375 :yukikaze:2013/04/13(土) 19:43:54
名無し三流氏に敬意を表し。

提督たちの憂鬱支援SS ある将軍の戦い

救国軍事政府代表である洪思翊大将(クーデター時に昇進)は多忙である。
朝四時には起床してそのまま執務室に入り、寝るのは日を過ぎてから。
隣国の某宰相にも比肩すべきハードワークであるが、彼のおかれている状況は
某宰相と比べるとある意味幸せであり、ある意味悲惨であった。
幸せな点は、取りあえずは自国の内政と対日関係だけを考えればいい事。
悲惨な点は、彼が向き合う問題が、韓国の国力では解決できないほど巨大な
代物であったという事である。

「やはり・・・日本は最小限の援助しか渡さないつもりか」

部下の報告を受けて、洪は溜息を吐いた。
予想していたとはいえ、それが現実のものとなると辛いものがある。

「彼らの言い分では『日本が面倒を見なければならない国は他にもある。これでも
 精一杯出した額である』とのことですが」

納得はしていないのだろう。そう報告する部下の顔には不満の色が色濃く見える。
そしてその部下の態度も、洪が溜息を吐く要因となっていた。

「やむをえまい。連中にしてみれば我らは裏切り者だ。援助を得ただけでも
 幸運と言ってもいいだろうよ」

日本のマスメディアや世論の論調を見るに、日本における韓国の視線は
非常に厳しいものがあった。
元々日本人が韓国人に向ける視線は「近代化の努力をしない国」という
一種の侮蔑感があったが、それに加えて「裏でこそこそ裏切り行為をしでかす
信用できない国」という項目が付け加わったのである。
あるマスメディアは「裏切り者の半島を核で更地にして、日本人が一から
入植した方がアジアにとって利益になる」と主張したが、それが一定の賛意を
得ているという事が、韓国の現状を示していた。

もっとも、こうした日本人の反応は、韓国国内での日本への反発を助長させることになった。
韓国人にしてみたら、日本人という存在はある意味我慢が出来ない存在であった。
数千年レベルでしみついた華夷秩序から考えれば、日本は自分達よりも劣っていなければ
ならないのだが、彼らは平気でそれを覆してのけた。
しかも、新たな華夷秩序の中心として日本を据えたにもかかわらず、日本は韓国を
華夷秩序に従ったルールで遇してはいないのである。
彼らからしてみたら、日本に最も近い韓国は、日本の次に文明国家であり、そして
日本は直近の弟である韓国に対して、様々な手厚い援助をするのが当然の心得である
筈なのである。
だが、日本人はそういった韓国内での常識を完全に無視していた。
つい先日発表された『緑の革命談話』において、その研究センターをフィリピンに
置かれたことも彼らの屈辱感を増した。
カリフォルニアは『華夷秩序の外側の世界』と分類することで無理やり納得させることも
可能であったが、フィリピンはアジア世界なのである。
納得できない韓国人は多く、そしてそれは洪の目の前に立っている男も同じであった。

376 :yukikaze:2013/04/13(土) 19:44:34
「しかし閣下。裏切りの代償としても日本人の行動はあまりにも露骨すぎます。そもそも
 反日云々についても、その原因は彼らにあるではないですか」
「口を慎め。私は貴官を舌禍で失うつもりはないぞ」

洪の叱責に、男は「申し訳ありません」と謝罪はしたが、その視線はまだ納得していないことを示していた。

(情けない事だ。我が国は未だに前近代的な思考で動いている。民族の特性と言えばそれまでだが、
 そのような特性こそが、我が国が近代化に失敗した原因だと何故気づかない)

だが、洪がどれだけ嘆いても、民族の特性がそれこそ一朝一夕で治る訳はない。
それこそ世紀単位で取り組まなければならない課題ではあろう。
そしてそれが成功するかどうかはまた別問題であった。

「とにかく援助は得たのだ。これを元にして国土開発計画を進めなければなるまい」

そう言いながらも、洪の気色は晴れなかった。
そう予算分配という難問が全く片付いていないからだ。
洪としてみれば、少ない予算を効率よく利用するためには、外貨獲得に必要な北部鉱業部門に予算を投下し
そこで得た外貨によって南部の発展に資金を使うべきであると思っていたし、日本側もおおむねそれを
是と考えていた。
だが、国土開発が後回しにされる南部の住民が納得するはずはない。
また資金が投下される北部の住民も、自分達の労働で得た外貨が北部に投下されるのならばともかく、
南部に投下されることには反発を覚えるであろう。碌に働きをしない極潰しがと。
一歩手綱を誤ればそれは深刻なまでの国内対立になるだろう。
そしてそれは祖国の発展を遅らせかねない。

(前途多難だな・・・)

そう思いながらも、彼は投げ出すつもりはなかった。
そのつもりならば最初からクーデターを起こすつもりはない。
自分は軍人なのだ。最後まで勝利を諦めてはいけない。
そこにはまさしく絶望的な戦況でもあきらめることのない不屈の軍人の姿があった。

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最終更新:2013年04月16日 22:44