172 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/14(日) 20:46:48

 東アジアには大韓帝国という国がある。通称韓国と呼ばれているが、
その国際的な地位と存在感は極めて低いものであった。1940年代のジョークには、

『世界の指導者となるのに最もふさわしいのは、中国人のように信頼でき、
 アメリカ人のようにつつましく、イギリス人のように表裏が無くて、
 またドイツ人のようにあらゆる人種に寛大で、ソ連人のように気配りができ、
 イタリア人のように硬派一筋で、韓国人のように存在感がある人物である』

 というものがあるくらいだ。

 東アジアの中では著しく近代化が遅れており、教育やインフラの整備もまだまだ途上、
重工業などは「何それおいしいの?」な状態。内政がこれでは軍隊も推して知るべしな状況で、
このような扱いを受けない方が不思議というものだった。


       提督たちの憂鬱 支援SS ~名ばかり出稼ぎ労働者~


 アメリカ、中華民国が瓦解し、日本がアジア太平洋における事実上の一強となった頃、
大韓帝国では日本の情報機関が梃入れして軍人達による政権が誕生していた(本編戦後編1話参照)。
ただ、軍事政権といっても朴正煕のようなハイレベルな人材を確保できなかった事、
国際的に影が薄く「諸外国の支援?何それおいしいの?」という状況下である事から、
『漢江の奇跡』などあと50年は起こりそうもなかった。

173 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/14(日) 20:47:19

 それでも、軍事政権になってから状況が好転の兆しを見せていたのは確かである。
的確な農業政策のお陰でラ・パルマ噴火による気象変動を考慮しても食料生産は増えていたし、
朝鮮半島北部で鉱山開発が始まった事で、新たな働き口が増え始めていた。

 開発が進んでいる鉱山の中でも特に資本の集まった場所の1つが、ムサン地方の鉄鉱山である。
日本の民間調査隊により『東アジアでも五本の指に入るであろう、極めて有望な鉄鉱脈がある』という報告が上がると、
これまで三菱や倉崎、政府(というより夢幻会)と繋がりの深かった企業により少なからず割を食っていた企業が、
競ってムサン地方に広がる鉱脈の権利を争奪、あるいは分割していった。それはさながらパン喰い競争のようだった。

 勿論彼らがライバル心を抱く従来の大企業(三菱、倉崎、etc)も黙ってはおらず、
こちらは20万トンはあると言われるタングステン、25万トンは下らないだろうとされるマンガン、
世界規模の埋蔵量があるのではないかと分析されているマグネサイト等希少資源を中心に開発を進める。

 彼らの資本投下により、半島北部には鉱産資源運搬用の港湾や鉄道も整備されるのだが、
この『鉱山開発ブーム』によって、必然というべきか、とある行為も活発になっていった。


 まず出生率というのは、主に生活環境の悪い国か、"そういう"国民性を持つ国で高くなる傾向にある。

 そして当時の韓国はそんな国々の中でも前者に属していた。農村には小さな子供が多くおり、
"まだ"十分な労働力とはなっていない彼らの世話に手を焼く農民は少なくなかった。
ではどうするか。まず、たまに農村に大きな木箱を牽いた馬車(自動車が来る事はごく希)がやってくる。
その時、農民は木箱に適当に子供達を放り込むと、馬車の持ち主から幾ばくかの金、ないし物品を貰う。
子供が放り込まれた馬車は、鉱山の方へ向けてガタゴト音を立てながら農村を後にする。

 さて、とある行為とは何だろうか。このクイズの難易度は、
「中央アメリカのパナマと陸上で国境を接している南アメリカの国はどこでしょう?」
 などというどこかのテレビ番組のクイズよりも遥かに易しい。

174 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/14(日) 20:47:50

 その頃の韓国では『出稼ぎ』と言えば大人はソ連、子供は鉱山というのがほぼ常識となっていた。
実質的には出稼ぎでも何でも無かったのだが、一応世間体を考えているのか『出稼ぎ』という事になっている。

 こういった『出稼ぎ労働者』の環境は、大抵が非常に厳しい。
3Kどころか5K、場合によっては5KU30(※1)と言われる事もある。
詳しい事情を知る日本政府関係者達もこれを「どこのポトシ銀山だ」と嘆く有様で、
ソ連との間に横たわる豆満江など彼らからは『三途の川』と呼ばれていた。

 だが、このような光景を実際に見た事のある日本人は希である。
いや、実際に韓国で事業を展開する日本人でも、知ってすらいない人々が多い。
「朝鮮人の事は知らない」「利益が出ればそれでいい」というスタンスである。
日本のマスコミもこのような辛気臭いにも程がある出来事を報道する事は無く、
そもそも韓国の事に関心を抱く日本人など相当な物好きだったのだ。

 それを良い事にして、福建などでは労働環境に気を配らざるを得なかった企業も、
韓国ではその辺りの経費をごっそりと削り取るのをセオリーとしている所が多かった。
これに異を唱えるべき韓国政府は日本人の心象が悪くなる事を恐れてこれを黙認。
日本政府も「労働環境は個々の企業の倫理観の問題」として対策を打つ事は無かった。
日本人や福建人労働者の生活を知る韓国人識者の中には「二重規範だ!」と叫ぶ者がいたが、
その声はソウルには届かず、ソウルに届かない声が東京に届く道理もある筈が無い。


 こうして『出稼ぎ労働者の待遇問題』の解決は遅々として進まず……
いや、解決の必要性、それどころか問題そのものの認知すら進まなかったのだった……


              ~ f i n ~

175 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/10/14(日) 20:48:30

(※1)
3K、5K、5KU30はそれぞれ、

3K(さんけー)=きつい、汚い、危険
5K(ごけー)=上に加え、帰れない、給料が安い
5KU30(ごくさんじゅう)=上に加え、平均寿命30歳未満(アンダー30)

という読み方、意味。3K、5Kは転生者(一部は経験者)による造語、
5KU30は非転生者がこれをもじって新たに作った言葉である。
なお、5×9=45。こちらは30ではないのでうっかり混同しないように。


今回のSSの参考文献はこちら。
資料が資料なので、間違いがあったらすみません。

NORTH KOREA TODAY - 北朝鮮地下資源を追え!2008
ttp://www.pyongyangology.com/index.php?option=com_content&task=view&id=1&Itemid=2

次、二本目行きます。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年10月16日 22:12