315 :ひゅうが:2012/02/12(日) 21:40:13

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「大使」


――皇紀4249(宇宙暦789)年6月26日 銀河系白鳥腕
  日本帝国 新横須賀軍港


「出航~っ!」

軍楽隊が由緒正しい行進曲「軍艦」を演奏する中、白く輝く豪華客船「初瀬」が護衛艦隊の先導のもと出航してゆく。
日本政府がチャーターしたうえで突発事態に備え、船員以外にも軍人が多数乗り込んでいる客船の船上からは帽振れを行う軍人や正装をした文官、そして経済人たちが埠頭に向かって手を振っている。

今回の旅程では当初は軍艦を用いることも考えられたが、いかめしい印象を抑えたうえで民間人も多数乗り込むことを考え、豪華客船がチャーターされたのだった。
マストには運行に際し日本宇宙軍が関与していることを示す旭日旗がレーザーで描き出され、皇族旗もともに上がっている。

予定では新横須賀を出航後に「初瀬」は宇宙軍連合艦隊第1艦隊から分派された汎用戦闘艦部隊を周囲におき、その外側と前方を航宙護衛総隊の第11護衛艦隊が形成し護衛の任につく。
既に鎮守府級戦艦の長距離航行については可能と実証されていたものの、今回の「正使」派遣にあたっては万が一を考えて遠距離護衛が可能な新鋭艦のうち汎用艦や大きくとも機動陣地級(装甲巡洋艦)で艦隊は構成されていた。

正使である月詠宮裕子内親王をはじめとする代表団は「初瀬」座乗だったものの、護衛部隊の旗艦は装甲巡航艦「春日」に置かれている。
同型艦「日進」とともに、護衛艦隊は汎用戦闘艦「星風」型2100、補給艦「音戸」と「速吸」を中央に置く。
前方の航宙護衛総隊所属艦は巡航艇「姫島」型500がピケットラインを構成。艦隊の周囲には同様の梯団が6つほど存在している。
最後尾には巡航艦「志布志」がおり護衛総隊側の旗艦をなしていた。
この二重の護衛がなされているのは、日本領内における船舶護衛が航宙護衛総隊の管轄であることや連合艦隊所属艦がまだ試験運用であるということも影響している。


「行きましたな。」

埠頭で出発を見守っていたウォルター・アイランズ駐日自由惑星同盟大使は、書記官の言葉に頷いた。

「ああ。行ってしまわれた。」

何もかもが、若手政治家であるアイランズにとっては目新しいものだった。
皇居における信任状授与式に出席して礼服でガチガチになりながらも写真におさまり、壮行会では熱意だけで書き上げた演説をところどころつまりながらも行い、そして日本や銀河系内郭国家連合の外交官たちと協議を重ねる。

もちろん、続々と入国をはじめている自由惑星同盟のジャーナリストや経済人、そして軍人たちについて生じる諸問題も処理し続けなければならない。
ようやく開通した超光速通信(FTL)回線を使い、興味本位でこちらをのぞきこんでくる同盟の人々の相手もしなければならない。
今日も、商魂たくましく入国し報道室を開設している自由惑星同盟のジャーナリストたち相手の記者会見を行っている。

だが。

「さて、やることは多いぞノエルバーガー書記官長。仕事は待ってくれない。嬉しいことにな。」

彼は幸福だった。
人間にとって自分がやっている仕事が歴史をつくるものであるということほど、その遣り甲斐を感じさせるものはない。

そしてそれは、トリューニヒト議員の派閥のナンバー2だった若手議員に得難い経験をさせていくことになるのである。

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最終更新:2012年02月15日 19:39