198 :ひゅうが:2012/02/12(日) 05:21:56

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「6月の新政府」 その1


――宇宙暦789(帝国暦480=皇紀4249)年6月20日 銀河系サジタリウス腕
  自由惑星同盟 首都ハイネセン 同盟最高評議会ビル 第1議場


「諸君。まずは参集御苦労と言っておこう。2週間にわたる選挙戦を経て当選し、この議場に集った諸君はまさに時代を切り開くものであると確信している。――前おきはこれくらいにして。」

自由惑星同盟最高評議会 ジョン・ハッブル議長は咳払いをした。

「さっそく初の評議会会合に移ろう。まずはサンフォード副議長、現状の討議すべき問題を言ってくれ。」

はい。と少し力の入った声でロイヤル・サンフォード副議長が立ち上がった。
彼はハッブル議長にいち早く呼応して支持を表明し、与党内でその声望を高めた男である。
辺境星系上がりで今後の貿易増大を考慮すると重要な役割を果たすと期待されていた。

先の「エア回廊会戦」に伴う大規模疑獄で疑われたフリーダム・パートナーズグループとの収賄疑惑からとられた賭けにも似た行動だったが、現状はそれだけ彼の政局を見る目が確かである証拠だった。
ただしシンクタンクの意見に過剰に耳を傾けるきらいもあるために今後はその改善が次の議長就任の条件となるだろう。

「目下自由惑星同盟が直面している問題は3つです。
一つは慢性的な戦争状態による人口減少。もう一つは定期的に辺境航路を荒らされるために安定していない辺境星域の経済、そして最後はこれらが足を引っ張る形での同盟経済全体の疲弊とフェザーン資本の台頭です。」

「ありがとう。副議長。これに関し、人的資源委員長から報告と提案がある。レベロ君。」

は。と真面目そうな男が立ち上がる。
ジョアン・レベロ。
今回の政界再編により野党の非主流派から合流した人物で、これまで長らく民間企業を経営していたことから同盟の人的資源委員長に抜擢されていた。
当選回数は少ないが実直という評価を受けている。

「みなさんご存知のことと思いますが、現在銀河帝国は皇帝の交代の真っ最中です。
また、我々が友好関係を確立しつつある日本帝国および銀河系内郭国家連合との外交関係を確立すべく帝国は退位した皇帝フリードリヒ4世あらためジッキンゲン=ゴールデンバウム大公を特使として日本帝国へ派遣することを決定していると外務委員長から報告が入っています。」

外務委員長をつとめるヨブ・トリューニヒトが肯定の意を示し一礼する。
閣議に参加した面々はそれぞれ驚きを交えたざわめきで議場の円卓を満たした。

「これにはひとつ問題があります。フェザーンを経由するにせよイゼルローンを通るにせよ、わが同盟がその通行を許可するかという問題です。」

「当然だろうな。さすがに心情的には厳しいものがある。」

ホアン・ルイ国防委員長が独特の「ネズミのような」と称される声で茶々を入れた。
このホアンはレベロの盟友であるが、野党の主流派に属していた男でなかなか老獪との評価を受けていた。
現議長ジョン・ハッブルが利権に関しては白に近い灰色といわれるのと同様というのがその風評である。


「はい。そこで、先日フェザーンの同盟高等弁務官府に対し、帝国国務尚書リヒテンラーデ候から『捕虜交換』と『一定期間の停戦』が打診されております。」

ざわめきが大きくなった。

「捕虜として帝国にとらわれている同盟市民は現在のところ我々の名簿では170万人あまり。帝国側の資料においては150万から130万となります。
対して我々同盟が収容している帝国軍捕虜のうち同盟へ帰化を表明していないものは102万と4901名。これを一気に交換せしめようというのです。」

