200 :ひゅうが:2012/02/12(日) 05:24:00

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「6月の新政府」 その2


「しかし、それも帝国との停戦を行うことが前提でしょう。エル・ファシルのように強引な侵攻を行われたら――」

「その点に関しては、国防委員会において新規導入を計画している日本宇宙軍の『1号型要塞砲』と『機動重砲』などによる辺境星系への簡易拠点構築が答えになると思うよ。
詳しくは資料を見てほしいが、本来なら艦隊戦闘力の何割かを代替できるために2、3個艦隊を解体しても防衛力は維持できるが、改装の必要に加え質的強化を図るためにも現状維持を選択した。そのかわり第11、第12艦隊用の予算は凍結されることになっているがね。」

統合作戦本部を納得させるのは大変だったよ。とホアン国防委員長は肩をすくめた。

「ついては、これらのシステム構築には警察機構や運輸機構も参加してほしい。システムが別とはいえ、ある程度の互換性はないといけないから。」

ランズフィールド交通・警備委員長はしばし考え、「条件付きではありますが、それほどのことなら賛成いたします」と言った。


「もちろん、警察のみなさんたちの意見も聞きたい。これは同盟全体をカバーしないと意味がないことだからね。そしてそれができるのは君のような警備畑を知り尽くした女性だと思う。」

ハッブルの御世辞に光栄です、とシェーン・ランズフィールドは苦笑した。

「続いて、外務委員長。フェザーンの問題に関しては君から提案があるといっていたね。いってみてくれ。」

はい。と、トリューニヒト外務委員長が立ち上がった。
これまで通商委員会や国防委員会が合同で運営していたフェザーンの高等弁務官府はこのたびの組閣で新たに編成された外交委員会へと権限が移されている。
そして同盟が開設した初の「大使館」も同様だ。

人材についてはこれまで高等弁務官府勤務だった官僚や、退役軍人、そして通商委員会に属して自由惑星同盟を構成する各星系との「内交」を行っていた人々が転用されていた。


「同盟経済の弱体化に伴うフェザーン資本による同盟市場の蚕食は懸念事項です。
そしてそのバックになっていたのは、我々が対帝国戦争を継続するために必要な資金をねん出するための『国債』をフェザーンが比較的低利で引き受けてくれていたからです。
それを理由に関税障壁は下がり続け、フェザーンは帝国と同盟をつなぐだけで莫大な利益を上げている。
かの自治領は帝国皇帝の直轄ということに名目上はなっていますから、フェザーンからオーディンまでは実質無関税ですからね。」

「うん。」

委員全員が頷いた。

「対して、我が国の企業は引き受ける余裕を持っていません。しかし――日本帝国はどうでしょう?」

「外務委員長、まさか。」

「そうです。日本帝国およびその周辺国に引き受けを要請します。ただし、日本側はフェザーンのように中央銀行に預けるのではなく、投資先に困っている日本側民間金融機関に引き受けてもらいます。
その代償に、自由惑星同盟軍は、その新世代の武器規格については日本帝国規格を受け入れ、また合弁を前提にですが軍需産業への参入を許します。」

「国防を他国に!?部分的とはいえ・・・」

「合弁でもそれは危険すぎやしないか?」

委員たちは魔法の種明かしを聞いて顔色を変えた。

201 :ひゅうが:2012/02/12(日) 05:24:32

「いえ。あの国としても『国防の一部をわが同盟に担保してもらう』ということから合弁など条件はあのフェザーン商人よりよほどよくあります。
同盟国である大英帝国よりもよほど優先されているとさえイヤミをいただきましたよ。」

そう言ってトリューニヒトは頭を掻いた。
最近この議員はこういう人間味のある動作が増えている。


「うむ。要約すると、『日本側は本気でこちらを支援しようとしている』と考えてもいいのか?」

「はい。ただし、特許切れ技術に関してはフェザーン相手の取引を妨害することは民事不介入の原則からできないともいわれていますが。」

「日本人は帝国にも技術を売るつもりか!?」

「はい。ただし、さすがに軍事技術や最新技術については同盟への供与を優先するとの確約をいただきました。
近日中に『同盟・日本軍事技術協定』として文章化されるでしょう。」

「皆、聞いてくれ。」

ハッブル議長は立ち上がった。

「我々が先方の厚意に甘えるままであれば、日本帝国は我々を見限り帝国と同盟の間に武器を売り濡れ手に粟となり暴利を貪ることも可能だろう。だが、そうはなっていない。
わが国が150年にわたって銀河帝国に抵抗し続けたその歴史が、先人たちの血と汗が信用となって日本側の厚意を引き出しているのだ。」

そして、それに甘え続けてはいけない。とハッブルは思う。
あの国はまだ我々が気付いていない別の思惑も持っているに違いない。


「我々が行うべきは、かの国の歴史にある『メイジイシン』のように同盟を強くし、隣に並び立つに足る存在であると真に認めさせることだ。
可能であればかの国の集団安全保障機構である『銀河系内郭国家連合』への加盟が望ましい。」

「そうなれば、わが国は電子知性もあわせれば2000億を超える巨大な味方ができますな。」

レベロ人的資源委員長が付け加える。

「そうだ。そうなれば、銀河帝国は軍事的なオプションをとることなく大手をふるって対処が可能になる。
我々はこの友好関係を『相互同盟』へ発展させ、もって『銀河帝国包囲網』を構築、帝国自身の体制改革か、過激なものでは『革命』を誘発させることを目標にしたい。」

委員全員は、夢物語を聞いたような、しかし丘の上から彼方を見つめたらそこに見知らぬ新たな海があったというような呆けた表情をしていた。

「諸君。今ここに至って、軍事的勝利を積み重ね屍と血を積み重ねてボロボロになりながら帝国を打倒するという選択肢以外に取りうる手段がこれだけ増えているのだ。
これから我々は歴史を動かす。
動かさねばならない。今のまま立ち止まっていては、皇帝が退位してまで関係構築を図る銀河帝国に後れを取ってしまう。
気が付いたときには我々が末期銀河連邦で、帝国が勃興期の大英帝国に生まれ変わっていては目も当てられん。」

委員たちは顔を見合わせ、うなづいた。


「異論があれば遠慮なく言ってほしい。」

議長は深々と頭を下げた。
すると・・・

パン、パン、パン・・・

トリューニヒトが手をたたき始めた。続いてレベロが、そしてサンフォードがそれに続く。そしてシェーン・ランズフィールドが恥ずかしげに、クロパトキンが力強くそれに続き、しまいには全員がそれに加わった。

「6月の新政府はこの時をもって成立した」とは、のちのハッブルが語ったところである。
彼らは、坂の上に一筋の雲が浮かんでいることに気付いたのだ。

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最終更新:2012年02月15日 19:28