150 :パトラッシュ:2012/08/05(日) 20:10:42
セシリア・オルコットSIDE
 織斑一夏。世界で初めてISを起動させた男。あの「ブリュンヒルデ」織斑千冬の弟とはいえ、話を聞いたわたくしは「ただのまぐれですわ」と思っておりました。ですから、IS学園入学前に呼ばれたロンドンの英国IS委員会で、委員長から直接「留学してくる織斑一夏に決して反感を抱かせてはならない」と釘を刺されたのには驚きました。
「織斑一夏は転移先で人類が滅亡寸前になるほどの戦争に参加し、現在は最高権力者の養子だ。いわば軍の英雄にして英国の皇太子並みの立場といえる。しかも、あちらの世界はワープ航法をはじめ超軍事技術を多数保有しており、正面から戦ったらISを総動員しても間違いなく負ける。そのため各国は、何とか彼を取り込めないかと動いているのだ。君にその役目を果たせとは言わないが、足を引っ張るような真似は絶対にしないでくれ」
 この委員長の言葉で、わたくしは逆に織斑一夏という人物に不信感を抱きました。国の力を背景に、たまたまISを起動できたことをいいことにこちら側を威しつけている卑怯者と受け取ってしまったのです。今となってはお恥ずかしい限りですが、わたくしも悪い意味で女尊男卑の思想に染まっていたようですわ。

けれどもIS学園で初めて織斑一夏を見たわたくしは、言葉を失いました。軍人らしい折り目正しい挙措。数々の戦争を経験してきたとは思えない優しい笑顔と穏やかな口調。周囲の女子とも物怖じせず接しながら礼儀を守る姿……いつも母に対して卑屈に振る舞っていた亡父とは正反対の、わたくしの周囲からはいなくなった男らしい男の理想像がいるではありませんか。七歳年長とあって、同世代とは違った大人としての落ち着いた雰囲気もあります。極東の果ての島国に、まともな男などいるはずがないと思っていましたのに。果たしてこれほどの方が英国や各国を威しつけているのかと思いましたが、外見からは判断できないと思い切って「ちょっと、よろしくて?」と直接話しかけました。
「……オルコットさん、だったか。英国の代表候補生の」
 上目遣いの澄んだまなざしに思わず顔が赤くなりそうでしたが、必死に耐えましたわ。
「え、ええ、そうですわ。先輩として、あなたにISについて教えてさしあげようかと」
「……その申し出は受けられないよ。俺としても残念だが」
「な、なんですって? わたくしでは教える資格がないとおっしゃるのですか!」
「いや、俺のIS教育については本国と国際IS委員会の話し合いで千冬姉――織斑先生が立てた計画に従って行うことになっているからな。いろいろ裏事情があるようだけど」

裏事情とやらは、わたくしにも推測できました。英国IS委員長が話したように各国とも彼の取り込みに動いているので、クラスメイトとはいえ他国の者と必要以上に親しくさせまいというのでしょう。織斑先生の名前を出されては引き下がるしかありませんでしたが、わたくしの心にはとめようもない思いが湧き上がってきました。織斑一夏をもっと知りたい。もっと話したい。もっと親密になりたい……もっとこの胸を熱くしてほしい、と。

だから次の授業でクラス代表を決めるにあたって、皆が面白がって彼を推薦したとき、「専用機持ちの代表候補生として、ISに乗ったこともない男性に譲るわけにはいきませんわ!」と叫んでしまったのも、彼と接点が持ちたいと思った衝動からでした。すると織斑先生が「ならオルコットと織斑は来週、どちらがクラス代表にふさわしいかISで決着をつけろ」と言われるではありませんか。激怒する委員長が目に浮かびます。わ、わたくしはそんなつもりではなかったのに~~!

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最終更新:2012年08月06日 01:43