955 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/16(水) 19:43:10
 ポルシェのデザイン事務所で、複数人の男達がスクリーンに映し出される写真に見入っていた。
サンタモニカ会談の際に発表された日本軍の新型戦車、いわゆる『四式重戦車』である。
主な写真はパレード中に遠距離から撮影したものだが、中には接近して撮影したものもある(※1)。


「これがJAPANの新型か……」

「うわぁ…砲は100ミリですね、何だこれは、たまげたなぁ」


 蛇の道は蛇。彼らは長くドイツの戦車開発に携わってきた技師達である。
故にたかが写真といえど、彼らはそこから四式戦車について多くの事を見出す事ができた。



        提督たちの憂鬱 支援SS ~最終鬼畜戦車フェルディナント・P~


 そのため、事務所内には次第に「ざわ…ざわ…」とした空気が広がりつつあった。
日本という名の強力なライバルの存在が、彼らの内なる闘志に火をつけたのだ。

(絶対に、これを超える戦車を作ってやるぞ………!)

 そして事務所の主であるフェルディナント・ポルシェも、内なる闘志に火をつけた1人だった。


「日本の新型戦車に対抗するには革新的かつ未来的、現代の10年先を行くようなアプローチが必要だ。
 連中が今まで我々を驚かせてきた手段で、今度は我々が連中を驚かせてやる!」

 ポルシェはそう言って、部下の技術者達に発破をかけたという。

(あの戦車、どう考えても50tはあるだろう。しかしながら鈍重さをあまり感じさせない、
 むしろ洗練されてすらいるデザイン……おそらく足回りも高性能な筈だ)

 そしてポルシェと仲間達は悩み続けた。世界情勢を鑑みるに、これ以上の重戦車化は時代錯誤も甚だしい。
しかし、重量を制限しようとすれば火力、装甲に枷がかかる事になる。そして機動力にも。
軍用車両に使われるような高度なエンジンには、それ相応の重量というものがあるのだ。

956 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/16(水) 19:43:43
 ある日、ポルシェは車に乗って通勤していた。頭の中はやはり、戦車の事でいっぱいである。

(無限軌道は何より設地圧の小ささが利点だ。それに重い物を支えるのにも向く。
 しかし利便性やスピードでは装輪車両の方が圧倒的に勝っている……はっ!!)

 そこまで考えた時、ポルシェの脳裏に稲妻のようにある図が浮かんだ。

 戦車の砲塔。これが8輪の装甲車らしきものの上に乗っかっているのだ。
それはこれまでのどの戦車も発揮し得なかった猛烈なスピードで爆走し、
発砲炎からうかがえる火力は従来の戦車から見ても申し分ない。


(装輪…………!!これだ―――――――!!!!)


 一週間後――――。


 アドルフ・ヒトラーは、ポルシェが直々に見せたい物があるというので楽しみにしていた。
ポルシェは兵器に手を出すと壮大な物を作りたがる癖があるのだが、彼はそこを気に入っていたのだ。
ヒトラーもまた、壮大な兵器が大好きなのである。

「ヒトラーさん(※3)、私は考えを変えましたよ。
 まるで稲妻のように、アイデアが私の脳裏に焼き付けられたのです。」

 来るなりそんな事を口走ったポルシェは、使用人に持ってこさせた模型をヒトラーに見せる。

957 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/16(水) 19:44:35
「……なんだね、これは?」

 模型を見たヒトラーの第一声であった。
しかしこの反応を予め予想していたポルシェは気にせず説明を始める。

「"四式"に対抗して考えた、戦車の全くのニュータイプです。まだ構想段階ですが……
 ご覧になっても分かる通り、8輪の車体に戦車並みの砲塔を備え付ています。」

 エンジン馬力は…サスペンションは…等と専門用語の多用も厭わず熱弁を振るうポルシェ。
一方アドルフは、その話にあまり関心が無い様子である。率直に言って、余り強そうには見えないその姿が、
強そうな物が大好きである彼の興味を減じさせていたのだ。しかし気になる事もあり、質問する。

