147 :ゼン:2012/02/03(金) 19:20:39
銀河憂鬱伝説 支援SS


         フェザーンに咲く華(表)


    • 帝国暦480年 フェザーン自治領

男は大型トラックの助手席に座り、これまでの自分の人生で数える程しか出遭わなかった
その乱雑で不衛生な居場所に辟易しながらも、ひっきりなしに腕時計とトラックの進行方向を
見比べ運転手に捲し立てていた。

「大丈夫ですか!間に合うんですよね。遅れたらフェザーンの恥ですよ!」
「そいつぁフェザーンの恥じゃなくて、あんたの会社の恥だろうが!」

運転手は、やれやれと思いながらも喚いている男に一喝し、続けて言った。

「それに向こうさんだって、この渋滞は分かっているんだ。多少遅れても文句は言わんさ
これ以上しのごの言うんなら、荷物をほっぽり出して帰ってもいいんだぞ!」

荷物をほうり出されてはたまらない。この一ヶ月、足を棒にしてかき集めた「大事な商品」である
それにトラックは一台ではなかった、ハイウェイを走る大型トラックは実に9台にも連なっている
運転手はその顔役的な存在だ、男は黙るしかなかった。しばらくは・・・

似た様なやりとりは出発してから幾度ともなく繰り返されているのだった。



男の生まれた家は、フェザーンで代々会社を営んでいる大きくはないが老舗であった、が
三男でもあり、平凡を絵に描いた様なごく普通な人生を送ってきた。普通の学校に通い卒業し、
実家の系列会社に押し込まれた。主に草花をあつかっている会社だ。

男が今の状況に陥っている理由は簡単だった。商品の納入が間に合うか、否かの瀬戸際だからだ


始まりはフェザーンに大日本帝国の船(あれが宇宙に揚がれるか賭けの対象になっている)
が遣って来た後、しばらくしてからフェザーンの物を売りたいという商人達が現れた事。

「売れる物なら親でも売るのがフェザーン商人」と陰口を叩かれるが、それでも流石に首都の
ど真ん中で国交も樹立していない相手と商売は出来ない。
出来ないわけでもないが帝国と同盟、それに商売敵の目を気にしながらでは、個人個人のそれも
小額の取引しか出来ないだろう。
まだ取引通貨のレートも決まっていなかったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


それも今日、フェザーンと大日本帝国との間に国交の樹立が行われて(対外的にはフェザーンは
銀河帝国のオマケ、同盟は見なかったことにしようという見解)話が変わってくる。
俄然、商売っ気を出している商人たちの目は色めき立っていた。

男もそうした商人の一人だった。

幸運にも(実は実家が手配したのだが)受注を受け、日本の御眼鏡に適う商品を東へ西へと探し
回りと普段の平凡さをかなぐり捨てて仕事をしていたが、納入の期日が今日なのに気がついた
のは一昨日の事だ。

商品はある。

だが、持って行く為の足がない。会社の下請けや取引業者に当たったが、商人達が考えること
は同じなのか全て押さえられていた。
最後から二番目の手段として、トラッカーが集まる酒場で直接雇うしかなかった。

幸運の女神はここでも男に味方したのか首尾よく見つかった、多少その風体に問題があっても。

これで駄目なら、後は男自身と仕事仲間に頭を下げて何十往復もするしかない、背に腹は
かえられぬ。それが男の心境だった。



紆余曲折はありながらも、男は終着点に無事に時間通り辿り着いた。

そこは人工湖に面した閑散とした処で本来はイベント等の催しが行われる場所。
だが閑散と表した様に市街地の外れに位置している、実際のところ湖に面した首都の一等地にも
同じ様な場所はある。
そちらは式典のそして、その後の会食の舞台になるのだろう。

その会場の警護や安全の為、幹線道路は通行規制が敷かれ先程の渋滞騒ぎがおこった。
大日本帝国(以下、日本と表記)のおかげで仕事ができ、が為に苦労するとは皮肉な話である。


男は指定された場所に商品を降ろすように指示し、日本の担当者と対面して・・・

正気を疑った。

最初に出会った人物はいい、その女性は商品を降ろす場所を教えてくれて、その為の人員を手配
してくれた。
「担当者を呼んでくる」と流暢なこちらの言葉で言い、湖に浮かぶ船へ入って行ったのだが・・・




