157 :ヒナヒナ:2012/09/28(金) 19:54:54
○夢の国


北アメリカ大陸から大西洋に突き出した半島をまるまる占めるフロリダは、その温暖な気候と立地から一大観光地である……史実では。

憂鬱世界を見ると散々たる有様であった。
大西洋大津波の影響をもろに受けたのだ。フロリダ半島の大西洋側の海底は急峻な坂となって大西洋に沈みこんでおり、このため海岸線の直前で急激に盛り上がる津波はその威力を減じることなく半島を襲った。フロリダはアメリカ全州の中でもっとも高低差の無い州で平均標高は海抜30m程度の低地となっている。そのため津波はフロリダの殆どの地域を蹂躙し、人口密集地であるゴールドコーストを含むオーランド以南の街を根こそぎ海に押し流し、半島の先端メキシコ湾側に広がる湿地帯エバーグレーズと一体にした。湿地や石灰岩でできた土地は地形すら変わる有様だった。

高地がなく、一様に波に洗い流された形となったフロリダは他の被害地に比べても生存者が非常に少ない。完全に統治機構を失い住民も居なくなった星条旗の星のひとつは、永久に消滅したも同然だった。津波後も、もともと池沼地帯多く高低差の無いフロリダ半島では全く海水が引かず帯水していた。利用価値も無く何がある分けでも無いこの土地は完全に打ち捨てられていた。

本来なら大西洋岸の要所にもなれるかもしれない立地であったが、猛威を振るうアメリカ風邪とほとんど低地で湿地帯という地形条件のため見送られた。欧州勢にとっては世界のバランスをめちゃくちゃにした津波はトラウマなのだ。大西洋大津波ほどの規模でなくとも、普通規模の津波で毎回壊滅するような地域に重要な港や都市区画には振り分けられない。こうしたこともあって前線基地として役割はフロリダではなくメキシコが担うことになった。

しかし、後にはこの土地にも利用法が決定した。棄民地だ。食料を生産できるわけでもなく、特筆すべき資源が算出されるわけでもなく、ワニや有害な病気を媒介する蚊などが大量に沸くこの地を誰も欲しがらなかった。だが、汚染物質扱いされた東部地域の人間の処理法が考えられていたなか、候補に挙がったのがフロリダだった。

汚染地帯である五大湖地域はカナダとの国境でもあり、水資源や他の資源も豊富だった。なるべくならばアメリカ風邪を撲滅(住民の駆除という形でだが)した暁には、再び開発したいという意図があった。そういった経緯で爆撃機での脅しやナパームでの消毒を含めて東海岸のアメリカ人達を徐々に南部へと追っていった。他の東部地域でも徐々にではあるが消毒は行われていたので、追われた人々の最終的な到達地点はフロリダ南部の湿地帯となった。

野生生物やアメリカ風邪以外の風土病にも堪えながらでも、人々がここで暮らすのは爆撃や機銃で追われず、炎で焼かれることないからであった。国に進駐してきた人々は皮肉を込めて、いつしかフロリダを「夢の国」と呼ぶようになった。


(了)


○あとがき
夢の島的なネーミングセンスです。フロリダってCSI:マイアミのイメージしかないので調べてみたのですが、最高地点が海抜100m程度ってどういうこと!? 通勤で標高差500mくらいを毎日移動していたので信じられません。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年09月28日 20:34