596: 陣龍 :2019/02/14(木) 23:04:33 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
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『勝つ事を知り尽くした者と負ける事を知り尽くした者と何も知らない者達』


大空を翔る、ジュラルミンの鎧に身を包んだ人造の荒鷲達。全金属性単発単葉艦上戦闘機と言う、世界的に見ても間違い無くこの時代でも随一の一線級戦闘機である、
零式艦上戦闘機の群れは、自分達の巣である館山海軍飛行場から飛び立ち、海上にて二手に分かれ舞っていた。遊覧では無く、神崎島から供給された演習弾を使った、
実戦さながらの空戦演習の為に。

「いやぁー、やっぱり壮観ですねぇ。帝国海軍最精鋭のベテラン級パイロットの甲部隊と、空中管制付きのロッテ戦術を駆使する優秀パイロットの乙部隊との演習は!」

その演習の最中、海上では一隻の軍艦が『同乗者』と共に物見遊山…では無く、今後の為のデブリーフィングの材料とする為に、撮影を行っていた。
撮影艦はやはりと言うべきかまた君かと言うべきか、神崎島艦隊報道官になっている、重巡洋艦娘の青葉である。


「青葉。無理を言って同乗させてくれてありがとう」
「ありがとうございます、青葉」
「いえいえ、この位お安い御用です!」

そして重巡青葉に同乗しているのは、神崎島が誇る最精鋭空母の一角足る一航戦、赤城と加賀。彼女達は青葉が用意していた椅子に座って、じっと演習の様子を見つめていた。
この艦の主たる青葉はずっと楽し気に立ちっぱなしのまま彼方此方カメラを回して撮影し切りであるが。疲れないのだろうか。


「……赤城さん」
「そうですね……やはり、おおよそ互角に渡り合ってます。いえ、より正確に言えば、甲部隊の方が僅かばかりに圧されています」

空戦の様子を見て、少々渋い表情になる一航戦コンビ。現在の『戦況』は、ベテラン側は錬度にモノを言わせた捻り込み等の空戦技量を駆使した妙技を惜しげもなく披露しているが、
対抗する乙側部隊は空中管制機からの指示や情報を余す事無く聞き取り、一撃離脱やロッテ戦術による連携を持って技量で圧倒している筈の甲部隊相手に一歩も引かずに戦っていた。
否、寧ろ従来の三機編成を乱戦や一撃離脱に巻き込まれて崩されている甲部隊の方が、どちらかと言えば劣勢であった。

「やっぱり、気になるんですか?瑞鶴さんと翔鶴さんの教導が」

そうこうしているうちに、何時の間にか赤城達の元に来た青葉が何時もの微笑みと取材ノートを持って話しかける。カメラ撮影は自艦の妖精さんにやって貰っている様で、
青葉の背中側では数名がカメラを砲台の様に抱えて撮影に取り掛かっていた。

597: 陣龍 :2019/02/14(木) 23:05:09 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp


「……貴女に頼み込んで来ている以上、否定出来る訳がないわ」
「そうですね……。心配して居ると言う訳では有りませんが、どうしても気になって仕舞って」

少々頬を染めてそっぽを向く加賀と、苦笑しつつ正直に答える赤城。それぞれの性格らしい答え方に何時も通りにニッコリしつつ、青葉は一つ気になっていた質問を放り投げた。


「航空隊への教導に瑞鶴さん達を推薦したのは御二人だとの事ですが、どうしてですか?自分達でやりたい!と言わなかったのですか?」
「それは……」
「私より、あの二人が適任だから。より正確に言えば、『勝利しか知らない一航戦』では無く、『敗北を知り抜いた瑞鶴』が最適だったから。それだけよ」


