992 :ひゅうが:2012/02/01(水) 18:32:44

銀河憂鬱伝説ネタ――「ある日の夢幻会」

――皇紀4249(宇宙暦789)年3月 白鳥腕 日本帝国 帝都宙京
   「マッハ軒」


「では――自由惑星同盟と銀河帝国との国交樹立交渉の完了を祝して!」

「「「かんぱーい!」」」

じゅーじゅーとお好み焼きを焼く音と共に、ガラスコップを打ち合わせる音が響く。
ここは、夢幻会員が経営する「古きよき昭和の」風味を存分に有する鉄板焼き店。
名前がマッハ軒というのは仕様である。

「同盟御一行様の接待お疲れ様でした、嶋田さん、山本さん。」

近衛公が接待役として一行に付き添っていた二人にホッピーをつぐ。

「まぁ貴族のどら息子の相手ではなかったからそれほどでもありませんでしたよ。」

「本当に、あの巡航艦の接触でどうなるかとヒヤヒヤしましたが何とかなりましたな。
にしても、あの国費をバックにした大人買いは驚きましたがね。羨ましい限りだよ。嶋田のように会社から給料を貰っていない身とすると。」

「山本・・・お前、博打ですったか?」

「いや?ああいうものはイカサマでもしていない限りは高等数学で理解できるものだぞ?
儲けさせてもらっているが。」

「ああ、ここの開店資金を出したのも山本さんだよ。嶋田さん。」

そうだったのか――と少し落ち込んだ嶋田。
公務員(官吏)であるためにとせっせと貯金に走っている自分がバカみたいに思えてしまったのだろう。
昔からこいつは真面目だったな、と山本は笑った。

「帝国との交渉時は超大型艦をフェザーンに持っていった甲斐がありましたね。」

くっくっく。と笑う辻。
ちなみにこちらは現在、大蔵省主計局第2課長である。
どうも転生に時間がかかっていたらしい。

「まぁ・・・あれは帝国には見せられないが、同盟軍はこれで我々に手を出したらどういうことになるか思い知ったことだろう。」

「そうでなくては困りますよ。いくら超大型機動要塞の長距離航行試験だからといって、島型機動要塞まで持ち出すとは――あれが帝国軍にばれたらガイエスブルグを輸送して来かねないことをもっと考えて・・・」

「ああ、来年度付で艦種と艦名の変更が決まったぞ。」


東条が茶々を入れ、それに辻が応じる中で横から嶋田が何気なく言った。
すると、辻の目がすっと細まる。
戦艦などの艦種名の変更は、旧防衛軍と打撃軍の統合の総決算となるものだ。
それだけかつては抵抗が激しく、現在まで暫定的な名称変更で済まされていたのだった。
そしてそれは、合同した宇宙軍がその基本計画を完成させたことを意味する。


「となると、外洋機動艦隊計画、基本案がまとまったのですか?」

「ああ。そちらの制限内でな。」

「当然です。大正期の八八艦隊計画の発展案のような軍拡競争など、悪夢でしかありませんから。ようやくペルセウス回廊とペルセウス腕開拓計画が軌道に乗りつつあるのに――」

「そのペルセウス腕でも『敵』に備えなければならんのだ。必要投資と思ってくれ。」

二人は「おっ、その豚玉返し時だ」といってひっくり返す山本と鉄板を挟んで眼光をぶつける。
傍目から見れば、切れ者の貞子もどきと黒髪セ○バー(勤務時間外はこうしている)が食事を巡って睨みあっているように見えるだろう。シュールである。

「まぁ、あの昭和のように米国を味方に戦うという想定ができるわけではありませんからね。それで、内容は?」

993 :ひゅうが:2012/02/01(水) 18:33:20

先に視線を外したのは珍しいことに辻だった。

「機動鎮守府級戦艦のうち、母艦機能を重視したものを『航母』、両方を兼ね備えたものを『戦艦』にします。
それまでの機動陣地は『装甲艦』あるいは『装甲巡航艦』に改編。機動砲は『巡航艦』に、大型砲搭載艦を『巡航艦』とほぼそのまま。これまでの汎用戦艦を『汎用戦闘艦(デストロイヤー)』に統一します。命名基準はかつての海軍方式を踏襲します。」

「これまでの戦艦との区別は?」

「『長門』型や『伊勢』型などはそれぞれ採用年により型式を分類、現在改名案が検討中です。これまでの巡航艦や巡航偵察艦などは『巡察艇』に名称を変更。駆逐艦は『駆逐艇』とします。」

「ま、妥当なところだろうな。省力化が進んだうえ、艦の大型化が進んだのだし。これで慣性制御の高性能化が進めばかつての『戦艦』同士が大出力エンジンを積んで格闘戦でもやりかねない勢いだし。」

「さすがにそれは――とは言い難いなぁ。倉崎さんが猛っているし。」

山本が冗談めかして言った言葉に、嶋田は笑って否定しようとし、断念した。
嶋田の言った倉崎の現状に、山本をはじめとする一同も「ああ・・・」とげんなりとした。

倉崎潤一郎、飛行機狂であった男は、現在も趣味に走りまくる技術者として倉崎財閥にあり、現在では宇宙空間の「裂け目」を縫って飛び回る超大型の「航宙機」の構想を進めている。
早い話が戦艦の高機動化だ。「目指せバブルボードシステム!」が合言葉らしい。


「現在運用中の試作艦で問題が洗い出せたら・・・整備に取り掛かります。」

「整備の第1期完了は約5年後ですか。10年後には現状の軍備はそろって引退ですね。どうします?」

「辻さんのことですから、同盟軍に売り払うつもりでは?」

「一部はね。」

くつくつ笑う辻。
慣れた嶋田はまだしも、山本は露骨に引いている。


「あ、豚玉どうぞ。」

「お、ありがとう。」

しかし、この日の夢幻会は久方ぶりの「忙中暇あり」を堪能していた。
翌日、銀河帝国皇帝からの親書を受け取り卒倒するまでは――

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最終更新:2012年02月01日 20:36