558 :ひゅうが:2012/02/14(火) 07:36:55

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「『戦艦』誕生」


――皇紀4249(宇宙暦789)年7月29日 銀河系 南十字・盾腕
  日本帝国 大神宇宙軍工廠 第1S級ドック


大神宇宙軍工廠は、比較的最近に誕生した工廠である。
というのも、もともとサジタリウス回廊の後方兵站基地である新舞鶴・新佐世保工廠といった小型艦専用の量産設備が建造されたのに比べれば大型の機動鎮守府級や機動陣地級の建造設備はどうしても大きさの制限があったためだった。

建造可能設備はあるが、横須賀軍港は首都前面を守る役割を兼ねているために安易な改造を行い難く、呉軍港は設備が巨大化しすぎていたために整理の真っ最中だった。
このタイミングだったからこそ、東西騒乱による分裂以来、最大の醜聞「八島叛乱未遂事件」が発生したわけなのだが、夢幻会が再結成された頃の状況はこのようなものだった。

これに対し、夢幻会は工廠を「汎用戦闘艦の量産専用」として新設して万が一の銀河帝国軍の侵攻に備えるとともに、既存の軍港や工廠を思い切って超大型艦建造設備に転用することを決定。
さらには超大型艦をはじめから建造できるS級ドックを備えた大規模工廠を呉と回廊とのちょうど中間あたりに新設したのだった。

以来15年あまり。
設備の据え付けは完了し、実験艦隊建造というテストも完了していた。
金属質小惑星を丸ごと「太陽炉」で溶かして部品に回すという基本的な工廠の機能はそのままに、大神工廠は宇宙軍の新たなシンボルとなる「軍艦」を建造していた。


この日、第1S級ドックを見下ろす管制室には、多くの高級軍人や工事関係者の整列した姿があった。
神主が祝詞の奏上を終わり、一人の軍人が前へ進み出た。
懐から和紙を取り出した軍人は、その中に墨痕鮮やかに記された文章を読み上げる。


「ここに建造作業の今や成るを認め、慎みてこのくろがねの城を『扶桑』と命名す。
皇紀4249年7月29日 兵部大臣 小林義助。」


来賓として参加していた人々と軍人はヘルメットをかぶった工廠長から小さな手斧を手渡され、あらかじめ用意されていた卓上にぴんと張られた綱の方まで歩み寄る。
いちにのさんで呼吸をあわせた彼らは、綱を断ち切った。

と同時に立体映像で投影されていた「クス玉」が割られ、大きく「第1001号艦『扶桑』」の大きなサインが虚空に描き出された。
大神軍港鎮守府所属の軍楽隊が行進曲「軍艦」を奏で始める。

はるか前方の扉が開かれ大型の牽引艦によって全長53キロメートルにまで達する巨大な艦体はゆっくりと動き出した。
来賓たちは拍手をしつつそれを見送った。

559 :ひゅうが:2012/02/14(火) 07:37:32

「おう嶋田。お疲れ。これでようやっと1番艦が完成だな。」

「ああ。実際にできてみると呆気ないものだ。だがまだまだ計画の端緒についたばかりだな。」

宇宙艦隊から「見学」にやってきた多くの将帥の一人、山本五十六は計画立案者である嶋田の横に立ち、硬化透明テクタイトの向こうで少し距離感を間違えそうなほど大きい「軍艦」を見ていた。

戦艦「扶桑」。
日本の古名を冠されたこの戦艦は、はじめから長距離航行を行い同級艦と「艦隊戦」を行うことを前提に建造された初の艦だ。
これまでの機動鎮守府級と呼ばれる戦艦はどちらかというと移動する要塞としての意義が強く、これまでの大改装で一定以上の戦闘力を持っているとはいえこと速度に関しては汎用戦闘艦に劣ったものでしかなかった。

しかし、「白鷺」をはじめとする実験艦隊で試験が行われていた新型の縮退機関や重力波推進器といった新世代の装備が実用化されたことでこの弱点は克服され、また兵装についてもこれまでの要塞用のそれを基本としたものでなく新設計にものの搭載が行われている。
外洋機動艦隊計画では「実用試験艦」と呼ばれるこの「扶桑」は同型艦「山城」や、初の実用型航母「蒼龍」と「飛龍」と共にこれから1年をかけて不備の洗い出しを行うことになっていた。
艦体の基本構造については実験艦隊の建造までで確立されているために、洗い出しが済んだあとは「扶桑」型や「蒼龍」型の改良発展型の艤装に改良がくわえられる予定だった。

現在は予定艦名「長門」型と呼ばれている外洋機動艦隊計画の主力艦や一気に大型化した予定艦名「翔鶴」型の建造はそれからということになる。


「伊勢型あらため『星風』型の運用実績も良好だ。この分だと年内に量産に移れるだろうな。」

「そして退役した艦や現在回廊防衛軍集団が保有する重砲類は同盟軍へ売却か無償貸与になるか。」

まぁ、アイデア自体は「原作」の帝国軍も実行できているから急がねばならないことは確かだな。と嶋田は言った。

「そうだな。それに同盟軍でも建造計画が持ち上がっている。非公式にだが、旧式艦の購入かもしくは建造の依頼が出されている。」

「やっぱりか。」

「ああ。」

二人は、艤装岸壁に向かう「扶桑」の姿を見ながら肩をすくめた。

「あの一撃が、歴史を変えたか。」

山本が言った。

「ああ。あのサジタリウス回廊会戦がこの世界に『大艦巨砲主義』ならぬ『移動要塞主力艦主義』を目覚めさせた。」

嶋田も応じる。

「昔のように巨大戦艦が主力なのではなく、航空機に相当する汎用主力艦が現在の主力艦なのは何の皮肉かな。」

やれやれ、ままならない。
あの憂鬱な日々で航空機を主力兵器として目いっぱい活用した男たちは、ため息をついた。

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最終更新:2012年02月15日 19:56