言葉に詰まった赤城に代わり、加賀が何時もの無表情を崩し、苦虫を?み潰したような顔で吐露する。まるで血を吐くかの如く、深い後悔と自責の念と共に。



加賀が神崎島にて再誕した時、そして『戦争』の行く末を知った時、彼女は暫しの間言葉を失った。連戦からの疲弊や慢心によって引き起こされた、ミッドウェー海戦での大惨敗。
そこから始まる『帝国』の転落劇。次々とすり減る熟練パイロット、艦載機、死に物狂いで敵艦を沈めても傷付けても、ほんの僅かの時間で何事も無く復活する米海軍の出鱈目さ。
そんな絶望的戦況の中、赤城や加賀の乗員から『妾の子』等と一方的に侮られていた五航戦、取り分け瑞鶴は、戦い続けていた。自分達の知る艦載機パイロットとは比べられも出来ない、
極一部以外は未熟極まりない上に定数すら満たしていない惨状でも、最後の最後まで戦い抜き、作戦成功の為に海を駆け抜けていた。

今でこそ踏ん切りを着けられているが、その事を知った当時は自己に対する怒りと絶望に苛まれた。モノ言わぬ艦で有るが故に責任が生じる訳がないと言う正論は、感情の前では意味を為さない。
そう言う経緯もあり、実は加賀は内心五航戦の事を艦隊の誰よりも評価し、同時に少しばかり気後れしていた部分も有った。まぁ当の瑞鶴はその事は全くと言う程穿り返さない上に性格が性格で有るので、
別にわだかまりとかは発生して居ないのではあるが、どうしても思う所が無い訳では無いのが人間の感情らしい話である。


「はぁはぁ、成る程……やっぱり、加賀さんの鉄仮面の下には太陽の様に熱いモノが有るのですn痛っ、痛たたたたた?!」
「……鉄仮面は余計です」


皆が思っていても言わない事をついつい言ってしまった青葉、その失言の対価に元戦艦馬力全開でキャメルクラッチを喰らう。右手で青葉の顔面を握りながら、若干拗ねた様に顔を背ける姿は、
何時ものクールビューティーとは違って何処か子供の様な表情であった。

600: 陣龍 :2019/02/14(木) 23:06:26 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp




「……ねぇ、翔鶴姉。コレって、あの人達から、だよね。多分」
「そうかしらね……そうかも、知れないわね」
「はぁー……一体どんな風の吹き回しなの?」


一方演習では、何とか意地を見せようとした甲部隊の乱れた動きに容赦なく突っ込んだ乙部隊側の優勢に終わり、先の連合航空艦隊演習に置いて野中機の見せた意地を曲解し、
今なお現場や中堅を除いて、中途半端に居残っていた『エース至上主義』とも言える、精鋭育成主義が根底から吹き飛んだのを他所に、帰投した甲・乙両部隊のパイロットは、
呆れ顔の美少女姉妹教官たちから『微妙に形の整っていない御握り』『タレに着け過ぎたか味が少し濃すぎる焼き鳥』等を与えられ、そのまま演習終了後恒例の宴会に雪崩れ込んでいった。


「いやぁー、何となく分かっちゃいたが、負けた負けた、見事に負けた!お前らもやるじゃねぇか!ほら飲め飲め!」
「あ、は、はい。ですけど、結果は自分ら優勢でしたが押し切れなかったんで機材の事も考えたら実質負け…」
「なーに言ってんだ!胸張れ!お前らは強い!俺達全員が保障してやる!何か言うヤツが居たら俺らに言え!そいつの家に欺瞞紙か何か放り込んでやるからな!」
「……有難う御座います!頂きます!」


『未来』を見せられて、『変わった』『変わらざる負えなかった』者は多くいた。国内開発により大陸に流されていた闇の資金が国内に還流し、死に瀕していた労働者や商店が息を吹き返し始めた。
これらはすべて神崎島が能動的に行った行動による変革だが……意外と、切っ掛けさえあれば、神崎島が動かなくとも、関係等が大きく変わり始める物である。

601: 陣龍 :2019/02/14(木) 23:09:17 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
と言う訳で本編で有るかも知れない一幕ッポイ何かを。後名前抜けスミマセヌ

書いてる途中で何を書きたかったのがが行方不明になりつつありましたが取り敢えずそのまま行きます(無責任)
空中管制機はちょっと厳しいかもですが何とか行けるやろ現代民生技術全開なら(震え声)

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最終更新:2019年02月16日 00:30