17. ham 2009/03/21(土) 17:20:54
作者  ham


  提督たちの憂鬱  支援SS  三菱航空開発部編 〜敵は三鷹にあり〜



レシプロエンジンの音が響き渡る。それは今まで聞いた音よりもはるかに大きい爆音だった。

ここは千葉県成田市。
前世では戦後成田空港を中心に栄えているが、この世界では三菱重工の航空機コンビナートがおかれていた。

史実での日本は航空機工場は技術を習得するために都市部に近いほうがよく、飛行場は広大な土地が手に入り易い農村がよいという認識があったため互いの距離が大きく離れていた。
しかし、一分一秒でも早く航空機を前線に送る場合、工場と飛行場の距離は短いほうが良い。そのため夢幻会に加わっている倉崎と三菱はできる限り飛行場の近くに工場を建設し、他の企業もそれに習った。
そしてここ成田のコンビナートもその一環として造られたもので、ここにはジュラルミン・エンジン・ビスなどの部品や機械の製造工場と航空機組立工場、さらに研究所がおかれてあった。
ここの研究所は倉崎の三鷹研究所と双璧を成す、日本の航空開発の中心的存在でありここに勤めている彼らには「打倒倉崎」という合言葉があった。

「大きいな。」彼、山本五十六が目の前の機体を一目見て最初に呟いた一言だった。
「そりゃあ、そうですよ。なんせ4発機なんですから。」そう彼に言ったのは、本庄季郎。三菱の航空技師で九五式陸攻の主務者であり、目の前の飛行機の開発に加わった人物である。
「君から仕様は聞いていたが、頭の中で想像するのと実際に見るのとはぜんぜん違うよ。」
「まぁ、たしかに。」そう本庄はうなずいた。
「しかし、これだけ大きいと値段も馬鹿にならないだろう。嶋田の奴にいろいろ言われるな。これを作るための予算を頼んだ時もいろいろ言われたし・・・。」山本はそうため息を吐き、これまでのことを思い出した。

1935年12月下旬。航空本部長に着任した山本は持論である戦闘機無用論は確実なものにするため、九五式陸攻より強力な機体の開発を考え、その具体的な内容を本庄に話した。
「今の陸攻の性能を、特に速度を上回る機体を造れるかね?」
山本は今より速い機体を造れば戦闘機はさらに追いつけず、攻撃隊が無事帰還できると考えていた。
本庄はしばし考えて答えた。
「本部長。それは双発機なんでしょうか?」
「いや、要求を満たせるのならどんな機体でもかまわんが・・・。」
「それでしたら、4発機をお勧めします。4発なら本部長の言われる性能を満たせるでしょう。実はちょうど我が社でイギリスと共同開発で4発機を造ろうという動きがあるのです。」
三菱は倉崎に勝つため、米国でB-17の初飛行を聞いた人間の提案により国内初の4発重爆開発を考えていた。
また夢幻会に参加する重役達は、英仏と手を組んで独伊と戦争をすることが会で決まっているため、どうせならライセンスか共同開発して向こうで整備が容易なほうがいいだろうと考え、情報局の人間と通じて適当な会社を選んでいた。
「英国と共同?そんなことが可能なのかね?」
「連中、恐慌で痛手を食らってまともな開発費も得られないんですよ。負担が減らせるなら食いついてきますよ。」
「そうか。」
山本はその後本庄と細かな点について話をして本庄を帰した。


1936年春。山本は海軍省内にある軍令部次長室を訪ねた。

秘書に促され、入ったその部屋には「また来たのか」と言いたそうな顔をしている見知った人物がいた。
「山本、何度来ても同じだ。戦闘機搭乗員の転属は絶っっっっっっ対に認めん!!!!!!」
開口一番にそう(いつもより)力強く言ったのは、嶋田繁太郎中将。山本の同期で空母天城艦長を務め航空に理解のある人物であるが、近年戦闘機無用論で山本と対立していた。
「嶋田。今日はその話をしに来たんじゃないんだ。」
「何?」
「新型機の開発費を大蔵省から捻り出してほしいんだ。お前ならできなくもないだろ?」
嶋田は「大蔵省の魔王」と言われる辻と予算交渉を頻繁に行っていて、海軍内では大蔵省に対する予算交渉の窓口と化していた。
「他人事ように言って・・・皆そう簡単に言うがな。あの男から予算を手に入れることは俺だって難しいんだぞ。だいたいあの男はな・・・」と嶋田は辻から予算を獲得するための苦労を話し始めた。
ほっといたら半日は話すであろう。
そう感じた山本はその話を止めさせたが、心の中で改めて辻の怖さと嶋田の苦労を知ったのだった。
18. ham 2009/03/21(土) 17:21:28
「で、いったいどんな飛行機を作る気だ?」嶋田はため息を吐きながら聞いた。
「4発の陸攻だ。開発は三菱と英国のハンドレページ社との共同開発で行う。」
「おいおい、4発の陸攻って・・・。」嶋田は呆れた顔をしたが、すぐに考え込んだ。
(いや、待てよ。ハンドレページ・・・。そうか!ハリファックスか!)
  
