374 :ひゅうが:2012/02/13(月) 08:02:39
→365-369 の続きです。


銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「返礼使」 その2


この日のうちに、使節団はある場所を訪問した。
アーレ・ハイネセン記念廟。
ハイネセンのシンボルである巨大なアーレ・ハイネセン像のたもとにある「長征1万光年」の記念館であり、その過程で亡くなった仲間たちの名前が刻まれている記念碑もある広大な公園である。

急な予定変更であったのでついてきた記者は少なかったものの、片膝をついて献花を行った正使の姿は、歓迎の晩餐会の映像と共に大きく報道されることになった。

「まずは、長旅お疲れ様でした。殿下。」

「いえ。歓迎痛み入ります。議長閣下。」

晩餐会の席上、ハッブル議長は切り出した。

「どうですか?我が国は。」

「活気にあふれており進取の気風を感じます。さすがは長征1万光年をへて一から新たな国を作り上げられた方々の国だけはありますね。」

「あなた方にそういわれると、なんだかこそばゆい感じがしますね。私たちの大先輩のようなものですから。」

「ご謙遜を。私たちの方は国家を挙げた大脱出だったのであなたがたの国父アーレ・ハイネセンのような苦難に満ちたものではありませんでした。」

なるほど。とハッブルは頷く。
晩餐会の席では、日本側の使節団と同盟側から選ばれた人々が互いに向かい合うような形で座り、めいめい会話を楽しんでいる。

その様子をちらと見た月詠宮裕子内親王が浮かべた笑みは、やはり東洋的な曖昧なものだった。

「だからでしょうか。我が国の中にはあなた方を『自由を見捨てて自分たちだけ逃げ出した民主主義の裏切り者』呼ばわりする者もおります。嘆かわしいことですが。」

「そう思われてもしかたないことは理解しておりますわ。しかし、ひとつだけ言っておくべきことが。」

「なんでしょう?」

あらたまって姿勢を正した裕子は言った。

「我が国は、曲がりなりにも世襲の元首がおりますので、民主主義というより『民本主義』というべきでしょう。そのあたりは色々と神学論争になりかねないところがありますから概ね『議会政治』とか『議会主義』とも呼んでおりますが。」

ハッブルは苦笑した。

「そのあたりの微妙な違いが判らぬ者のなんと多いことか。議会ときたら民主主義、あるいは共和主義と脊髄反射するものも多いのです。」

「私どもの国でも区別のつく人間の方が少ないでしょう。互いに違いを知るということが結局は自分を知るということになりましょう。」

375 :ひゅうが:2012/02/13(月) 08:03:09

確かに。とハッブルは頷く。
裕子は言った。

「『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか』ご存知ですか?」

「確か、ゴーギャンでしたか?」

「いえ。もともとは大昔に地球のヨーロッパというところに攻め込んで破壊の限りを尽くした人々の隊長が自ら滅ぼした都市の壁へ落書きした言葉だそうですよ。」

それはまた。とハッブルは笑った。

「当の彼らも、出会わなければ互いの違いに気が付かなかったのかもしれませんな。そして出会わなければ一方が一方を滅ぼすことも。」

「しかし出会ったことで知ってしまったことは今さら変えられはしませんわ。
そして知ったことで互いがどう変わるかについても、私たちは考えなければいけません。」

「共通項を持ち、互いが互いを必要とするがゆえ、私たちは今ここにこうしている。
歓迎すべきことでしょうな。」

「ええ。本当に。」

二人は互いに笑いあった。
人体の基本構造が違う義体と生身でも笑顔は同様である。
つまるところ、人間という生物を基本として発達した知性は根が同じ分だけ似通う。
そこに差異を見つけるよりも、共通項を見つける方が人間にとっては好ましいことだろう。

なぜなら、人間が完全に一人で生きていけるほど生物体単体としての人類は強靭ではない。
そしてそれは星の世界に生きるという現実の前ではよりいっそう強調されこそすれ、ほかの特徴に埋没することはないのである。

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最終更新:2012年02月15日 19:45