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支援2_ひゅうがさま_北大西洋の奇跡
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651.
ひゅうが
2011/11/30(水) 19:15:36
提督たちの憂鬱支援SS――「北大西洋の奇跡」
――西暦1912年4月15日午前1時2分 北大西洋
悲鳴が続いていた。
衝突からすでに1時間あまり。
船体横を大きく引き裂いていった氷山のおかげで、船体前部の亀裂は手の施しようのないほどに拡大している。
「これは・・・まずいな。」
大日本帝国鉄道員副参事 細野正文は状況を確認し、血の気が引いていくのを感じていた。
彼が乗っている豪華客船は、氷山に衝突。
今や事態は手の施しようのないほどに悲劇的になりつつあったのだ。
救命ボートが下ろされる。
4月の北大西洋の海は冷たく、投げ出されれば数十分もしないうちに低体温症にかかって死んでしまうだろう。
しかも悪いことに、この船の救命ボートは数がとても足りているとは言い難かった。
「無電を受けた救助船が来てくれればいいのだが――」
細野は夜の闇をにらんだ。
背後では、乗客たちを落ち着かせようと乗船していた楽団が演奏をはじめている。
なんとも奇妙で、それでいて恐ろしい風景だった。
「ホソノさん!?」
「ローズ嬢・・・それにジャックじゃないか!?どうしたんだその格好は?」
デッキで右往左往する乗客の中からかかってきた声に細野は驚いた。
この豪華客船に乗っていた日本人は彼ただ一人。
そのため、いくらか眉をひそめる白人たちの中にあってこのローズ嬢は淑女の礼をもって彼を扱ってくれ、ジャックとは話に花を咲かせた。
欧州では孤独になりがちな日本人にとって、彼女らの厚意はありがたく、そのために細野は何かもめていた若い紳士とこの二人の間に入って仲裁の真似事までしていたほどだった。
「いえ、何でも。それより――」
「見ての通りの状況だ・・・女性を優先して乗せているという話だから、君らは先にいった方がいい。」
ウィスコンシン生まれだというジャックが戸惑った顔になった。
ローズ嬢をどうやって「彼女だけ」ボートに乗せようか考えているのだろう。
「ローズ・・・君は・・・」
652.
ひゅうが
2011/11/30(水) 19:16:32
「お客様!お客様の中に日本人の方はいらっしゃいませんか!?」
ジャックが何か言いかけたその時、またも細野の思考は遮られた。
振り向くと、ウィリアム・マードック一等航海士が何かメモのようなものを持って叫んでいる。
「私です!」
細野が叫ぶと、驚いたようにマードックが駆け寄ってきた。
「髭を伸ばされているからアルメニアの方かと・・・お客様、日本語のモールスは分かりますか?」
「はい。それが?」
「よかった!カリフォルニアン号の応答はなかったのですが、一番感度のいい信号がこれを。識別符号で和文とわかりましたが、あいにく解読できる人間がいないので。」
渡された紙を、細野は読んだ。
「これは――」
「マードック航海士!右舷から発光信号です!距離600!」
細野は反射的にその方向を見た。
「軍艦『八島』に『初瀬』・・・!練習艦隊が来てくれた!!」
――同 大日本帝国海軍 第1遠洋練習艦隊旗艦 戦艦「八島」
「救命ボート、下ろし方はじめ!」
「サーチライト点灯!ひよっこども、もたもたするんじゃないぞ!」
甲板上では教官である士官の怒号が響いている。
戦闘航行時とは違い、可能な限り煌煌と明かりをきらめかせよとの命令を受けて艦隊は全速で海上を航行、そして今、するりと当該船舶の横につけようとしている。
日露戦争の戦訓を受けて夜間見張りを重視している日本海軍の面目躍如といったところで、すでに艦隊はあの豪華客船に大ダメージを与えた氷山を余裕を持って回避することに成功していた。
「僥倖でしたな。我々が近くにいて!」
練習艦隊副司令をつとめる広瀬武夫少将に、今回特に命じられてこの大西洋にきていた東郷平八郎元帥はゆっくり頷いた。
「じゃっどん、これからが問題でごわす。あの船の乗客、一人も残さず収容せねばなりもさん。」
「大丈夫です。本艦と『初瀬』それに装甲巡洋艦『春日』と『日進』。初の欧州への艦隊での遠洋航海がこのようになってしまいましたが、余裕をもって乗客の収容ができます。」
「うむ。」
東郷は、静かに緊張が高まる欧州まで日英同盟の威力を見せ付けるためとして行われたこの遠洋航海の裏の目的を思って少しだけ顔をしかめた。
そうならぬよう――史上最悪の海難事故を避けられるように船乗りとしての東郷は願っていたが、現実は彼ら・・・夢幻会の面々が言った通りになってしまった。
じゃっどん・・・旅順口で沈んだはずのこのいくさぶねが沈みゆくあの船をば助ける・・・皮肉というべきか何というか・・・。
「閣下!『タイタニック』より信号あり!『救助に感謝す。英日同盟万歳!』」
「『われら対馬沖のごとく期待に応えん。』と返信せよ。」
――東郷のこの言葉は、歴史に残った。
結局、わずか3時間あまりで巨大な豪華客船「タイタニック」号は北大西洋に沈没した。
だが、犠牲者は片手で数える程度にとどまり、ほぼ全ての乗客たちはニューヨーク港の歓呼の声に迎えられた。
この一件をもって英国政府は日本帝国海軍が欧州においても作戦できることを認識。
のちのジェットランド沖海戦に繋がってゆく。
それ以上に、これまで差別の対象であった東洋人・・・ことに日本人に対する欧州の感情を大きく好転させる作用として、これ以上ものはなかったといえるだろう。
なお、現在も日本本土の横浜市に在住するジャック・ドーソン ローズ夫妻の手による記録が近年映画化されたことは記憶に新しいだろう・・・。
653.
ひゅうが
2011/11/30(水) 19:19:52
【あとがき】――エルトゥールル号の話が以前ありましたが、事故を未然に阻止されそうなので今回はこのネタにしました。
知識チートここに極まれりという感じで(汗) でも、たまにはこんな感じもいいのではと思う次第です。
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最終更新:2011年12月31日 16:48
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