「それで………砲撃の反動はどうするのだね?アハト・アハトのそれとて伊達ではない。
 "四式"に対抗するつもりだと言うのだから100mm砲ぐらいは積むつもりだろうが、対策はあるのだろうな?」

 ポルシェは待ってましたとばかりに答えた。これこそ、彼が最も紹介したかった物の1つである。

「勿論ですとも!!火砲系の連中と会議する機会がありましてね、そこで出た新機軸ですよ。
 これが砲本体の断面ですが、この薬莢に多数の穴が開いてる訳です。そして――――」

 彼の語った機構は、アメリカの崩壊によって世に出る機会を失った無反動砲の方式の1つ、
史実ではクロムスキット式(※4)と呼ばれていたものだった。

958 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/16(水) 19:45:08
「むむむ………」

 ヒトラーはポルシェの熱のこもった、しかし緻密な解説に、次第に唸りを見せ始めていた。

 ポルシェの意見を要約するとこうなる。
まず、次世代の戦車は重装甲や大火力より、軽量さ、機敏さなど使い勝手が求められるという事。
そして装輪式は、装軌式よりも製造、整備面で楽であるという事。必要火力は新式無反動砲の開発で確保可能な事。
最後に――――その全てを満たすのが、自分の持ってきたアイデアである事。


 確かにポルシェのアイデアは彼自身が言った通り、世界の10年も先を行くものだった。
後にこの時使われたポルシェの模型の複製が世に紹介されると、日本に住む転生者達は驚かされる事になる。
その模型は、転生者達が"前の世界"で見てきたストライカーMGSやチェンタウロに酷似していたからである。

 こうして、ポルシェはまた1つ、世界にその名を残す事になった。
装輪であり、なおかつ大口径砲を搭載する、そう、『装輪戦車』の初めての構想者として。


 惜しむらくは、当時のドイツの技術が彼のアイデアに追いつけず、
結局この案も提言された最初はお蔵入りになってしまった事であろう…………



                   ~ f i n ~

959 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/16(水) 19:45:43
(※1)
この写真は、日本軍の情報収集を目的としたイタリア王国のスパイチーム(全員同郷出身)によりもたらされた物である。
スパイ達は警備班の交代時間等を彼らに悟られぬよう綿密に収集し、その隙を突いて車庫内の四式重戦車を相当近くから、
それも鮮明に撮影する事に成功した。さすがに車内までは調査できなかったものの、
イタリア本国ではこの写真が最有力の四式重戦車情報として『"Ⅴ"情報』のコードネームを与えられ
(Ⅳにすると連想される恐れがある)、ヒトラーはイタリアからこれを手に入れるため色々と対価を支払わされたという。

ちなみに、このスパイ達の故郷には他地域より医療整備の予算が多めに下りたとか下りないとか……

(※2)
日本人は小柄らしいからこのぐらい乗れるだろう、と考えていた節がある。

(※3)
ポルシェはどこまでも技術屋であった。そのため権力者に媚びるという事を知らず、
第三帝国総統に対しても"さん"付けするぐらいである。しかしヒトラーはポルシェの考える兵器が好きで、
その事をあまり気にしてはいない。

(※4)(Wikiコピペ)
砲弾の薬莢には多数のガス噴出用の孔が空いており、発射時にはその孔より噴出したガスを大型の薬室に一時溜め、
適度な初速を得るのに必要な砲腔圧力を発生させた後、砲尾から噴出させる。
反動低減効果とともに、ガスが一時的に閉じこめられているため、他の方式より砲弾の初速を得やすい。
また、薬莢の小孔から薬室へガスを導く際、砲のライフリングと逆向きに導く事により、
カウンタートルクを軽減させる構造のものもある。クルップ式同様に、通常の砲弾より大量の発射薬が必要となる。

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最終更新:2012年05月19日 17:42