365 :ひゅうが:2012/02/13(月) 05:20:03
銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「返礼使」その1
――宇宙暦789(皇紀4249)年7月17日 銀河系サジタリウス腕
自由惑星同盟領 エア星系外郭 標準時0800
「間もなく、予定時刻です。」
第5艦隊参謀 マルコム・ワイドボーン中佐が報告するのとほぼ同時に、旗艦「リオ・グランデ」の重力波センサーは重力震を感知した。
「重力震検知!コズミックマグニチュード7.1、距離120光秒!」
「定刻通りじゃな。」
時間厳守はいいことだ、と自由惑星同盟軍第5艦隊司令 アレクサンドル・ビュコック中将は口元をほころばせた。
前方にあわせられていた超光速センサーの感知した通りに空間がゆがむと同時に背後からの星の光も歪み、次の瞬間「顕現光」と呼ばれる光の衝撃波とそれにより生じる発光現象が発生した。
そしてそれがおさまる頃には、あらかじめ付与されていた識別信号や艦艇表の通りの集団が星の海に出現していた。
「前方の艦隊より信号!『われ、日本帝国宇宙軍第1特務艦隊。貴国へ向けた使節団を帯同し回廊を超えて来たれり。会同を祝す。』」
「返信。『われ、自由惑星同盟軍第5艦隊。貴艦隊護衛の命を受け参集せり。500年の時を経た帰還を祝す。』」
ニヤリと笑ったビュコック提督は白い口ひげをいじりつつそんなことをのたまった。
通信員は吹き出し、そして「了解しました!」と復唱した。
「通信。共通周波数に乗せ航路情報を送信。本艦隊は0830時より先導護衛を開始する。主力は紡錘陣形で前方20光秒に占位。第51分遣艦隊および第52分遣艦隊は日本艦隊の左右10光秒で第1護衛序列で待機。後方20光秒に第53分遣艦隊を配置する。こちらは通常航行序列とする。」
「了解しました!」
「長官。日本艦隊旗艦『春日』と回線がつながりました。」
分かった。とビュコックは言ってからベレー帽をかぶり直した。
「同期終了。映像、来ます。」
366 :ひゅうが:2012/02/13(月) 05:20:55
ブリッジのモニターに映し出されたのは、ネクタイとブレザーという軍装に海軍のそれによく似た制帽を被った人物だった。
真面目そうな風貌に、少し細い目、顎が若干上を向いているのが特徴だろうか。
「日本宇宙軍第1特務艦隊司令を務めております、南雲忠一中将であります。この度はお世話になります。」
「自由惑星同盟軍第5艦隊司令 アレクサンドル・ビュコック中将です。なんの、この年になって『帝国』軍を護衛しようとは思ってもみませんでしたわい。」
ビュコックの毒舌に一瞬ブリッジが凍った。
しかし、南雲の方は笑い声をあげてそれにこたえた。
「はっはっは。確かに。しかし誤解しないでいただきたいですが、我々が国名にインペリアルを冠しているのはそれ以外に適当な訳語がないからですよ。
単にジャパンでもニッポンでもどちらでも好きな方で呼んでいただければ結構です。」
ビュコックは口元を吊り上げた。
「それは失礼を。年をとると口が悪くなっていけませんな。」
「提督が特に口が悪いのでは?私はもうすぐ60になりますがそれほど毒舌という自覚はありませんよ?」
ブリッジの人々はぎょっとなった。
どう見ても映像の南雲は20代半ばから30というところだ。
「これは一本取られましたな。続きはまた今度にしておきましょうか。」
「ですね。今度そちらを訪問させていただきたく思うのですが、いかがでしょうか?」
「是非とも。正使殿や代表団の皆様方もよろしければご招待申し上げたい。――いや、こんなむさくるしい軍艦で会うのもなんですな。できればそちらの客船で豪勢な食事にありつきたいものです。」
「ええ。お待ちしております。」
二人は敬礼し、通信は切れた。
「よろしかったのですか?いささか――」
「いやなに。帝国だというから冗談の意味を解さないような連中ばかりと思ったがそうでもないようだとわかってよかったじゃないか?」
ワイドボーンの責めるような声にビュコックはすっとぼける。
「それに、こうして公式にお呼ばれできるのだ。悪くはあるまい?艦隊司令部丸ごとでバイキング大会だ。」
気の早い参謀連中が歓声を上げる。
「閣下。私たちもいきたいです。」
ちょっと不満そうな旗艦艦長に、ビュコックはおおそうか?と言ってしばし考え、
「ではリオ・グランデ全艦で押しかけるとしようか?」
歓声が巻き起こった。
「ただし諸君に言っておかねばならないことがある。」
真面目な表情になってビュコックは言う。
「くれぐれもきれいなご婦人方に粗相のないようにな。今見ても分かったようにあちらは年齢と外見は比例していない。ワシの女房と同年代とベッドインは少々勘弁だろう?」
下品ですよ、閣下。と言いながらもワイドボーンも笑っていた。
最終更新:2012年02月15日 19:42