330 :ぽち:2012/02/19(日) 03:57:20



「ふう」
銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムは深いため息をついていた

原因はひとつ
その日、大日本帝国からやってきた使節団である。
愚にもつかぬ、といっては何だが少々目先の狂った(としか表現できない)贈り物を大量に積み上げられて
いったいどう反応しろというのだ。
「フロイライン・マリーンドルフ あなたはこれをどうみる」
「ニホンとやらは私たちに卑屈に媚を売るつもりはない、しかし積極的に敵対する意思はもっとない、ということかと」

ニホンへの敵対をほぼ公言したラインハルトの前から股肱の臣であったキルヒアイスが去り信頼はともかく信用できる臣下は
もはやヒルダのみとなっていた。
そして、ラインハルトにとって耳の痛い直言をいうことができるのも最早彼女一人だった。
オーベルシュタインも可能ではあるが、彼の発言は基本他者の排除と悪所の強調のみであり、己の主君も例外ではなかった。
それはそれで貴重といえる存在なのだがそれでは配下はついてはこない。
寛容であればよいというものではないが寛容さが全く無いというのは論外である。
その事にオーベルシュタインは多分気づいてない。

「しかし、どうすればよいのやら」
「既に理解しているのではないか?」
「何者?!」
突如暗闇の向こうからかけられた声に反応するラインハルトとヒルダ。
その声に応じて姿を現したのは、ローティーンに見える少女。
しかしだからといってラインハルトは油断などしない。
ここに何者にも察知されず姿を現した時点で只者ではないと判るし、いまだ誰も駆けつけない時点で尋常でないと判る。
「確かあなたは」
そう言いながらヒルダは思い出す。
たしかニホン使節団の末席に雑用係という触れ込みで同行してきた少女だ。
まて、本当に彼女は少女なのか?
ニホンから来たという時点で外見と本性は等号で結ばれはしないのだと思い出す
彼女は外見どおり女性なのか?
いやむしろ彼女は人間なのか?
「改めて自己紹介を。私の名は更科柚子。ユズコと呼んでもらってかまわない。
 使節団の本当の目的は、私が貴方と会見することなのだ」
本来の目的?
「正しくは皇帝ラインハルト、貴方の説得だ」
どういうことか?
「ヒルデガルド嬢の言ったとおり、我等は銀河帝国とやらに屈するつもりはないし争う意思はそれ以上にない。
 そこで皇帝陛下に思い出してもらいに来たのだ」

331 :ぽち:2012/02/19(日) 03:58:33
思い出せ?
「そう、貴方の戦いはどこから、どんな理由で始まったのだ?」
そ、それは・・・・・・
「少なくとも戦うために戦い始めたのではないだろう?
 他者を踏みにじり自分を崇拝させるためでもあるまい?」
そのとおりだ、おれの戦いは・・・・・・
「奪われたものを取り返し、力が無い事を理由に踏み躙られるのを肯定する社会を正す、だろう」
なぜ知っている・・・・・・
「同盟にしろ我が大日本帝国にしろ、あのルドルフの阿呆の残滓が己が物と主張する権利など無い。
 あの阿呆を否定した貴方たちならなおさらだ」
ぐぬぬ
「貴方も殺し合いを望んでいるわけではないだろう?
 戦いがしたいなら私が貴方の相手をしよう」
お前が、だと?
「わたしはバイオノイド。脳のコンピュータは日本本土のメインコンピュータに直結しており即座にデータのダウンロードが可能だ
 例えば各種格闘技のな」
それは凄いな
「空手に柔道、剣道カポエラムエタイ   おやテコンドーは失伝しているようだ
 変わった所ではバリツにナントアンショウケンにナントバクサツケンにナントレッシャホウ・・・・・・誰がこんなデータ保存したの」
最後三つはなぜかザコ臭を物凄く感じる。
艦隊指揮がしたいなら超優秀シミュレータを格安・・・・・・もとい適正な値段で譲ろう」
なぜ言い直す?
「この世界・・・・もといこの銀河にはいささか娯楽というもののレベルが低過ぎる。
 われら大日本帝国がとことんまで引き上げてやろう」 ニヤリ
その笑いが・・・・物凄く怖い
予断だがこの後大日本帝国から提供された様々な娯楽は帝国、同盟を問わず大ブームを引き起こした。
精神をダイブしてのTRPG、質量ともに練りこまれたマンガなる印字媒体
だがもっとも受け入れられたのは立体ですらない、二次元映像による娯楽番組とTVゲームと呼ばれるものであった。
特に「ルドルフの気にいらない」娯楽は徹底的に排除され、現在存在しない=かつて大帝に否定されたという理論で
新しい娯楽の創造を否定されてきた帝国においてその広まりは凄まじいものがあった


