627 :ひゅうが:2012/02/08(水) 21:25:04
→560-562 の続きです。 1レスです。


銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「春は出会い(と政治)の季節」その2


――同 自由惑星同盟首都 ハイネセン 日本大使館前


「閣下!いくらなんでも一人では危険です!」

「そうはいかないよ。警備隊長。」

自由惑星同盟最高評議会議長 ジョン・ハッブルは、周囲のデモ隊から日本大使館に向かってとぶ野次や、自分たちに向けられる「専制国家に屈するな」という声、そしてそのさらに外側を囲む市民たちの怒りに満ちた怒号の中で小さく笑った。
当年とって56歳、政治家として脂の乗り切った時期にあたる。

それまでは継いだ派閥の維持に汲々としていた彼は、奇妙に凪いだ心持でここに立っていた。
彼を警護するために公用車から降り立ったSPたちや、警備の警察官たちの方が冷や冷やしているくらいだ。

日本大使館で内部の警備についている日本宇宙軍の兵士たちから向けられる鋭い視線は明らかに隔意を示しているし、大使館となった同盟商人の別邸では窓が全部締め切られている。

「ですが!」

「警備隊長。」

議長は静かに口を開く。

「君は自由惑星同盟市民とその代表から恥の汚辱を雪ぐ機会を奪うのか!?」

しかし出てきた声はまさに一喝といってもよかった。
一瞬で、彼に野次を飛ばしていた右派団体のデモ隊も沈黙する。
数十秒後にハッブル議長が門前へ向かって歩き出した時には背後からの野次は再開されたが、彼はそれをまったく気にしていなかった。


「自由惑星同盟最高評議会議長 ジョン・ハッブルです!大使殿に面会願いたい!!」


門前のやりとりを聞いていたらしい日本側の警備兵は、ぴたりと動きを止めた。
そして一人が歩み出て、残る5名ほどは大使館の前庭に整列する。

「気を付け!」

わざわざ同盟公用語を使い、指揮官らしき将校が腰から刀を抜き、号令をかけた。
デモ隊たちからは悲鳴に似た声なき声が駆け巡る。

「ジョン・ハッブル議長閣下にぃ 捧げぇ筒!!」

統制された動きで兵士たちは銃剣付きのレーザーライフルをハッブルに捧げた。


「ようこそ日本大使館へ、議長閣下。いつ暴徒が雪崩れ込んでくるかと冷や冷やいたしましたぞ!」

「相済まない。突然の訪問だが大使殿に面会は叶おうか?」

「もちろん!友邦の元首閣下をお待たせするほど我が国は不作法ではありませんゆえ。
自分は日本帝国宇宙軍 同盟駐在武官 米内一郎少佐であります!」

将校――米内はわざとらしいくらいの満面の笑みで敬礼した。

「警備隊長殿もどうぞ中へ! いや本当に助かりました。我々はまだ朝食も食べていないのです!」

門は開かれた。
このやりとりは、駆けつけていたTV局員によって生中継で放送されていたが、当事者たちがそれに気づくのはもうしばらく先のことになる。

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最終更新:2012年02月08日 21:54