161: 陣龍 :2018/11/09(金) 11:18:40 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp

「……どうだった、向こうの『新型戦艦研究会』の様子は?」
「何時も通りに夢と現実を殴り合わせてた。46㎝砲高速戦艦とかディーゼルと蒸気タービンのハイブリット機関程度なら未だしも、ガスタービン機関搭載戦艦とか、80サンチ連装20万トン戦艦とか、3連装砲を横に並べた6連装4基12門戦艦とか、その他色々」
「無駄にデカ物作る位だったら、船体を大きくした改アイオワ級程度で費用対効果としては十分だと思うんだがな」
「それは向こうで言ったら大艦巨砲主義に洗脳されますから言わない方が良いですよ。この前一人それで連れて逝ってしまいましたし」
「アイツもうコッチに戻って来れないでしょうなぁ……この前会ったら、虚ろな瞳で戦艦の事語り続けてたんで」


 日本本土のとある会議室。此処では造船や港湾関係等の技術者に加えて、複数の海軍軍人らも参加していた。この会議室の中では位の上下も関係無く、それぞれ思うが儘に考えや言葉をぶつけ合う決まりになっており、意外と和やかな雰囲気であった。


「……さて、皆さんお集りの様ですね。それでは『第7回未来空母研究協議会』を開催します」

 司会役の海軍高官の一言に会議室内の人員全員が拍手でこれに応える。神崎島では石頭な職人共のプライドが木端微塵に玉砕していた頃、此方でももう一つの未来に向けた戦いが始まっていた。


『十年後、二十年後、半世紀後を見た帝国海軍が持つべき戦乙女達とは』



「……改めて設計図や実艦を再検討しましたが、やはり飛龍型、蒼龍型以下の空母では実用的な数の噴進機を搭載する事は不可能です」
「エセックス級空母の例を見るからに、今の中型空母程度では十機も乗せれば一杯いっぱいだろうしな。軽空母に至っては論外だ」
「どれほど長く見積もっても50年代初頭には陳腐化するのは免れません。レシプロ機運用に限定するにしても、対空砲火の近代化を考えれば攻撃すればするほど戦果寡少損害甚大になるだけです」
「やはり新型空母の建造が必須となる訳だな」

 全員に配布された手持ちの資料を見ながら、造船設計者の説明を受ける一同。各員はそれぞれ神崎島にて『未来の一端』を見ていた事も有り、今現在連合艦隊の主力艦として存在している飛龍と蒼龍が酷い評価を受けていても激昂したりはしていない。そんな事も理解出来ない人員はこんな所に居る筈もない。


「現在の大型空母として帝国が保有している赤城と加賀ですが、徹底した近代化である程度の対応は可能です」
「だがその二艦とも元戦艦であるし、何より艦歴もそれなりに重ねているだろう。翔鶴型なら兎も角、近代化改装でも限界が有るのではないか?」
「言われる通りです。艦内レイアウトの変更にも限界が有りますし、それに改装するより新造する方が将来的にも良いでしょう」
「それと、現在翔鶴型の設計に関しましても『島』の支援を受けつつ将来的にはジェット機運用も視野に入れた設計へと変更をかけております。ただトン数から考えても、早晩力不足になる可能性も高いかと……」

162: 陣龍 :2018/11/09(金) 11:21:09 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


 大戦でのダメージが深刻でマトモな大型艦艇を保有出来ていないドイツや、同じく大戦での後遺症で空母は兎も角艦載機が悲惨であるイギリス、そして政治的混乱やら何やらで大型高速空母を所有出来ていないフランスや国力不足と空軍との軋轢で空母を持ってすら居ないイタリアから見れば『何贅沢な事言ってやがる!』と激怒必至な会話だが、当人達に取っては至極真面目かつ本気の会話であった。

 『島』にて魂レベルで突き刺さり、刻み込まれた『帝国海軍崩壊の歴史』、そして『その地獄を戦った者達の叫び』を直に聴いた彼らは、何だか熱に浮かされた様な戦艦閥とはけた違いに真剣そのもので日夜会議や研究を繰り返していた。艦載機も重要ではあるが、建造に数年は必須な空母の選択を間違える訳には行かないのだ。


