631. ひゅうが 2011/11/25(金) 14:48:11
※  先走りすぎたのを反省する意味で、一本書きました。

支援SS――マルタ急行

――西暦1940年11月  深夜  地中海  マルタ島沖  東方

「左舷9時半方向より雷跡2つ!的速35ノット!距離600(6千m)!!」

「間違いない。群狼だ!各艦対魚雷戦闘はじめ!」

「護衛空母『山科丸』より哨戒機追加発艦します!」

「左舷9時半方向、スクリュー音感2!ドイツの2型Uボートです!」

「軽巡『多摩』より信号。『第14護衛隊ハ左舷Uボート群ト対峙ス。』」

「返信!『群狼ノ再度襲撃ノ可能性高シ、船団ノ盾タルヲ最優先セヨ!』」

日本海軍遣欧第2艦隊から分派された第3輸送護衛隊は、修羅場を維持していた。
スエズ運河を通り、マルタ島を目指すAM(アレクサンドリア・マルタ)船団は必ずと言っていいほどシチリア島からの航空攻撃にさらされる。

加えて、いつものように逼塞しているイタリア艦隊からも五月雨式の襲撃を受けるのが常であったが、最近ではそれに加えてドイツ海軍のUボートによる襲撃が頻繁に発生していた。

船団指揮官である大井篤少将は、そんな状況でもよくやっているといってよかっただろう。
アレクサンドリアに司令部をおく遣欧第2艦隊の中でも海上護衛戦に造詣が深かった彼は、夜間のうちに航空攻撃圏を全速で突破する「マルタ急行」プランを採用。
そのために輸送船団は快速艦艇のみでこれを編成していたのだ。

この任務にあてられた第14護衛隊は、のちに太平洋で猛威をふるう機動戦隊の地中海版で、今回のAM−13船団には「阿賀野」型軽巡の前期型である「球磨」と「多摩」、そして油送船を兼ねた護衛空母「山科丸」と駆逐艦2隻、海防艦8隻がこれに随行している。
輸送船団は、マルタ島の航空基地向けのガソリンや航空機、それに重火器などの防衛機材を搭載しており、その数は5000トン級4、2000トン級12と、いずれも15ノット以上での航行が可能な船齢の新しいものばかりである。


「アクティブピン、打て!」

旗艦「球磨」のCIC(戦闘情報室)では、聴音手への指示が飛んでいた。
アクリル板に描かれた船団の略式図には、次々と新たな情報が書き込まれていく。
鏡文字を書かねばならないため、それらのほとんどは英語のアルファベットと数字であった。

「感あり!左舷9時半方向距離700に3隻・・・正面方向距離850に2隻。右舷方向は感なし!畜生、やっぱり着底して待ち伏せていたんだ!」

「待ち伏せのみか。やはり針路を北寄りに変えておいて正解だったな。――よし。第3群旗艦『大東』に打電。右舷の敵は哨戒機隊と貴隊に任せると。
第1群は駆逐艦『潮風』を分派。これを叩く。『針鼠』の初陣だ。気張っていけ!」

即座に情報を処理した大井の指示に従い、海防艦と駆逐艦が速力を上げて通り過ぎていく。
上空では、翼端灯を光らせた艦上攻撃機改造の哨戒機が、6人の無線管制官の指示に従ってそれぞれの場所に散って行った。

「水上電探、捜索電探、逆探いずれも現状感なし!」

「『姫島』より報告。魚雷2発とも処理を完了!」

「『大東』より報告。「針鼠」の投下を開始!」

「よろしい。船団針路はそのまま。」

大井は満足げに頷いた。
英国では「ヘッジボッグ」と呼ばれる多連装爆雷砲は、この前のAM−10船団時より急きょ装備された新兵器だった。
シチリアからの航空攻撃を避けて夜間に地中海を突っ切る船団を待ち伏せるであろう潜水艦を相手にするには心強いこの新兵器は、アレクサンドリア侵入を図った敵潜水艦を血祭りに上げる成果を上げており、今回もまた成果を発揮していたのだ。

「英本土航空戦で忙しい今動くとは思いたくはないが、上空に夜間戦闘機隊を3群で展開させよう。ないよりはましだ。」

スツーカと呼ばれる急降下爆撃機に夜間型が出始めたという情報もある。この会敵海域から、マルタ島の制空圏内に入るまではあと2時間あまり。それまで気を抜くことは許されないのだ。

「船団全艦に通達、速力を15ノットへ上げる。御苦労だがあと3時間あまりで夜が明ける。それまで頑張ってくれ!」

「は!」

――北アフリカ戦線の陸上ではドイツ装甲軍団と英国軍の間で死闘が続く。
そして、海上では日英の両国海軍が壮絶な海上護衛戦を戦い続けていた。
中でもマルタ島へ向かう輸送船団への攻撃は苛烈を極め、東地中海でもっとも頼りになると言われた日本海軍遣欧第2艦隊に少なからぬ損害を敷いていた。
この死闘は、翌年7月の英独暫定停戦協議の開始までの31回の船団護衛のあいだ、続くことになる・・・。

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最終更新:2011年12月31日 00:52