985 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/24(木) 22:19:07

 イギリス人はロケットが好きである。


 こんな事を始めに言い出した人間が誰であるのか、それは分からない。


 しかし、自走爆雷パンジャンドラムはこの言葉に説得力を持たせるに足る衝撃を残した。


 そして、この言葉にさらなる信憑性を加える兵器がかの国に生まれようとしていた。



          提督たちの憂鬱 支援SS ~V作戦~



 フランス、スペインが枢軸同盟の一員になり、北欧が日本との結びつきを強めると、
イギリスは欧州の中で孤立を深めていった。『光栄ある孤立』は『ただの孤立』になりつつあった。

 この情勢が国民の間にも分かってくると、次第にイギリス国内には不安が広がり始める。
ドーバー海峡を挟んだ向こうは、そのほぼ全土がいつ攻めて来るか分からない仮想敵国なのだ。
そしてWWⅡの傷が癒えない今、イギリスを守る盾はこの上なく心もとない状態だった。


 "V作戦"が始まったのは、国民が自国の軍への信用を失いつつあった、丁度そんな時期であった。

986 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/24(木) 22:19:42

 イギリスは本土防衛用の兵器としてロケット自走爆雷を実用化していたが、
これだけでは不十分だと考えていた。喫水線に攻撃が可能な事や迎撃困難な突入速度、
そして製造工程の単純さは自走爆雷の大きな利点ではあったが、幾ら炸薬量が多くても、
相手が重装甲で覆われた戦艦類の場合だと、ダメージを与える事が難しい(※1)事が発覚したのだ。

 そのため、イギリス軍はパンジャンドラムを上陸用舟艇等の小型艦艇や陸上部隊に対してのみ使う事に決め、
これまでの戦訓から防御力が向上しているであろう大型艦艇に対して使う、新たな攻撃兵器を開発する事にした。

 これが"V作戦"である。


 V作戦で開発する兵器に求められたのは、まず陣地転換が用意な事、製造が容易な事、
重装甲の敵艦に対し一定以上の射程・攻撃力がある事、国民に対する宣伝効果が高い事の4つである。
これは当時王立陸軍内で提唱されていた『沿岸防御ドクトリン』(※2)に沿ったものとなっているが、
国民への宣伝も考えなければならない辺りは世知辛い国内事情が窺える。

 さて、この求められた条件に適する兵器とは何だろうか?


 そう、ロケット兵器(※3)である。ロケットは大砲と違い砲身を必要とせず、
また運搬が比較的容易、見た目が国民に与える印象も悪くないためV作戦での開発兵器としてにわかに浮上した。

987 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/24(木) 22:20:17

 危機感に迫られていたのもあるが、腹を決めた英国の行動は早かった。
国内の関連企業から在野の技術者まで動員して対艦ロケットの開発を進め、
情報部には日本・枢軸における同種の兵器について情報を集めさせた(※4)。


 そしてV作戦は、20インチ対艦ロケット『フライング・フィッシュ』としてその実を結ぶ。
装甲を突破するために鋭く尖った先端、50センチにもなる直径は一般国民から見ても頼もしく見え、
誘導能力が無い事、運搬車両が大型化して自走爆雷より使い勝手が悪い事等は上手く覆い隠された。

 その威力から枢軸諸国を震撼させた、『飛び魚』の名を冠するこのロケットは、
以後も誘導能力の付加による対艦ミサイル化、ロケット技術の向上による速度上昇を始めとした、
種種のバージョンアップと近代化改装を経て現代に至るまで英国の地を守り続けている………



                ~ f i n ~


★★★SS登場兵器設定★★★
20インチ地対艦ロケット フライング・フィッシュ初期型(開発コード:V-1)

胴体直径:20インチ(50.8cm)
胴体全長:7.2メートル
搭載炸薬:約800kg
最大速度:約700km/h
航続距離:35km

可動式の発射台に搭載したものをトラックで運搬する。
航続距離がやたらと短いのは、本兵器があくまで防衛目的のものであり、
枢軸諸国を刺激しないためだとされるが(ドーバー海峡の最狭部は約37km)、
後期型では射程が2倍近くまで伸びている。なお、後継たちは以下の通り。

16インチ艦対艦ロケット フライング・フィッシュS(開発コードV-2)
20インチ地対艦ロケット フライング・フィッシュⅡ(開発コードV-3)
24インチ地対艦ロケット フライング・フィッシュⅢ(別称フライング・ソード)

試作のみに終わったものは以下の通り。

8インチ×7(※5)多弾頭対艦ロケット フライング・スワーム(開発コードV-2S)
10インチ×5多弾頭対艦ロケット フライング・ワスプ(開発コードV-3S)
40インチ地対艦ロケット フライング・オーバーロード(開発コードV-4)

988 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/05/24(木) 22:20:49

(※1)
問題は自走爆雷の構造そのものにあった。炸薬は車輪の中心に置かれるのだが、
この車輪はロケットの火と煙が至近距離にある事を考えると頑丈でなければならない。
しかしそうすると敵に命中しても、頑丈な車輪のせいで炸薬と敵の間に隙間ができ、
これがある種の中空装甲のように働くため、重防御の艦艇に対する攻撃力は大幅に減少するのだ。

(※2)
コンクリート製の強固な陣地で沿岸を固め準備砲爆撃を耐え凌ぎ、
敵上陸用舟艇が接近してきたら沿岸要塞から自走爆雷と砲爆撃によって攻撃。
一兵も英本土の土を踏ませる事無く追い返す事を目指す本土防衛ドクトリン。
万が一上陸された場合は、沿岸要塞同士を繋ぐ地下陣地網で抵抗を続け、
敵の内陸侵攻を遅らせつつ海空戦力による敵橋頭堡の破壊を行う。

分かり易く言えば、
敵上陸前⇒パンジャンドラムで槍衾
敵上陸後⇒史実硫黄島と栗田艦隊レイテ湾特攻を同時進行

(※3)
パンジャンドラムのような色物ではない。

(※4)
これら一連の作業には英国版夢幻会とも言える『円卓』が関わっていたという説がある。

(※5)
直径8インチの弾頭が7つ束ねられている事を示す

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最終更新:2012年05月27日 13:28