連合艦隊全艦艇は日本へ帰還す…。」

誰かが呟いた。
いくつものすすり泣く声が辺りを覆う。

455: 635 :2018/09/23(日) 20:51:59

「守るも攻むるも黒鋼の」

誰かが歌いだした

「浮べる城ぞたのみなる」

伴奏などはない

「浮べるその城日の本の」

自然に出てきたのだ

「 皇國の四方を守るべし」

心の底から

「いわきの煙はわだつみの」

妖精達も応える

「龍かとばかり靡くなり」

艦娘達も続く

「弾うつひびきは雷の」

ただ一つ違うのは

「聲かとばかりど響むなり」

かつての帝國のこの国は

「萬里の波濤をのりこえて」

真鋼の艦はもう

「皇國のひかり輝かせ」

他国を攻める必要はないのだ

もうあの戦争は終わったのだから


「おかえりなさい…。」

言いたかった言葉は七十余年を経て伝えられた。

あの夏の日の続きは未だ終わらないようだ。

456: 635 :2018/09/23(日) 20:53:35
以上です。
待つ者は未だあの日のまま、ようやく続きが始まります。
掲載はご自由にどうぞ。

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最終更新:2018年10月03日 19:56