961 :ひゅうが:2012/01/22(日) 17:48:52

ネタ――ヤンの宇宙軍大学校訪問1

――同 皇紀4249(宇宙暦789=帝国暦480)年1月
  日本帝国 帝都「宙京」 宇宙軍大学校


外交交渉の準備があるトリューニヒトたち文民を迎賓館に残し、同盟軍の軍人たちは湾岸にある日本の高等士官学校にあたる「宇宙軍大学校」へと案内されていた。
これもまた古い習慣で、軍人がある国を訪問したときはそれに関連する省庁を表敬訪問するものだがその際にはあわせて士官学校なども訪問する。

「これは」

ベイサイドにある敷地へ向かってリニアレールに乗りながら走っていた一行は、吊り橋の向こうの埋め立て地にたたずむ灰色の艦影に気が付く。

「気に入ったかな?ヤン中佐。記念艦『三笠』と『大和』は。」

してやったりという風に、相変わらず案内役を任されている嶋田中将がえくぼを作る。

「ミカサというと・・・まさか。」

「そう。そのまさかだ。日本海大海戦時の連合艦隊旗艦。奥の『大和』は、13日戦争時の連合艦隊と対弾道ミサイル統制迎撃総旗艦。独・東米間の熱核戦争の流れ弾を迎撃し切った『最後の戦艦(ザ・ラストオブ・ドレッドノート)』。
リゲルへの第2次宇宙遷都時に移動させた文化財のうちこれでも比較的小さなものになるか。」

目を見開くヤンに、嶋田が説明した。
それにしても外見に反して歴戦の男性将官のような風格があるな、という感想を抱きながら、シトレ大将も窓の外の光景に驚きと現実感のなさを同時に覚えている。

「見学の時間は後で十分とってあります。シトレ大将。こことは別に第2次世界大戦時の戦艦『長門』と空母『天城』も保存されていますが。」

「いや。これで十分だ。」

それにしても――

「よくぞ保存されていましたな。」

「我々日本帝国宇宙軍は、かつての日本海軍の後継者を自任していますので。それに、国が宇宙へ移転する際にこれを残していくわけにはいきませんから。」

退役後はいずれも国民から愛された記念艦ですからね。と嶋田はなつかしそうな目でふたつの艦を見つめていた。

この湾岸地帯と、緑地帯の外側にまるで島のように点在しているビル街の谷間に、軌道エレベーターや軌道リングをバックにして軍艦旗を掲げる地球時代の軍艦。それはひどくミスマッチに思えるがなぜか逆にこれ以上にきれいにかみ合う物はないとすら思える。
星が変わっても、そしてわたるべき海が変わっても、そこに軍艦はいるという普遍的な事実を象徴しているようにシトレには思えた。

962 :ひゅうが:2012/01/22(日) 17:49:29


「ようこそおいで下さいました。シトレ閣下。」

赤レンガで築かれた建物とその奥にたたずむ高層ビルをバックに、ブレザーと海軍帽の軍装を身にまとった将官が敬礼をした。

「軍大学校校長をつとめております古賀峯一少将であります。ようこそ日本へ。」

「武官代表のシドニー・シトレ大将です。歓迎痛み入ります。」

シトレは答礼する。
彼らがここにやってきた理由、それは、500年近い断絶を経ている双方の軍事事情についての意見交換を行い、後に予定されている外交交渉にその情報を活かすためだった。
日本側としては、18世紀の戦列歩兵のような一糸乱れぬ運動を行う洗練された戦術に興味を覚え、また同盟側はサジタリウス(エア)回廊防衛網に代表される大火力を用いた戦闘の情報を欲していた。
そのために日本側が行った提案はすぐに認められたのだった。

そして、嶋田がここにいる理由――それはとかく気が緩みがちな日本宇宙軍の新世代の将帥に対するショック療法を期待してのものである。
その要となるのは――

「?」

ヤン・ウェンリー。自由惑星同盟の新たな英雄。
同盟側の政治的思惑により代表団に加えられた「魔術師」。

シトレをはじめとする上級将官は、強力な設備と国力に圧倒されがちな同盟側の意地を示すことを期待。
嶋田をはじめとする夢幻会の面々は、火力に頼った作戦構想で軽視されがちな用兵技術への意識の向上を期待していた。

かくして、二つの思惑が重なるヤンたちの宇宙軍大学校訪問がはじまる。

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最終更新:2012年01月29日 18:42