242 : テツ:2012/12/11(火) 02:53:21
提督たちの憂鬱支援SS ~ 老兵の牙 ~


「三景艦が砲撃位置に付きました」
見張り員の報告に二等戦艦「鎮遠」艦長 今井兼昌 大佐が頷く。
彼の艦は旅順沖に停泊していた。任務は「旅順要塞及び旅順艦隊への砲撃を行う三景艦の護衛」。

今井艦長は思った。
10年前の日清戦争の黄海海戦ではお互いを倒すために牙を突き立てようとしていた。だが10年後の今は、牙を突き立てようとする敵から彼女たちを守るために鎮遠はいる。
三景艦は日露戦争前に旅順攻撃用のモニター艦として新たな牙を与えられていた。これにより彼女たちは「役立たず」のレッテルを剥がしつつあるが、旅順のロシア艦隊もむざむざ殴られっぱなしにはならないだろう。
それにウラジオストックの残存艦隊も日本海の通商路を破壊するために暴れまわっている。

旅順砲撃前の鎮遠の主な任務は船団護衛であった。
史実ではロシア艦隊による通商破壊が日本に無視できないダメージを与え続けていた。
そして夢幻会は当然そのことを知っている。だが旅順のロシア艦隊は連合艦隊主力の第一艦隊で封鎖させられるだろうが、ウラジオストックの巡洋艦隊は厄介な相手であった。何しろ彼らの編成理由が日本海における通商破壊其の物であったからだ。
そこで第一線主力として使うには心許ないが、防護巡洋艦相手であれば未だに有効戦力足りえる鎮遠が他の僚艦と共に船団護衛任務に付くことになった。
そしてこれまで(史実知識によってある程度襲来が予測できた)津軽海峡に通商破壊を仕掛けてきた防護巡洋艦「ボガトィーリ」を大破に追い込んだのを手始めに、第203水雷艇、第205水雷艇を撃沈、装甲巡洋艦「リューリク」を中破させる殊勲を僚艦と共に上げている。
これにより史実でウラジオストック巡洋艦隊撃滅のために拘束された連合艦隊第2艦隊主力を長期間拘束されずに済みんだ。そしてこの事が「日露戦争における鎮遠最大の武勲」と言えるだろう。

三景艦による砲撃が始まった。
旅順を抹殺する。ただその為だけに生き永らえて来た彼女たちが咆える。
その咆哮一つ一つが、今までの自分たちの鬱屈を晴らすが如く。
今井艦長にはそういう風に聞こえた。
(鎮遠、お前も彼女たちもこのロシアとの戦で軍艦としての役目を終えるだろう。だが、お前たちの活躍と献身は帝国海軍がある限り忘れられることはない。だから最後のその日まで、お前の、老兵の牙は錆付かせない)
「艦長、旅順より敵艦の出撃を確認!」
旅順軍港の水路を見張っていた見張り員が叫ぶ。
「総員戦闘配置、僚艦にも知らせろ。三景艦へ速やかに後退するように通信を送れ」
水路に一番近い場所に配置されていた鎮遠が速やかに己の勤めを果たす。

さあ、老兵の牙に掛かりたい奴は何処だ!



終わり

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最終更新:2012年12月20日 23:15