「いやあロイエンタール、家ではいまソロモンの鍵というゲームをやっていてな、あれは奥が深い
 エヴァがおれより上手かったりするんだぞ」
「貴公のいない昼間に練習して無聊を囲っているのではないか」
「そういうお前は何やってるんだ」
「何もやってないという選択肢は無いのか  まあボンバーマンというゲームがいいな あの爽快感はちょっとクセになる」
「どっちかというとビッテンフェルトが好みそうだな、アレは」
「まったくだ」
(『一緒に帰って噂されると恥ずかしいし』だと 女に冷たくされたのは久しぶりだ
 いやむしろ始めてかもしれん・・・・・好きとか嫌いとか最初に言い出したのはこの俺だと言うことを教えてくれる
 ふっふっふ 燃えてきた・・・・・・)

「こういってはなんだがビッテンフェルト、貴公が落ち物パズルを好むとは意外だったぞ」
「まあな テトリスもだがコラムスにプヨプヨとなかなか尾を引く
 うっかりアレにかまけて徹夜はおろか仕事をサボってしまいそうだったぞ」
「しかし「あの」オーベルシュタインはどんなゲームをやっておるのだろうな」
「情という要素の全く入らぬ経営SLGだろうよ
 でなければ友達がいなくて一人さびしく『黒ひげ危機一髪』とか『モノポリー』とかじゃないか」
「ほう、そう思うか」
「思うとも・・・・・ってオーベルシュタイン?!」
「貴公らが私をどう思っているかよく理解出来た」
ちなみに新無憂宮の廊下でオーベルシュタインが周囲に誰もいないのを確認した上で壁や柱に向かって
棒っきれをふりまわし「約束された勝利のけーん」とか「十七分割」などと(塩沢ボイスで)呟いてたのを見たのは
「帝国のフォーカス野朗」ことミュラーただ一人だったのだが彼は懸命にもそれを誰にも話さなかったので
その出来事は誰にも知られることは無かった

332 :ぽち:2012/02/19(日) 04:00:22
「あの海賊との戦闘をすべて公開した理由、貴方なら判らない訳が無いだろう」
そう、あの映像だけでその圧倒的な戦力は理解できる。
戦術も戦略も無意味なものとしてしまいそうなあの火力
何より恐ろしいのが、それが彼らにとって「知られてもかまわない」レベルなのだということだ
ハッタリだと断じてしまうには危険すぎる
「さあ選ぶがいいラインハルト・フォン・ローエングラム 戦うのかそれ以外か」


30年後
新無憂宮の一室で、壮年の男が二十台半ばの青年とともに果て無き書類山脈へと挑んでいた。
彼らの足元には幾人もの敗退者たちの屍が転がっている。
そこに「人はこれほど美しく老いることができるのか」と感嘆したくなるほど美しい
50歳前後の女性が入ってきた。
「陛下、アレク、そろそろお茶にしませんか」
「皇妃か」「母上」
「今日はシェリード子爵夫人が差し入れてくださった豆大福にグリーンティですよ」
「あのこし餡の甘みがお茶の苦味とよく合うんだ」などといいながら壮年の男 銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムは豆大福をほうばった。
もっきゅもっきゅと擬音が聞こえてきそうな食べ方で、親子三人豆大福を食べる。
「ああそうだアレクよ、あと二、三年で余は退位するからな
 お前跡を継ぐ準備しておけ」
「じ、自分がですか?」
「血統で地位を継承するなど反吐が出る、とは思ったがいまだ市民の教育が行き届かず、民が自分で政治を考えることのできない現状では仕方あるまい」
「・・・・・・・で、父上は退位後どうなさるおつもりですか」
「とりあえず書類の無いところへ」
「ずるい」
「二割くらい冗談だ」
「八割は本気なんですね」
「まあそれは置いといて、だ。退位後は皇妃とともにニホンに行く。先帝もいることだし、なんかかなり面白い所だそうだからな。
 その後地球にも行ってみる」
「チキュウ?」
「ああ、今は名前が変わってるんだったな。
 人類発祥の地で、一時期は全銀河に対する陰謀の発祥地だった。
 その後『陰謀なんかやってる場合じゃねぇ』と主張する一派が勢力争いに勝利し、星自体をひどく改造したそうだぞ
 今は『惑星アキバ』と名乗ってるのだとか」
「アキバなら聞いた覚えがあります」
などと駄弁ってると、後ろから声をかけられた
「おハルさん」
「ユズコか」微笑みながら振り向くと、三十年前となんら変わらぬ少女が微笑んでいた
「おハルさん」
「何だユズコ」
「今、幸せかい?」

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最終更新:2012年02月21日 20:58