「それでは帝国側の方が返す人数が多くなりません?」

交通・警備委員長をつとめるシェーン・ランズフィールドがそう言った。
警察官僚上がりである彼女は、最高評議会の不文律で最低1人はいる女性入閣者の一人である。

「はい。その分を皇帝――いえ大公の同盟領通過でカヴァーしたいと。」

「しかし、そうなると元皇帝に同盟領を好き放題のぞかれるわけですが。それは保安面から考えてもあまり得策とは。」

そこです。とレベロは声の音量を強める。

「大公は別命や新たな協定の結ばれない限り、帝国へ帰還することはないと。その覚悟をもって赴任するとのことです。」

今度の驚愕は声にならなかった。

199 :ひゅうが:2012/02/12(日) 05:22:49
「人的資源委員長としてはこの申し出を受けるべきと考えます。――ああまだそのまま聞いてください。
そもそもこれまでの捕虜交換の形式においても外交官の役割を果たしている軍人の同盟領内への入国と外交官特権は保障されていますし、フェザーンにおいてのみでですが我々も外交官特権を相互に保障しあっています。
そして日本帝国とは外交官協定として『外交官特権』つまり身体の自由と通行の自由を保障しています。
銀河帝国政府はあくまでもフェザーン自治領が身許と安全を保障した者に限ってですが、同様の権利をわが国外交官にも保障する用意があるとのことです。これが何を意味するのか、分かりますか?」



レベロは熱のこもった眼で周囲を見渡した。
いち早く気付いているのは、外務委員長トリューニヒトであった。

「つまり、銀河帝国は少なくとも帝国内の大公国や公国、さらにはフェザーン自治領と同様の存在、『国家に準じる』存在として自由惑星同盟を暗黙の裡に承認する。そういうことです。」

「外務委員長の仰る通り。これは革命的といってもいい。
我々は、あのコルネリウス1世の『大親征』時の交渉でもなかった『自由惑星同盟の国家承認』の獲得に成功しつつあるのです。あくまで暗黙の裡ですが。」

委員の顔が明るくなった。

「また、このままではフリードリヒ4世が帰還する際には帝国はさらなる譲歩を行うともとれます。しかし当面それはあり得ない。つまり彼は、人質としての役割も負っているのです。『帝国・同盟間の和平』という最終結果に向けて交渉を行うという。」

「確かに、これは受けた方が得策であると私は思うが、委員諸氏は如何か?」

委員たちは、渋々にせよ、そうでないにせよ納得の表情で頷く。

「ではその方針でいこう。レベロ君、提案の方を。」

「ああ、そうですね。人的資源委員長としては、現在の同盟の民生部門の年齢構成ピラミッド『8の字型』を描きつつある現状から、大規模な構造改革を実行すべきだと提言いたします。
具体的には、日本帝国の民生技術、特に自動化や電子知性の採用、それに電脳化をもって。」

「まってくださいませんか。それではわが同盟はその産業や社会の基盤技術を日本帝国に頼ることになる。いざとなれば電子攻撃で同盟が制圧される悪夢はご免ですよ?」

「まさにそうでしょう交通・警備委員長。この点に関しては、日本側からブラックボックスを設けずに技術供与を行う用意があるとの返答をもらっております。
さすがに最新型とはいきませんが、特許の切れた諸技術とその周辺技術については『日本知的財産管理機構』が許可を出しています。
また、三菱電子情報、四海電算、Sonyマシンナリーブレイン、倉崎電子工業その他大企業8社がプロジェクトチームを編成し、現在我が国の電子企業各社とシステム概要について協議を行っています。」

さらに。

「国防委員長からも申し上げる。私が国防委員長に任じられたのは日本帝国からの技術導入を図り、わが軍の質的強化と省力化を両立するためだが、今回の日本側からの提案は乗るに値するものと考える。
単純計算で日本側と同様の省力化とはいかずとも、現状の改装でも同盟軍の主力戦艦乗組員を少なくとも半減させ得ることが明らかだ。少なくとも改装完了で1個艦隊あたり80万から90万名の人員が浮く。この分の人件費に加え、危機的状況を迎えつつある同盟軍遺族年金その他の支出をもってすれば我々は国家予算の20パーセント近い費用を浮かせることが可能となる。」

「それはこっちの台詞ですな国防委員長。財務委員長としても先年から発行が開始された国債の用途――軍人の給料から天引き分で強制購入という荒っぽい手段をとったが――を辺境星系開発や、現状軍事費で圧迫されつつある民生や新技術導入に回す方が今後の財政状況としては現実的であると思う。
私はインフレーションを起こし強制返済という手段しか後世に残すつもりはないからな。」

財務委員長ユーリ・クロパトキンがふくよかな腹から張りのあるテノールで援護射撃を行った。
もともと辺境星系のエル・ファシル自治政府首相を務める前は財務省の官僚であった彼は軍事費に関しては少々ではなく厳しい。

自治政府に転職したのも「軍拡予算を削りに削った報復」とさえいわれており、それが事実である為だ。

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最終更新:2012年02月15日 08:34