255 :SARU携帯:2013/01/01(火) 22:57:57
前置き

これは飽く迄も憂鬱世界に於ける話であり、実在する人物・団体・国家・宗教・信条とは一切関係ありません。

国のかたち、信仰のかたち

聯邦崩壊――それは旧合衆國諸洲にとって生存競争の始まりだった。或る洲は列強の傘下に収まり、別の或る洲は取り敢えずの独立を果たしたが、そうではない洲の多くは人口や社会資本、
地政学的理由から隣接する他洲と合従連衡するか、さもなくば分割吸収の憂き目に遭った。
旧ユタ洲はグレート・ベースン(北米大盆地)に存在し、列強や隣接洲から半ば隔絶した位置関係から暗黙の内に独立した勢力として認められる立場にあり、そこを実質的に支配している
キリスト教末日聖徒派、所謂モルモン教の信徒達が宗教国家の成立を目指したのは必然と云う他無かった。
彼等が最初に行ったのは洲軍と現地旧聯邦軍の掌握と再編であった。折しも対日戦末期のメキシコ情勢悪化から非モルモン教徒の部隊を様々な理由を付けて洲外へ出すのは簡単であり、
独立宣言時には三個旅団を中核とする確固たる国軍が成立していた。
又、既に“東部風邪(=アメリカ風邪)”の猛威が知られていた為、西部洲境及びコロラド川の通行制限が同時進行で実施され、阻害された難民の流れが主にワイオミング方面へねじ曲げられた。

国号は『ディザレット聖法國』と定められた。この“ディザレット(deselet)”とは聖典モルモン書に由来しているが、旧ユタ洲に入植した教祖ブリガム・ヤングが旧聯邦政府へ設立申請した
洲政府の名称でもあった。“ディザレット準洲”の範囲は大盆地とその周辺のかなり広い範囲に及び、ほぼ同時期に申請されたカリフォルニア洲やニューメキシコ洲と重なる物であった。
結果的にその申請は大きな下方修正を受けてユタ準洲という形に落ち着くのだが、かつて一夫多妻を理由に聯邦市民権が剥奪されるという“法難”を経験した信徒達に取っては、
後の大陸横断鉄道による非モルモン教徒大量流入と共に受け入れ難い事実としてしこりを残した。
独立宣言は旧カリフォルニア洲が伽洲共和國として日本の庇護を受けるのに呼応して行われた。無論“ディザレット”という名称に警戒心を持つであろう伽洲側とは予め話が着いており、
旧ネバダ洲合邦時にかつて同洲が準洲からの昇格時に編入した領域を割譲させると共に、西方へこれ以上の領土要求を行わないという覚書を交わした。

256 :SARU携帯:2013/01/01(火) 23:04:00
又、列強各国にも独立宣言の特使を派遣し、一早く国家としての承認を得た。

この動きに脅威を覚えたのは隣接する、国力に劣る諸洲だった。
日本が当座の勢力圏を西海岸三洲に留めるという方針を意図的に漏洩すると、ディザレットが“失われた領土”を回復する動きを露骨に見せ始めたからだ。
先ず旧アイダホ洲にはまとまった数の信徒が存在するスネーク川以南の割譲が打診された。しかしこれは旧オレゴン準洲(ワシントン、オレゴン、アイダホ)による聯合という反動を受け、
スネーク川流域の分水界を基準とした新国境策定にまでトーンダウンした。
次に旧コロラド洲だったが、皮肉な事に洲境封鎖で足留めされた難民や武装勢力によって強化されており、更には枢軸勢力の躍進や新興テキサス共和國の拡張主義から緩衝地帯として利用する方針に転換した。

テキサスに関しては同じ白人優位主義の立場にはあった物の、後ろ盾のドイツを含めてモルモン教を異端とする宗教観を持つ点で相容れ無かった。その為、テキサスと旧オクラホマ洲の武力衝突
――レッドリヴァー紛争では、伽洲共和國との密約で供与された旧式余剰軍備を装備した義勇兵部隊の編成と(オクラホマ側での)派遣がコロラド國経由で行われた。
又、義勇兵編成に関しては国民に占める信徒比率上昇と国内のモルモン化促進を兼ね、戦後の隣接国(伽洲とコロラド。後には峡洲も)市民権取得に便宜を図る事を公約した。

こうまでして旧オクラホマ洲の住民や同地に成立した先住民政府である自由土人同盟(フリー・インディアンズ。後に先住アトランティア部族機構(NATO)へ改編)を支援するのは理由があった。
旧聯邦諸国は大なり小なり新教――キリスト教プロテスタント各派の影響下にあり、国教がそれ以外の正教や旧教からも異端認定を受けている立場としては、原始信仰の土人でも宗教的圧力を
分かち合う“邪宗”仲間を必要としたからである。
勿論、精霊崇拝的多神教の覇権国家である日本との宗教的文化的摩擦を回避する意味合いも兼ねており、図らずも某方面から旧米版イスラエルと評される独立宗教国家としての生存権を確保した。

257 :SARU携帯:2013/01/01(火) 23:06:13
レッドリヴァー紛争の影で親枢軸勢力はカンザスやアイオワ、両ダコタへと伸長し、ミネソタ分裂や英軍のイリノイ分断に端を発した反独中立の準封鎖域・レイクランド自治聯合成立があり、
そして旧聯邦分割再編のクライマックスとしてのワイオミング分割が待っていた。
アイダホが先の協定に従ってスネーク川流域を併合すると、その大陸分水界に沿ってモンタナが南下、西部は難民流入で混乱状態にあり隣接諸勢力が介入、そして併合の機会を窺っていた。
無論ディザレットもコロラドと共に“予防処置”としての派兵を行っており、最終的にはポーランド自治区の設立を含めたサンタモニカ体制による調停で幾許かの領土を編入した。

こうして旧米中西部に異色の宗教国家・ディザレット聖法國が存在を確立した。
国教に定められた刺激物――酒タバコの他に珈琲や茶も含まれる――は摂取どころか単純所持も法律で禁止している為、主にこれらの流入を防止する目的で強化された国境の警備は、ユタ戦争で
旧聯邦軍を撃退した古えに喩えられる程堅固であり、いかなる外的の侵入すら阻む構えを見せている。
経済的には伽洲共和國や峡谷共和國、コロラド國、更には先住アトランティア部族機構(オクラホマ白人自治区を含む)と通貨協定を結びそれなりの繋がりはある物の、所謂“大アメリカ”的統合を
明確に否定しており、列強各国も明言こそしていないがディザレットの独立――そして旧米の分裂状態維持を強く望んでいる。

こうした国際情勢と時流に乗って独立と信仰を勝ち取った国の姿がここにある。

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最終更新:2013年01月04日 20:34