704 :大西洋 ◆BMYad75/TA:2013/01/10(木) 19:48:45
大西洋ネタです。 162-164の続き
戦時下の証言者たち
「……ええ、当事の私は帯広で縫製工場を経営してましてね。 工場といっても近所のおばちゃんたちを雇って旧式のミシンなんかを10台ぐらい動かしている程度でして、
どこにでもある小さな町工場でしたよ。
そんな町工場にも転移の影響はやってきましてね。
そう戦争が始まってフランスが負けて、いよいよ次は北海道にドイツが来るんじゃないかと噂しているころでした。
工場に外国人の軍人さんが来まして、注文していったんですよ。
腕章を10万個。
そんな量うちだけじゃとても作りきれないから、知り合いの同業者と手分けして作りました。
休日返上で従業員総出で作りましたよ。
そして出来た端から、私が荷車つけた自転車でフランス軍の駐屯地に納品しにいきました。
駐屯地に着いたら、すぐにフランスの兵士が来ましてね。
片言の日本語でついて来いと言って、自転車を押しながらついていくと
服装もまばらなフランス人がたくさん並んでいましてね。
みんな小銃を肩からさげて、みな強張った顔をしていたのを覚えています。
そしてつくやいなや、持ってきた腕章を兵士と一緒に配らされる始末でして。
配られた腕章をみな大事な宝物のように丁寧に扱っていたのが印象的でした。
こっちも彼らがこの後どんなところに行くのか分かっていましたから、渡すときも「がんばれよ」と声を掛けながらでした。
相手もメルシーメルシーと言いながら受け取っていました。
そして彼らは腕章を受け取ったものから急いでトラックに乗り込んでいき、発進するトラックの荷台から彼らは手を振ってきましてね。
私も思わず手を振り替えしました。
彼らの姿が見えなくなるまで手を振りながら、がんばれ、がんばれと叫びました。
彼らのうちどれだけが祖国の土を踏めたかはわかりません。
軍服も支給されず、訓練もろくに受けられなかった彼らは、一丁の銃と私たちが作ったロレーヌ十字の入った腕章を付けて、
あのドイツ軍との最前線に向かっていったのです。」
最終更新:2013年01月13日 23:13