249 :ひゅうが:2012/01/24(火) 18:59:43

ネタ――軍艦談義3


「じ・・・人的資源は・・・」

同盟側のジェラルド・エイレネー少将(宇宙作戦部長)が強張った声で言った。
そこです。と嶋田は言った。
軍隊の前に嶋田家が経営する企業内で人事部につとめていたため、そのあたりについては一家言持っている。

「以前我が国は徴兵制をとっていましたが、社会を回し、人口増加と国力増進をなすために現役は志願制に移行しました。
そうなると、兵員が足りなくなります。そこでわが軍は、艦艇の省力化を推進しました。
みなさんもご存じの、この――」

嶋田は髪をかきわけ、首筋の模様に見える部分を見せた。

「電脳化で。これにより、1艦あたり80から100名を要した汎用戦闘艦の乗組員は、現在は標準で11名から7名。非常時に限っては軍用義体の使用者に限定してですが1名でも操艦が可能となっています。」

嶋田は、肝心なことは言っていない。
これは「当初」のことで、なおかつ電子知性も数に入れた数字であるということを。
電子知性もしくは義体から『枝を伸ばし』た遠隔操作でも、適性がある者なら操れる。
極端な話、ごくごく一部に属するセンスと才能のある連中は通信が生きている限り(さらに旗艦用戦艦の超大型電脳の補助ありで)は艦隊規模のコントロールすら行ってのけることすらできるのだ。

ちなみにこれが発見されたのもごく最近で、そのために適性ありの者にはスカウト攻勢が行われている。
ただ、企業や公共機関においても引く手数多なのであんまりうまくはいっていないが。
どうでもいいことだが、嶋田が「見つかった」のも、国が行った適性検査とその後の芋づる式の露見が理由である。
辻など「なにその理想の(笑)主人公(笑)。今時中二の頃に書かれたSS(笑)でもそんなのありませんよ。」と腹を抱えていたが、どうも嶋田たち転生者は比較的こうしたことが得意らしい。
魂が体から離れるのに慣れていると、自分が株分けされるような感覚になる複数の軍艦のコントロールにもある程度耐性がつくという仮説があるが、嶋田としてはこんな才能(笑)を投げてよこした神様に何十時間か文句を言いたい気分だった。


おっと。思考が別に飛んでいた。と、嶋田は思考を目の前の情報開示に戻した。

「これを行えるようにするため、電脳化を前提として最低限の軍事的な知識やら操縦・操艦方法の講義を教育カリキュラムの単位に組み込んであります。有事の際には志願制から徴兵制へ移行しますので、その措置も兼ねています。」

さすがにチートすぎだろ・・・と改めて嶋田は思った。
ただし、これでも限界はある。
もしも「原作」のようにイゼルローン要塞かガイエスブルグ要塞を移動させてそのままぶつけてこられたり、あわせて新帝国が動員可能である20万以上の大艦隊がやって来たら・・・
それだけなら迎撃可能だろう。
しかし、防衛設備はあくまでも既存技術の発展系だ。
「原作」でも艦首砲のような要塞砲じみた巨砲を搭載した軍艦が登場しているし、それを改造した「攻城砲」を持ってこられたら。

250 :ひゅうが:2012/01/24(火) 19:00:28

何より、あの戦術の天才がハッスルしてやってきたら、こちらは対応しきれない。
なにせ、自分たちは将としては平凡極まりないのだ。
また、回廊を飛び越えるほどの技術革新が起きたりしても、アウトだ。
もしもあの金髪の天才が「遺命」という形で新帝国に「日本帝国をつぶせ」とでも言い残していたら目も当てられない。
迎撃に専念するだけでは限界がある――

ゆえに、攻勢防御を嶋田と統合軍令本部のスタッフたちは考えていた。
「宇宙を手に入れる」ためにハッスルされても、何としても耐久し切れるように。
そして、現在の繁栄を可能な限り未来に存続させ間違っても自分たちを敵視する勢力が領内に侵攻してこないようにする。

それが現在の夢幻会の目的となっていた。

とまれ、そんな嶋田と夢幻会の思惑に気付くこともなく、同盟軍の軍人たちは絶句していた。
もしも裏事情を知ったのなら、「そんな贅沢なことは悩みとは言わない!」と叫んだことだろう。
だが、夢幻会にとって、彼らは脅威だった。
一度の三千万だの10万隻だのを動員できる戦争機械。うまくすればそのまま「1億人100万隻体制」を字義通り実現してしまいそうな独裁国家。
もしかしたら、いやそうなれば・・・

つまるところ、夢幻会もまた「原作」への恐怖に突き動かされていたということなのだろう。


「さて。これら艦隊決戦型の軍備については軍の再編と統合が進行中ですので、艦種の名称変更その他も予想されます。
警備用の巡航艦や巡視船などは遠距離進出も可能ですが、警備用に多めとなっている乗組員の人的被害の懸念や量産性などの問題があります。
現在、新型艦艇の建造と並行して量産用の設備の更新を行っているので、貴国が気にされている『わが軍による同盟領への進出』は当面ないものと考えてください。」

ほっとするような、そして残念至極のようなため息が漏れた。
――言外に、日本側を同盟国としてのイゼルローン攻略作戦の可能性は、短期的には否定されたためだった。

「もっとも、我々はもともと迎撃戦のために戦術の構成を行っていましたので攻勢を行うには戦術や兵器体系の構築からはじめなければならないのですが。
だから、わが軍は貴国と貴国軍に期待しているのです。
150年の努力の結果磨き抜かれた戦技・戦術ほど興味深いものはありませんからね。」

古賀校長がそう結んだ。

「なにか質問は?」

争うように手が挙げられた。

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最終更新:2012年01月30日 19:53