やって来たのは・・・箱だった。



148 :ゼン:2012/02/03(金) 19:22:23


30~40cm四方の箱型に四本の足、上部に一本のマニピュレータ。

それが「どうも、お待たせしました」と言って(無論声帯はない為、厳密には合成音なのだろう)
近寄ってきた、男は辺りを見合し誰もいないので気のせいかと思っていたが、足元にいるソレが
日本側の担当者と気付いたのは暫らくしてからだった。


「(どこからどう見ても箱だ・・・。)」

幸運な事にその思いは口には出なかった、動揺しながらも会社の概要や扱っている商品のリスト、
それらプリントアウトしたファイルと名刺を交換し、一本のマニピュレータで大丈夫か。と心配
したが、器用にもそれらをまとめ一枚の名刺を出してきた。

最初に目についたのは「ジェイムスン型サイボーグ体」とデカデカと書かれていた。

彼なりのこだわりがあるのか、名前よりも大きく。しかも「最新モデル」とまであった。
(男は箱に最新も旧式もあるとは考えたくなかったが・・・)

話の種にそのことを聞くと、すごい勢いでジェイムスン型の素晴らしさや愛くるしさ、機能美を
とうとうと語り出した。



それが切欠となりその後、彼と取り留めのない話に花を咲かせた。

日本の使節団の代表が女王殿下で、その美貌は三国一だとか、
同盟の男がその美貌にうたれ、出会うや否や己が立場を忘れプロポーズしたとか。

持ってきた商品の大半が、植物や樹木・草花の種子だったと聞くと、
日本の皇帝の名言「雑草という草はない、どんな草花にも名前がある・・・云々」とか始まり、

日本ではサイボーグが一般的なのかと聞くと「程度による」と言う、彼のような特別製を除いて
も生きてるうちは全身を義体化(サイボーグ化)するのは一般的ではないらしい、
(「箱が特別」と言われれば、男は違う意味で「特別」だろうと納得するしかなかったが・・・)

そんなこと教えてもいいのかと心配すると「付き合い始めれば嫌でも分かる」と笑った。

驚いた事に彼には妻子がいるらしい、実際「ホログラフィ」を取り出し見せられたが、
ごく普通の母子だった。

男が心に箱型の団欒風景を思い浮かべたのは無理からぬことだろう。



やがて商品を降ろし終え(大きいものだと20mはある、時期が時期だけに根付くかは半々だろう)
挨拶もすませトラックに戻ろうとした時、彼は今夜の予定を聞いてきた。

疑問に思っていると「○時に空を見ろ」と言い去って行った。


男は会社への帰路に着いた、トラックの運転手にその時間に心あたりがあるか聞き、何がある
のか揃って首を傾げながら。



行きの渋滞が嘘のようにすんなりと会社に到着し、運転手連中に幾ばくかの金額を支払い
「また何かあったら頼みます」と社交辞令を言って別れた。

実際は、いつ商品を持ち逃げされるか戦々恐々とし(その為に態々トラックに同乗して
いたのだが)、そういった素振りはなく余計な心配だったかと胸を撫で下ろしていた。



会社で細々とした書類を整理し、仕事仲間にこの数日の出来事を面白おかしく語り、
ふと腕時計を見ると彼が言っていた時間を指そうとしていた。

不意に、外からドォ-ンドォーンドーンと連続した爆発音が響いてきた。

何事か?と窓辺に寄った男が見たものは・・・





漆黒に満ちたフェザーンの夜空を彩る・・・大輪の華々だった。





あとがきという名のなかがき

何分はじめてのSSです(こんな文章で良いのか?という手探り状態です)ので、
読み苦しい点がありましたらご容赦下さい。

「殿下の美貌」に関してちょっとした逸話を書くはずが、どうして・・・こうなったのか?
自分でもわかりません。
あまつさえ「表」とはどういうことか。「裏」があるのか?

諸氏方々のご指導、ご指摘を真摯に受けていきたいと思っております。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年02月04日 21:19