270 :ひゅうが:2012/03/31(土) 18:25:08

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「転生者たちの悪だくみ(と鰻)」その1

――同日 銀河系南十字・白鳥腕 大日本帝国 帝都東京 某所


「では、『臨時』会合をはじめます。」

議長役の「姉宮さま」の言葉を巻頭に、男たちが「はじめます」と一礼した。
場所がうなぎ料理屋「尾華」(創業は寛政年間で何の因果か今生のメイ○ガイ北の生家)であることから畳に座った一同はまるでカルタの試合でもはじめるかのようだった。

「いや~いつもこんなしまりのある光景だといいんですがね。」

「だからこそ嶋田も私に留守を頼んだのだろうよ。」

「ですね。いつもの様子だとどんなカオスになるのか…」

南雲がニヤニヤしつつ、姉宮さまこと月詠宮内親王殿下が「あっぱれ」と墨痕鮮やかに記された扇で口元を隠しつつ典雅に笑う。
そんな様子に、いつもはやりたい放題(?)している連中は苦笑で答えている。

裏では「嶋田がいないうちに内郭国家連合の公式マスコット計画を…」とか「艦魂計画に予算を…」とか画策していたらしい連中が舌打ちしているがこの程度で凹む奴らではないので問題はないだろう。
何より、今日は――


「ふむ。この白焼きは旨いな。」

「緑茶は新静岡産の『氏真好み』です。」

「完璧(パーフェクト)だ。」

蝶ネクタイが妙に似合う英国のフィクサーがそこにいるかと思えば

「あ、そこ山椒とって。」

「どうぞ。でもいいんですか?『松』なんてとって。」

「いいのいいの。こういうときでないと食べられないから。」

純洋風の顔立ちをしつつ妙に生活臭あふれるやりとりをするロシア帝国からきた銀髪の主従がいた。
そのほかの人々も似たり寄ったりである。
実は、今回の「会合」には別の名前もある。
題して「銀河系内郭国家連合 統合安全保障会議 実務者協議 予備会合」の秘密会である。
要するに人に秘密で悪だくみをすることをそれらしく言い繕ったものだ。

本来なら夢幻会の集まりは非公式で済むのだが、こういった「同盟国」の面々も参加するためにこの名目が急きょでっちあげられたのだった。
ちなみにそのための手続きを丸投げされた南雲の胃が嶋田のそれもかくやとばかりに荒れまくったのは言うまでもない。

そして、こうして集まってきた人々はいつもの連中と同様天上天下唯我独尊であった。
ゆえに殿下という借り看板をもってしても南雲は苦労しているのだった。
今は同盟領にいっている嶋田にいわせれば「私にいつも丸投げしているのだから少しは代替してくれ」というところだろうが。

「で、ではまず状況報告を――」

少し胃のあたりをさすりながら南雲が言うと、いつものように議事はスムーズに進みだした。
当代出身の夢幻会員は慣れた様子だが、ほかの星系国家からやってきた人々はそんな様子に「彼らも過去からの『帰還者』か」と驚きをあらわにしている。
というのも、義体化が隅々まで浸透しているUNIG(銀河系内郭国家連合)加盟の「連合諸国」やその周辺国、「相互安全保障条約・経済連携条約締結国間連絡会議」に参加している諸国――通称「会議諸国」では中間管理職の悲哀を示す「胃が痛い」という言葉は慣用句として以外は絶滅しているためである。
胃が痛くなり慣れていなければ、ふいに出る動作として胃のあたりをさすってはいない。

「対同盟貿易は順調です。対帝国貿易は同盟・フェザーン関税との連動条項を設けていますのでフェザーン側からの秘密協定締結要請は拒否を続けています。
何かやってくるでしょうが、情報は同盟外交当局と共有していますのでどうあっても向こうが動いた時点で打撃を与えることができるでしょう。」

辻がにやりと笑う。今回は父の方は同盟とは別の「遠来の客」を相手にするために欠席している。

271 :ひゅうが:2012/03/31(土) 18:25:46

「同盟の連絡武官団の巡行も一段落しています。向こうからは宇宙軍大学や士官学校との交換留学の話も出ています。
また、技術協定以上の動きもちらほら出始めています。特に要塞建造に関しての関心が高いようで、わが軍のお古でなく新造艦艇の売却は『強く』求めてきています。」

