568 :ひゅうが:2012/03/16(金) 21:52:19

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「憂鬱なる訪問~嶋田in同盟~」その2



嶋田はス…と目を細め、短く鋭い声で集まってきた男たちに言った。

「国と国で決めた約束は、たとえ何があっても守らねばならないのです。それとも――」

最後の「それとも」に力を入れ嶋田は言った。

「あなた方は、あの艦が激情にかられた人間に沈められるか攻撃され、せっかく続いている停戦協議をご破算にするつもりですか?」

「結局同じじゃないか。帝国は何も変わらない。いずれまた戦争になるにきまってる。ならあいつに報いをうけさせる方がいい。」

そうだそうだ。と男たちがはやしたて、メイヤー夫人もそれみたことかという目で嶋田を見ていた。
男たちの一人がポケットに手を入れるのが見える。

「それは残念ですね。」

嶋田は心底残念そうに言ってみせた。

「条約を守る気がないというなら、同盟はわが国を攻撃すると考えなければなりません。
いや、残念です。」

「え?」

「だってそうでしょう?条約を守る気がないのなら同盟政府が我が国に求めた友好関係は嘘ということになります。」

嶋田は、考えていなかったという風に顔を見合わせる男たちに内心嘆息していた。
大丈夫か?こいつら。


「まぁ、気持ちもわかります。ですがいくら相手が非道だからといっても自分たちも非道になっていいというわけではないでしょう?
少なくとも我が国は決めた約束は守りますし、貴国が一方的な侵略にさらされる際は援助もすると条約に盛り込んでいます。しかし、相手が話し合いたいとしているときはそれに応じるべきです。よしんば何か邪なことをたくらんで時間稼ぎをしようとしているとしても、その間にこちらも準備をしておけばいいではないですか?」

569 :ひゅうが:2012/03/16(金) 21:52:49


「でも…。」

それでは納得できない。とメイヤー夫人は顔を曇らせた。
彼女は嶋田に「確実に帝国を倒します」という一言を言わせたかったのだろう。

「夫人。私は軍人ですので、あのルドルフのように政治に口出しをできる立場ではありませんが、一時の激情でスカっとしたからといってその後死にもの狂いになって相手が襲い掛かってきては本末転倒だということは知っています。
まずはよくよく考えてみて下さい。――そこの人に踊らされる前に。」

嶋田は夫人の後ろでイライラしている風なビジネスマン風の男に視線を転じる。

「ポケットの中で録音機を作動させているのは分かっています。『日本軍、帝国に宣戦布告へ!!』とでも大見出しをつけたいからといって、夫人のような人を利用して私に迫るのはどうかと思いますよ?」

ぁ…いや…と男はどもるが、嶋田は男に怒りを込めて言った。

「去りなさい!」

男は腰を抜かして走り去る。

「さ。夫人も。そろそろ到着です。」

「あ・・・あの・・・」

夫人は目を白黒させている。
突然のなりゆきに混乱しているようだ。

「大方、『あそこに日本の軍人がいる。聞いてみるべきだ』とでも言われたのでしょう?気にしていませんから。」

有無をいわせずに夫人の肩に手を置き、不自然にならない程度に強制的に送り出しながら嶋田は思った。
同盟の思想的病巣は思った以上に根深いらしい、と。

憂国騎士団などという団体が支持を受け、地球教が浸透できるほど150年にわたる戦争は彼らの社会に傷を負わせていた。
これは、本格的に共同作戦をすると世論に引きずられ何を要求されるか分かったものではない。
かといって原作のように同盟滅亡も困る。
どうしたものか――


席に戻りしな、嶋田は窓の外の同盟首都星ハイネセンの美しい姿を見つめた。
かつて「長征1万光年」を踏破した先人たちが希望をこめて見つめたそれを見る嶋田は、ただただ憂鬱だった。

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最終更新:2012年03月19日 19:38