ハンドレページ・ハリファックス。アブロ・ランカスターと並ぶ英空軍の4発重爆で、その爆弾搭載量約5.9tを誇り、魚雷2本の搭載が可能だった。

(三菱に何か動きがあることは聞いていたが、これのことだったか。しかし、渡りに船だ。これで原爆搭載機が揃えられる。)
「・・・わかった。何とかしよう。だが、予算は無駄に使うなよ。辻に小言を言われるの俺なんだからな。」
「ああ、わかった。」山本はそう答え次長室を後にした。

後日、嶋田はこの件について辻と交渉した。
辻も原爆の投射手段として重爆は必要だろうと考え、予算を出すことに同意した。
こうして十一試陸攻として日英共同の重爆開発プロジェクトがスタートした。
その後、嶋田によって行われた演習で戦闘機無用論は木っ端微塵に破壊されたが、原爆搭載機を必要とする夢幻会派と滑空爆弾を推進する山本達、両者の思惑により開発は続けられた。
三菱はブリストルハーキュリーズ空冷星型14気筒エンジンを火星エンジンとしてライセンス生産し、当初予定していた機銃を7.7mmから強力な13.2mmに換えそのほかにも様々な改修を行った。
そして現在、1939年8月20日の初飛行にまでこぎつけたのであった。

「発進始め!」
山本達日本海軍側の開発関係者や三菱の技師ら、英国から来たハンドレページ社の人間や駐在武官らに見守られて十一試陸攻がゆっくりと発進を始めた。
陸攻は徐々にスピードを上げ、その巨体を空へと舞い上がらせた。
「おぉ・・・」
参列者から簡単の言葉が上がった。
十一試陸攻は徐々に高度を上げ、高度7000mに到達。
「我、機体に異常なし」と無線で告げられ、歓声が沸きあがった。
初飛行成功である。

その後試験の結果、当初から重視されていた最高速度は九五式陸攻より速い450km/hを記録した。(その他の性能では劣るところがあったが。)
こうして日英共同による4発重爆の開発は成功に終わり、9月に十一試陸攻は九九式大型陸攻 深山(陸軍名九九式重爆 呑龍)として採用されたのだった。
その後、三菱は日本で唯一の4発機製造を扱う企業として日本陸海軍のみならず第2次大戦勃発により航空機購入活動をしていた英仏購入委員会からも受注を受け倉崎を追い抜いたのだった。

しかし、これを黙って見過ごす倉崎ではなかった。
三菱の開発開始に遅れること半年、倉崎はアブロ社と共同開発でアブロ・ランカスターの開発を始め、これを1940年8月に百式重爆連山として採用させた。
ランカスターの最大の特徴である約10tの爆弾搭載量(B-29より1t多い)を減らし、その分を他にまわして増槽搭載スペースなどが施し、エンジンであるマリーンも66型以降並に馬力アップしていた。
ハリファックスどころか史実のランカスターを上回るその性能は評判を呼び、倉崎は三菱より受注を多く受け深山は早くも二線級に格下げされてしまった。
こうして一時期トップの座に着いた三菱だったが、一年も経たずにその座を倉崎に譲ることになった。
その様子は後世の人に明智光秀の11日天下ならぬ、三菱の11ヶ月天下と揶揄されるようになったのであった。
<完>
19. ham 2009/03/21(土) 17:22:02
<登場兵器>
九九式大型陸攻 深山(陸軍名 九九式重爆 呑龍)
乗員:7名(操縦士・航法士兼無線士・機関士・爆撃手・機首銃手・背部銃手・尾部銃手)
全長:21.8m
翼長:31.8m
全高:6.32m
エンジン:火星エンジン(ブリストルハーキュリーズ空冷星型14気筒エンジン)4基 1630馬力X4
性能 最大速度:450km/h
航続距離:3,000km
飛行高度:7400m
武装 機銃:九三式13.2mm重機関銃 4門 (前面単装1基・背面連装1基・後面単装1基)
   爆弾:最大搭載量:5700kgまで
                        800kgの場合6個(4800kg),500kgの場合9個(4500kg),250kgの場合12個(4000kg),60kgの場合18個(1080kg)
標準搭載量:3000kg(500kgX6,250kgX12)
魚雷:2本

百式重爆 連山
乗員:8名(操縦士・航法士兼無線士・爆撃手・機関士・機首銃手・背部銃手・底部銃手・尾部銃手)
   全長:21.0m
  全幅:31.10m
   全高:6.2m
  エンジン:流星エンジン(ロールス・ロイスマーリン液冷V型12気筒エンジン)4基 1700馬力X4
   性能 最高速度:469km/h
   航続距離:4200km(標準搭載時)
        上昇限度:7600m
  武装 装備:九三式13.2mm重機関銃 6門 (機首単装1基・背部連装1基・底部連装1基・尾部単装1基)
   爆弾:最大搭載量:7200kgまで
                        800kgの場合8個(6400kg),500kgの場合12個(6000kg),250kgの場合16個(4000kg),60kgの場合24個(1440kg)
   標準搭載量:4000kg(500kgX8,250kgX16)

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最終更新:2012年01月02日 23:47