東条が言った。
彼ら陸軍組は主として要塞などの防備を担当していたのだが、この世界の「防衛軍」の頭の固い人々のように機動要塞や機動鎮守府を用いた機動戦を理解しようとしないということはなかった。
何しろ、昭和時代において彼らは戦車や航空機、そして水上機動を多用した機動戦闘を概念段階から作り上げ実施した経験があるのだ。
東条にいわせれば「1500年前の頭の我々についていけないなんて、史実帝国陸軍なみだな…」ということだが。

「技術でも我々が少なくともすぐには提供しないと決めた技術――縮退関連技術や超光速素粒子工学に空間トンネル式エネルギー伝達技術に目ざとく注目する者が出てきています。星系工廠という見た目は派手な技術の公開で誤魔化しましたが、向こうの技術部はまずは民生用技術に絞って供与要求技術の筆頭に縮退炉を要求するハラのようですね。
帝国側はもっと単純で、『あらゆる手段をもって』本邦の船舶の拿捕を図るようです。フェザーン経由で同盟領内にいくつかの「おいたをする連中」が放たれたとの情報もありました。」

「対処は?安部君。」

「既に同盟情報部と。向こうさんも大捕りものだとはりきっています。実働部隊はロボス大将を航路護衛総隊司令長官として宇宙艦隊司令長官と同格に置く構想があるとのことで、彼の第2艦隊がまずは一時的に編入される見込みと非公式に同盟軍から通達がありました。」

内務省の安部が辻とは別の意味でイヤな笑顔で報告してきた。
いまどき珍しい物理紙の文書は情報部御用達のものだそうである。

「結構なことだ。同盟軍も兵站を無視することはないらしい。少なくとも今は。」

「人事がジョークみたいですけどね。」

南雲が苦笑した。
神祇院靖国秘匿08号文書という邪気眼派の陰謀っぽい呼称で呼ばれる所謂「原作」によるならば、かのロボス提督は兵站とはまったく正反対の存在だったのだから。

「自由惑星同盟統合作戦本部は、基本的にイゼルローン要塞攻略を含めた攻勢を重視した現状からイゼルローン回廊の封鎖を目的とした『攻勢防御』へと方針をシフトする心づもりのようです。
少なくとも現政権の継続する間は。」

「現政権の後ろ盾は同盟の国民系資本集団と軍需企業、それに保守系政党と官僚だったか。」

「ええ。サー・ウィンストン。」

白焼きにつけるための生わさびを鮫皮のワサビおろしで丁寧におろしながらロンドン公が皮肉げに口もとを歪める。

「今は国民世論という怪物が政権の方針と一致しているが、これが乖離した時が大変だな。
『お役人』ほど目に見える八つ当たり先はないものだ。――民が自らの主となることを覚えていない民主主義ほど度し難いものはないがね。」

「それを同盟人や帝国人の前では言わないで下さいね。チャーチル卿。ことに、こんどやってくる元皇帝、大公殿下はなかなか老獪ですからどういう風に発言が利用されるか分かりません。」

「おや?ナグモ君。君のところの『魔王(メフィストフェレス)』はそれですら国益に結びつけてみせるつもりのようだが?」

勘弁して下さい。と南雲はひきつった笑みを浮かべる。
ロンドン公の向かい側で不気味な表情で笑っている辻は確かにそのように自信にあふれて見えた。

「辻さん…その表情は胃が痛くなりますのでやめてください。」

「ふっふっふ。これは失礼。さすがはチャーチル卿。こうも打てば響くような反応が返ってくるのは嶋田さんほか数人しかいませんからね。つい。」

つい。じゃないだろう。
本当にこいつ、転生してからさらに遠慮がなくなったな。
と南雲は突っ込みたかったが、自重した。
こういうことはやはり嶋田さんを連れてこないと無理かもしれない。

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最終更新:2012年04月08日 21:44