772 :名無しさん:2012/02/15(水) 21:22:32
『民主主義というもの』
著:ヤン・ウェンリー

 これまで我々は二つの政治形態しか知らなかった。
 ゴールデンバウム王朝銀河帝国の専制政治と、我々自由惑星同盟の民主主義である。
 だが、私達は新たな政治形態を知る事になった。
 それらを元に、改めてそれぞれの政治の利点と欠点を考えてみたいと思う。

 専制政治の利点は明らかである。
 君主が英明で実権を握っている限り、ダイナミックな改革を成し遂げる事が出来る。
 良い悪いは別として、ルドルフの行った銀河連邦から銀河帝国へという変化はその最たるものだろう。
 反面、欠点は一度上が腐れば、或いは悪行を働けば、それを止められる者が殆どいない、という事だろう。
 痴愚帝、流血帝といった銀河帝国の皇帝達がそれを証明している。

 一方、民主主義はどうだろう?
 こちらの利点は矢張り民衆が直接政治に関われる、という点に尽きる。
 政治家とは絶対ではなく、どうしようもなければ数年おきの選挙で交代を強制出来る。すなわち、常に民衆の視線に晒されている事が一定レベルの規範を生み、絶対権力を握る事が困難だという事にある。
 反面、欠点としては、民主主義はその根本において衆愚政治を内包するという点にあるだろう。
 民衆が政治に対して強い関心を抱いている間は良い。
 彼らが政治家というものをきちんとその外面ではなく、実績を踊らされる事なく把握し、選べる間は良い。
 だが、ここで選挙というものが壁となる。
 数年ごとの選挙において勝利した者こそが政治家であり、「政治家、選挙に落ちればただの人」という言葉がある通り、選挙に落ちればそれはもう政治家ではない。
 それ故に、その数年の間に自身が落ちない為に目先の人気取り政策に飛びつきやすい。
 分かりやすい人気取りがタレント議員と呼ばれるものだろうが、これは一時置いておく。
 重要なのは、その人気取りや単純にその人気を持つ個人に民衆が目を取られれば、肝心の実績が後回しにされるという点にある。
 そうして何時しか政治に関心を失えば、「権力は常に腐敗する」、というのは古来より言われ続けてきた言葉である。

 では大日本帝国やその他の各国はどうだろう?
 実は立憲君主国といっても、大日本帝国と大英帝国ではその内実は異なる。
 大英帝国のそれが王という象徴を抱き、その下に完全に民衆によって選ばれる議会と内閣を有するのに対し、実は大日本帝国の議会とは世襲の貴族院と、選挙で選ばれる衆議院とに別れている。
 こう書くと貴族が実権を握っているのかと思われるだろうが、貴族院とは直接政治には関わらない。
 では何をしているのかと言うと、彼らが行うのは戦略である。
 すなわち、選挙という目先に左右されずに長期的なグランドデザインを描き、衆議院とそれによって選ばれた内閣が目先の利益に動かないかを監視するのが役目である。
 貴族院自体は政策立案を行わないが、衆議院で決議された議題や内閣から挙げられた政策を拒絶、却下する権限を有している。とはいえ、好き勝手出来る訳ではなく、そうした権限を発動した場合にはきちんと「何故、どのような理由で、どのような見解から却下したのか」をきちんと民衆に示さねばならない。また、この時、回りくどい言い方は許されず、最低でも半数以上の国民が理解出来るよう極力簡潔明確に直接的な表現を行う事が義務付けられている。

 何故、このような政治形態が成立したのか?
 それを調べてゆくと、この国が民主主義に裏切られ続けてきた歴史を有している点に行き当たる。
 かつて地球時代に共に血を流した大英帝国からは裏切られ、民衆によって選ばれた合州国から戦争をふっかけられた挙句、当の相手は民衆に選ばれた代表が戦争を強行し、自滅した。
 これらが他ならぬ民衆に対して、民主主義というものに対する疑問を抱かせたのは疑いがない。
 とはいえ、それでも尚、彼らが極端に走らなかった事に我々は感謝すべきだろう。
 我々は他ならぬルドルフが、軍事力で独裁者である皇帝となったのではなく、銀河連邦の市民によって至極民主的に独裁者である皇帝となった事を忘れてはならないのである。

※後に宇宙艦隊総参謀長を務めたヤン大将の著書の一冊
ここの文章は一部を抜粋しているが、他に多様な観点から政治の利点欠点を彼独自の皮肉を持った視点から分析しているとされる

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最終更新:2012年02月18日 21:58