「……だが、新型空母を建造するにしても、一体どのような空母を作るべきなのだろうか」


 そして、彼等は至極真剣に帝国海軍の未来と向き合っていたが故に、このポイントで躓いていた。


「アメリカの……フォレルタル級は無理だとしても、ミッドウェイ級装甲空母を建造出来れば一番なのですが……」
「建造出来るのかね?幾ら『島』から資源や技術の援助を受け取れるとしても、何でもかんでも子供の様に要求していたら間違い無く『島』側から多大な不興を買う」
「現状、軍事費の付け替えによる国内再開発や『島』からの技術援助により技術や工業力は少なくとも順調に進展してはいますが」
「だが海軍からこの様な大型空母建造の為の予算が下りるかは、将来は兎も角として現状では不透明だからな……今でもかなりの軍事予算を消費している訳でもあるし」


 改装を施しつつも1945年から2000年末期近くまで第一線で活躍し続けたアメリカ海軍のミッドウェイ級空母。就役時の基準排水量は45,000トン、改装後には52,500トンに上る大型空母を建造出来れば話は早いが、この際予算は無視するにしても建造する為の基礎的な技術不足が不安視された。
同時刻職人と帝国の工作機械で製作された機体が黒煙を上げて動きも出来なかった事を彼らは知らないが、『島』で見た港湾設備と帝国の港湾設備の差を見れば見る程、不安だけが積み上がり続けていたのだ。

 魚雷一本作るにしても、『島』やアメリカでは薄い鉄板をロールさせて作るのに対して帝国では鉄塊を刳り貫いて一本の魚雷を作り出す。コレを見るだけでも帝国の現在の技術力に対して不安と不信感、そして悲しみ以外の一体何を持つ事が出来るのだろうか。一朝一夕で改善出来る物では無いと同じく理解して居る為に、余り言う事は無いが。


「大型正規空母の建造経験は翔鶴型の建造である程度出来るとは言っても、十年後、二十年後を見据えた建造計画を立てなければ、 我が海軍は無意味に血税を喰らい尽すだけの木偶の棒にしかなれん」
「最善を求めれば技術も資源も予算も足りず、次善を欲しても何かしらが一歩届かず、現実と妥協すれば国家予算の無駄遣いになりかねない。
未来を知っていると言うのは、かくも苦しいとは思っても見ませんでしたな」
「だが、その苦しみを飲み干して戦わなければならんのだ。……私は、この国を『あの歴史』の様にしたくはないし、同じく『彼女達』も『あの歴史』を辿らせたくはない」


 血を吐く様な海軍軍人の言葉に、異口同音に同意の言葉を吐く会議室の一同。誰しも母国日本を焼け野原にされ名誉も誇りも何もかも泥に塗れさせたく等無いし、自分達の『愛娘』達に塗炭の苦しみを味合わせたくもない。お気楽に夢を語っている戦艦閥の連中とは違って、自らの選択ミスが今後の帝国海軍、いや日本その物全ての未来を失わせかねないと思っている彼らは、揃いも揃って鬼気迫る姿だった。


「……それでは、続けましょうか。この『帝国海軍の未来』を見据えた会議を」


 会議はまだまだ続く。『滅亡』へと突き進む筈の未来から、『生存』の未来へと引き戻す為に。

163: 陣龍 :2018/11/09(金) 11:25:49 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
以上になります。戦艦に関しては色々言われてたけどそういや空母とか言われてた記憶なかったなと思い立ったところ何故かこんなのが出来てしまいました。何故だ

正直なところ、祭りの山車見たいな一定の戦力と見せ金になりゃそれで良さそうな戦艦とは違って、空母はこれから長期に渡って主力を張る時代の主役ですからな。将来を見据えた艦を作りたいが、最善目指すと足り無いモンが多すぎて、時間と現実に妥協したら史実雲龍型みたく中途半端な艦作りかねないこの状況、一体どうなんやろね(適当)

後ぶっちゃけ自分どちらかと言えば空母スキーだから戦艦に関してエライ事言ってるかも知れませんが、許せ!(棒蜘蛛男voice)

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最終更新:2018年11月12日 14:37