161. New ◆QTlJyklQpI 2011/04/26(火) 21:57:40
提督たちの憂鬱  支援SS    〜〜米国のとあるパイロットの日常〜〜

「ファック、このじゃじゃ馬め!」

P−51F戦闘機の中でパイロットのポーターは金切声をあげていた。

彼はP−51Aに乗っていた経験からP−51の操作性を熟知していたがツインワスプを搭載したP−51Fは

彼にとっては全く別機に等しいくらい操縦性が変わってしまったからだ。

史実のP−51は初期はアリソン液冷エンジンを搭載した平凡な機体だったが英国のマーリンエンジン

を搭載して隔絶した性能を発揮した機体だ。だがこの世界ではさっさと英独戦が停止してしまったため

マーリンエンジン搭載も立ち消えになった。そして津波以て数奇な運命を辿ることになる。

アリソンエンジンの供給が止まり首無しで放置されていたP−51に供給のめどが立たない液冷エンジン

でなく大量に保存されて整備部品も豊富なツインワスプ空冷エンジンを搭載することになったのだ。

細身の機体に空冷エンジンを載せたため機首周りの空気抵抗が生まれたが推進式排気管で抵抗を

吹き飛ばすことである程度の緩和がなされ武装も日本機を撃墜出来るようにM2機関銃を6門装備出来るように

翼を改修した。何よりも有り難いのは液冷エンジンやラジエターなどの弱点がなくなったことで軽量化されたことで

格闘戦では米国でも有数の能力を得ることになった。良いことずくめのように見えるが勿論欠点も存在する。

空気抵抗は緩和されてるとは言えやっつけ仕事に近いので操作性に影響を与えるし、馬力の不足を補うために

燃料タンクを縮小した結果航続距離が1,000kmにも満たなかった。それでも新米などなら他の機体に乗ってない分

すぐに取り扱えるが熟練のパイロットからは悲鳴があがった。今まで乗ってきた陸軍機に比べても軽量すぎる

ので操縦がピーキーに感じてしまうのだ。それにP−51に乗っていたパイロットらもなまじ液冷に慣れているので

軽量化した機体にポーターのように悪戦苦闘してしまうのである。
163. New ◆QTlJyklQpI 2011/04/26(火) 21:58:14
「やれやれ参ったな、こりゃ」

「調子はどうだい、ポーター」

何とか無事に地上に降りてきて愚痴を呟くポーターにP−77パイロットのジョンが声を掛けてきた。

「液冷機に乗りなれてる奴には御愁傷様だな、まだセイバーのほうが乗りやすいかもしれん」

「そりゃあセイバーはヒット&アウェイの機体だから格闘戦の機体よりは乗りやすいだろう。けど着陸に

気を使うからそっちの方がマシと思うぜ」

P−77セイバーはカーチス・ライト社が本来は高高度迎撃機として開発した空冷戦闘機だ。

エンジンに爆撃機にも使用されているR−2600を使用してそれに合わせて機体を極端に絞って

時速650km以上を叩きだす。しかし、前方視界が悪く着陸時に神経を使うことと高高度迎撃を可能にする過給機の開発が

延々として進まず陸軍は迎撃をP−38に任せること決定してしまった。だが現時点で大量に出回っている部品を使用している

コストの安さに目が行き、中国への輸出を含め量産されることになった。量産型は前方視界を操縦席の嵩上げ

と主脚の強度を上げて緩和したが以前着陸速度が高いのでやはりパイロットには神経を使わせる。

「これで本当に日本に勝てるのか?」

「噂じゃP−38に追いつけるらしいからやっぱ厳しいだろう。それでも単発だから運動性で何とかしたいが」

腹ごしらえにトゥインキーを口に運びながらも「機体のことじゃない」とポーターは否定する。

「碌にエンジンも揃えれないし、新型機も俺ら一部にしか回ってこないのに勝てるのかということだ」

確かに新型は西海岸に集められてるがそれでも全体で見ると少数でしかない。しかも一部部隊は

複葉機を引っ張り出して数を揃えている始末だ。

「物価も上がり続けているし、治安も悪化している。これでトゥインキーまで出回らなくなったら御終いだぜ」

「上の方では新しい戦法を考えてるらしいが、どうだかな。それよりあんまそういうこと言いふらすなよ。

MPとか在郷軍人とかが最近煩くなってるらしいからな」

「分かってる。ナチじゃあるまいし何してんだか」

負け続けている影響で反戦デモなどが繰り広げられてるが逆に「黄色い猿と話など出来るか!」と在郷軍人を

中心とする集団との衝突も増えており一部に軍人まで加わることでMPの方では神経を尖らせているのだ。

ジョンが話題を変えようと将来のことについて話し出す。

「なあ、ポーター。お前戦争終わったらどうする?」

「そうだな・・・・・取りあえず日本に行ってみたいな」

「日本にか?またなんで?」

「あんだけ強い機体作った奴らを見てみたいじゃないか。新聞とかに載って猿モドキみたいなのは信用できん
からな。」

「その時は俺も連れてってくれ」

「その前に昨日のツケ払ってからな」

2人が話に花を咲かせている間も航空機が空目掛けて上がっていく。米国史上最大の危機を肌に感じながらも

男たちの日常はいつも通りに流れていく。その先のまだ見えない明日を求めて。

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最終更新:2011年12月31日 19:58