660. 名無しさん 2010/12/19(日) 23:04:20
  オーストリアのバイエルン山岳地帯、ベルクホーフと呼ばれる山荘。

  ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは、その山荘の一室に置かれた観葉植物を眺めながら呟いた。
「この観葉植物が仕事運を高めてくれるというのならこんなに楽な話は無いがな・・・」



                  提督たちの憂鬱  支援SS  『預言者がいるとでも言うのか?』



  彼・・・ヒトラーは最近、"風水"という物に凝っているが、それにはこんな経緯があった。



  時は現在を少し遡る。

  近代に入って日本は夢幻会の指導によって急速な、異常と言っても良い発達を遂げていた。
西欧列強はその原因を探ろうと四苦八苦していたが、その原因は掴めずじまいだった。
そんな中、世界恐慌によって各国が損害を受け、それを尻目に日本だけが酷いボロ儲けをすると、
「日本人は何らかの方法―――例えば占いみたいな物―――で未来を予知しているんじゃないか?」
  という説を唱える白人ジャーナリストまで出て来る始末だった。
そんなある意味では的中している、しかしある意味では的外れな説を信じた者の1人が、
誰あろうヒトラーだったのだ。そして彼は占い―――星占術にハマり始めた。

「目には目を、歯には歯を、占いには占いを、だ」

  そんな事をしている内に、日米間で戦争が勃発。
と同時に大津波で大西洋岸が揃って壊滅するとヒトラーはますます、
この『日本人は占い名人説』を頑なに信じ込むようになってしまった。

「日本人はきっと、東洋流の占いをしているに違いない。
  もしかすると星占術以上の物かも知れん・・・
  誰か東洋の占いに詳しい奴はいないのか?」

  悩んでいる彼の前に現れたのが、"風水"だった。
分裂状態になった本土に見切りをつけて中国外へ移住した中国人らが、
時の権力者に取り入るチャンスと見て"風水"を売り込み始めたのだ。

「頭を使いすぎた時は北に頭を向けて寝ると良いのだな?」
「西に黄色い物を置くと金運が上がる?国庫にも効果があるのか?」
「北西には白い物を置けば事業運が上がるのか・・・」

  こうしてヒトラーは、"自称"風水専門家の中国人を非公式に重用するようになった。
中には口から出まかせでデタラメを言う者もいたが、彼は気にも留めなかった。
彼の別荘としての側面も持つベルクホーフは、さしずめ"風水御殿"であった。
ヒトラーはこの山荘の窓の位置から玄関の向き、ベッドの向きに至るまで、
あらゆる部分に"風水風味"(本人は正統派風水と信じている)を取り入れていたのだ。
661. 名無しさん 2010/12/19(日) 23:05:46
―――閑話休題。


  それと同時にヒトラーは、『過去に日本人と接触を持った人物』も調べさせていた。
"日本人が目をつけた人物は将来大成するのではないか?"という推測の元に、
彼は使える物を全て使って日本人と関連を持っていると思われる人物の事を調べていた。
そうすると、何百人という該当者の中から5人の人物がヒトラーの目に留まった。

ミハエル・ヴィットマン。
オットー・カリウス。
エーリヒ・ハルトマン。
ハンス・ルーデル。
エルヴィン・ロンメル。

彼らは皆、過去に日本人から何らかの贈り物を受け取っていたらしい。
それも複数回に渡って。

(ミハエル・ヴィットマンは第二級鉄十字章を持っていたな。
  地形を巧妙に利用している戦車乗りだという話はよく聞いた。
  しかし"虎の毛皮"などという贅沢品を贈られていたとは・・・
  オットー・カリウス・・・今の所あまりパッとした話は無いが、
  ヴィットマンと同じ物を贈られている所から見るに何かあるのだろう。
  エーリヒ・ハルトマンは戦闘機乗り、現状はカリウスと同様だな。
  ただ彼の場合は黒いチューリップの絵画が贈られたのか。
  ハンス・ルーデルはスツーカのパイロット・・・
  今の所は着実に戦果を伸ばしている。
  このペースで行けば急降下爆撃機のエースになりそうだ。
  何冊か本を貰ったらしいが、できればどんな本かも調べてほしかった。)

