846 :ひゅうが:2012/01/14(土) 00:19:00
つづいてしまったネタ

接触1~自由惑星同盟サイド~

――宇宙暦788(帝国暦479)年 銀河系 いて座(サジタリウス)腕
  バーラト星系 惑星ハイネセン 自由惑星同盟 最高評議会


この年、自由惑星同盟は恐るべき激震に襲われることになる。

「では、報告を聞こうか。」

最高評議会議長は、円卓の前で腕を組んだ。

「はい。」

辺境星域担当特命委員長という名の閑職についている男は、胃酸が口元にまで逆流してきそうなのを堪えながら報告書(人類はついに「紙」を駆逐できなかった)を手にとった。

「本年7月7日未明、辺境星域エア星域の重力溜りに調査のために放たれた無人長距離偵察プローブが明らかに人工の信号を探知しました。
信号傍受の結果、コードは旧銀河連邦時代の標準通信コード・・・我々の使用しているそれの2つほど前のバージョンでした。
電子頭脳の記録称号の結果、言語体系コードJ、国家コードJA-001が付けられており、また旧連邦公用語(テラン)の文章列を確認しました。」

「内容は?」

ここにきている人間の半数程度はすでにその中身を知っている。
しかし、議長はそれを知らない委員たちにも訊かせるために、順をおって説明を要求した。

「はい。『本宙域は、大日本帝国宇宙軍の防衛識別圏である。直ちに停船し、所属を明らかにされたい――こちらは大日本帝国宇宙軍所属  巡航偵察艦「三瀬」。』と。」

「大日本帝国・・・だと?」

首を捻る委員たちの中から、ロイヤル・サンフォード教育委員長が立ちあがった。

「知っているのかね?」

「はい。旧銀河連邦加盟国のひとつで、ほら、あのルドルフの連邦議会解散後に生じた『第1次大弾圧』の際に討伐を受けたといわれる星間国家です。当時の支配星域は現在の帝国辺境で、あの『長征1万光年』にはかの国が残した記録が大いに参考になったという記録が残っています。」

ほう・・・と委員たちは驚く。

「サンフォード委員長の仰る通りです。われわれ、辺境宙域探査局は偵察プローブの母船『アルゴノーツ12号』からの報告を受け、重力溜り――いえ、エア星域回廊とでもいうべき宙域に接近。当該宇宙艦との接触に成功しております。これは、議長と国防委員長許可のもと、です。」

ざわめきが大きくなった。
越権行為ではないのか?いや――ここまで秘密にされていたのは。などという声が上がっている。

「諸君。同盟基本法に規定されている通り、わが同盟は成立時に外交権限を私、同盟最高評議会議長が所管している。これは自由惑星同盟成立時に国父アーレ・ハイネセンの希望のように『我々と同じ反帝国の民が独立政権を作っていないか』という希望を持っていたことに由来するものだ。そして今――それは叶った。」

「しかし議長。接触先もまた『帝国』です。我々は銀河帝国に加え・・・ニッポン帝国という二つの敵を得てしまったのでは?」

「その心配はもっともだ。だが、接触先の『サンゼ』は、ニホン帝国首相府からの親書と簡単な国家概要の説明を受けている。それによれば――かの国は、銀河帝国成立時の弾圧を予想し我々が知るイゼルローン回廊を抜け、さらに銀河中心に近いスキュータム・サザンクロス(たて座・みなみじゅうじ座)腕へ至り国家を維持したとのことだ。
これが重要なのだが、かの国は、立憲君主制をとっている。つまり――議会政治が存続しているのだ!」

847 :ひゅうが:2012/01/14(土) 00:19:30
全員が目を見開いた。

「我々と同じ民主国家が存在したのか――」

それは、希望だった。

「あくまでも皇帝――いや、彼らの呼称によると教皇的な皇帝『テンノウ』を君主にして国家統合の生ける象徴として戴きながら政治は憲法にのっとり公論・・・国民の手により行われている。
ゆえに立憲君主制というのだ。それに、かの国は古くは地球時代からその独立を維持し続けてきた・・・あの13日戦争以前から続く歴史ある国家だ。」

「なんという・・・これほど、これほど喜ばしいニュースはないですな!」

「人口は?領域はどれくらいなのですか!?」

委員たちは涙ぐむものもいる。
自由惑星同盟は、銀河帝国という巨大な敵を長年相手にしてきた。
そのため、価値観を共有できるかもしれない存在がいたということ自体、彼らを喜ばせることだったのだ。

頃合いとみた議長は、顔を上気させ質問をしてくる委員にこたえようとして、ところなげにたたずむ辺境担当委員長に気がついた。
そして視線があうと同時に頷く。彼は嬉しそうな顔をし、あわてて報告書を読み上げる。


「いまだ接触途上なので詳細は不明ですが、ヒューマン系人口は約120億人との回答がきています。どうも電子知性に関してはかの国には独特の価値観があるようで――いえ失礼しました。
領域は、人口のわりに広いですね。じょうぎ・はくちょう腕にもまたがっているとのことです。彼らの首都はそこにあるとか・・・」

「なるほど・・・人口と領域――これは無視できる存在ではありませんな。」

議長は、日頃から辺境星域担当委員長を「昼行燈」と罵ってはばからない交通委員長が彼に敬語を使うのを見て内心苦笑した。
現在の自由惑星同盟は、文字通り利権屋の巣窟だ。そんな彼らをして熱くさせるものがこの報告にはあったらしい。
かくいう議長自身もその一人なのだった。

「幸い、かの国は侵略の意図はもっていないとのこと。親書には『和をもって尊しと為す』といういにしえの名言が引用されておりました。非公式ながら、交流や通商に関しては否定する要素がないと、かの国のオオクラ大臣――財務委員長ですな――のツジ氏から得ております。また、近々皇帝・・・おっと失礼、テンノウ陛下と政府からの親書が送られる見通しとの報告もあります。」

「諸君。」

議長は立ちあがった。

「同盟市民に喜んで発表しよう。
我々は孤独ではなかった。友邦となれる国が、そして議会制民主主義の灯を守り抜いた古き民たちがいたのだと。
古く、そして最も新しい我々の友の存在ほど、エル・ファシルを奪われ意気消沈する我々を勇気付けるものはないだろう!」

この日の最高評議会は、万雷の拍手で幕を閉じた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年01月25日 21:46