778: 635 :2019/03/19(火) 00:15:20 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp

銀河連合日本×神崎島 ネタ 帰還―――武勲無くとも―――


「ここも随分変わったね。鳳翔さん…。」

「そうですね…。」

航空母艦葛城と鳳翔、二人は大勢の家族連れや若者で賑わうテーマパークの中に居た。
周囲の人々を驚かせないように変装してである。
元々日本人らしい髪の色と容姿をしている二人である。
艦娘の艤装と服を普通の洋服に着替えれば美人な二人組みにしか見えない。

二人が居るのは大阪市此花区ユニバーサルスタジオジャパン。
旧くは日立造船桜島工場、艦としての葛城と鳳翔が解体され最期を迎えた地である。


葛城は空母として、軍艦としては一度も外洋に出ることなく、防空砲台となり逃げ回るしかなかった。
そして、皮肉にも戦後復員船として外洋を駆け回った艦である。
正規空母として働け無かったことに若干のコンプレックスを持っていた。
現在では艦娘として常世に落ち、神崎島主力の正規空母の一隻として働いているが。

鳳翔も同じであった。
真珠湾攻撃、ミッドウェー作戦に従事したが、ミッドウェーでは鳳翔の建造、運用経験から生まれ娘とも呼べる赤城達を失い力尽きた飛龍を発見してその最期を看取っている。
大戦の後半になれば出撃も出来ず乗組員の養成と防空砲台となるしかなかった。
また、すぐ側で見守ってきた大和も直掩機も付けられず半ば自殺的な水上特攻を強いられ波間に消えていった。
自分が見守ってきた艦(むすめ)達が自分より先に失われていく現実、鳳翔の心は如何程であったか。
日本海軍航空母艦最後に完成した末娘葛城が終戦まで生き残ったことだけが救いであった。
その葛城も空母として生きることはなく鳳翔と共にその生涯を閉じる事となったが。

二隻の艦が生涯を閉じた地はそんな歴史など知ることはなく人々の笑顔で溢れていた。


鳳翔は葛城がこの場所に来ることに反対であった。
葛城のコンプレックスを刺激し、嫌な記憶を思い出させると思ったからだ。
しかし葛城はこの地に来ることを強硬に主張した。

「あの場所が今どうなっているのか知りたいの。」

真剣な表情で言う葛城に鳳翔は頷くしかなかった。

779: 635 :2019/03/19(火) 00:15:52 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp

「うん、この場所に来て良かった…。」

「えっ?」

葛城は笑顔でそう言った。

「だって皆笑顔でいるのよ?私達が頑張って復員をしたのが無駄だったんじゃないってことでしょ?」

鳳翔は呆気にとられた。

「あの時代、復員する人は皆笑顔が無かったわ。手足を失った人や帰国目前に亡くなった人もたくさんいて皆下を向いていた。」

葛城はUSJの象徴たる地球儀を見上げた。

「でもね鳳翔さん…復員した人を笑顔で迎えた家族がいたわ。片腕無くしても帰って来た人を泣きながら喜んだ人がいたわ。
 だから頑張れたの雲龍姉も天城姉も瑞鶴先輩もいなくなっちゃたけど皆の分まで頑張ろうって。」

葛城は鳳翔の方を向いた。

「そりゃ空母として活躍はしたかったですよ?でもそれが私の大日本帝国海軍連合艦隊最後の正規空母葛城としての努めでしたから。
 だから…、私は復員船として働いたことに誇りを持っています。」

「葛城さん…。」

鳳翔は自分の思い違いを恥じた。
空母として働けず復員船としてしか外洋を走れなかった彼女がここに来ることがどれだけ酷いことかと思っていた。
しかし、葛城は最後の正規空母として、復員という日本という国家が立ち直る為に成さなければならぬ事を誇りを持って行ったのだ。
それはミッドウェーで散った赤城達やエンガノ岬で散った瑞鶴達に劣らぬ軍艦としての生き様であった。


「鳳翔さんに葛城さんここにいましたか!」

突如としてここまで案内してくれた海上自衛官が駆け寄ってきた。
USJに似つかわしくない軍服姿の登場に周囲は戸惑っていた。
そして自衛官の放った鳳翔と葛城という言葉に周囲がざわつきだした。

「会わせたい人達を連れて来ましたので遅くなってすみません。」
「会わせたい人?」

葛城は自衛官の言葉に疑問を感じた。
元乗組員にはもう会い、他に誰かいるのかと。
自衛官が振り向くとその先に何人もの老人達がいた。

「あんたが空母葛城かい?」
「ええ、そうだけど…。」

老人の一人が葛城をあの葛城かと問う。
自分の乗組員ではないのは間違いないために戸惑った。
すると老人は葛城の手を取り泣き始めた。

「ふえ!?」

「葛城さん、この人の親父さんは葛城さんが日本に復員させた人なんです。」

「あっ!」

自衛官の説明に納得した。

「ありがとう、あんたのお陰で親父が婆さんの死に目に間に合ったんだ。」

泣きながら老人は語った。
他の老人達も語る、自身が葛城で復員した者、家族が乗った者、様々な者がいたが皆葛城が従事した復員の関係者であった。

「葛城さん、あんたが日本に来ると聞いて一言だけ言いたかったんだ。」

『ありがとう』

全員がただそれだけだ。

葛城の目頭が熱くなった。
そして今の自分の姿を恥じた。
彼らの前では日本人を運び復員に従事した航空母艦葛城でなければならないと感じたからだ。

780: 635 :2019/03/19(火) 00:16:52 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp

葛城の姿が変わる。
この地を訪れた神崎島の住民から大日本帝国海軍最後の正規空母へと、
身に纏う洋装は剥がれ、艦娘としての艤装がその身を覆う。

周囲の人々は息を呑む。

流れるような烏の濡れ羽の長い髪、
かつてその身を覆っていた迷彩を模した意匠の服と飛行甲板、
腕に持つ梓弓と十万四千度御祈祷大幣と印された矢筒。

航空母艦葛城、彼女は再びこの地に降りたのだ。

黒曜石のようなその瞳が空いた。
彼女は目尻に涙を浮かべながらも花開く様に笑った。


「航空母艦葛城、只今帰還しました!」

781: 635 :2019/03/19(火) 00:17:44 HOST:p1898232-ipbf412souka.saitama.ocn.ne.jp
以上になります。
転載はご自由にどうぞ。

785: 194 :2019/03/19(火) 07:25:32 HOST:ai126188004086.59.access-internet.ne.jp
乙です。復員もまた立派な任務ですからね。
あ、あと誤字報告を。

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誤・艦娘の偽装と

正・艦娘の艤装と

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最終更新:2019年03月22日 09:17