ヒトラーは山荘で報告書を見ながら、
極東にいる強敵が一体何を考えていたのかを見出そうとしていた。

(そして日本人からの接触および接触未遂が一番執拗だったのは・・・
  我らが英雄エルヴィン・ロンメルか。駐在武官まで面会に来てたそうだが、
  贈られたのは武骨なゴーグル1個。
  そして備考欄・・・『手紙を何通か受け取っている』、だと?
  どんな手紙か書いていないではないか、全く気の利かない連中だ・・・)
662. 名無しさん 2010/12/19(日) 23:06:21
  一見不規則的に見える贈答品の中身と贈り先。
そして国内でも最大級の人気を誇っているロンメルへ送られたという書簡。
日本人に対し言い知れぬ不気味さと恐怖感を感じつつ、ヒトラーはある結論を見出した。

(もしかしたら、日本人は彼らを親日派にしようとしていたのではないか?)

  ドイツ軍の兵士達は今までもよく戦ってきてくれていた。彼らもその1人である。
日本人が彼らに接触を図っていたのは、彼らが自分達の敵に回る事を恐れているからなのか?
ロンメルも含め、彼らはそれだけの兵士になるだろうと日本は踏んでいたのだろうか?

  ヒトラーは数十秒の沈黙の後、ある事を決心した。

「彼らに常に最新の兵器が与えられるよう、国防省の石頭ジジイどもに掛け合おう。
  所属も所在地もバラバラだから上手く行くかは分からんが・・・
  あとは1つの部隊にまとめる事ができれば万々歳だな」

  かつては日本人を黄色人種として侮っていた彼は、
今度は日本人を過度に危険視するようになっていた。
要するに、"白人優越論"が"黄禍論"に置き換わったのである。
そして彼は、日本人をただ侮ったり恐れるのではなく、
日本人の優れている特質を利用しようとも考えていた。

「折角日本人が掘り起こそうとした人材だ、後は我々の方で活躍させるとしよう。
  それにしても彼らの皆がここドイツに留まってくれたのは幸いな事だったな。
  連中の悔しがる顔が目に浮かぶようだ!」

  ヒトラーは自分の(自分にとっては)巧妙な考えに満足したところで、
泥沼化した、要するにグダグダな状況になっている独ソ戦に考えを移す事にした。
663. 名無しさん 2010/12/19(日) 23:07:05
(独伊同盟を独日伊三国同盟に発展させてソ連を挟み撃ちにするのが理想だが、
  両国の国民感情を考えれば到底無理な話だ。残念だが諦めるしか無いな。
  かと言って現在の枢軸国であの国を相手にし続ければいずれ息切れする。
  万が一日本がソ連の肩を持つような事があれば最悪だ・・・)

  シミュレーションは幾通りか考え付くものの、良い展望がさっぱり見えてこない。
この戦争の大きなキーとなるのが日本の動きだが、その日本の動きがさっぱり読めないのだ。

(アメリカが奴らに負けるのは確実だとしても、
  その後だ。その後日本が北に行くか西南に行くか、それが分からん・・・
  北ルートならソ連との衝突は免れられんから独日の協調の兆しが見えるが、
  西南だと我々がイギリスとしたようにソ連との中立を保つだろう。
  そうなればこれからもソ連は我々に全力を向ける事ができる・・・)

  尽きる事の無い国難の種に、心を休める場所の筈である山荘で、
ヨーロッパの独裁者は頭を痛め続けていた。

(全く・・・世界恐慌といい大津波といい、連中には預言者がいるとでも言うのか?
  いるのなら我が国に寄越して欲しいものだ・・・)



    〜    Fin    〜
664. 名無しさん 2010/12/19(日) 23:07:48
あとがきたーいむっ。

ええい、前作、前々作と比べ明らかに出来が悪い。シナリオって大切だ。

最初は"占いオタのヒトラー"を描きたかったのが、短いかなと思ったのが最後、
どんどんドイツのチート軍人たちに話が移っていってしまって・・・
本当はアフリカの星みたいな有名所ももっと入れたかったけど、
あまり多くしすぎると収拾が付かなくなるので中止。申し訳ない。
というか占いの話だけで終わりにすれば良かった。

この話で"彼ら"にプレゼント攻勢をかけた日本人(逆行者)は、
ヒトラーの予測しているような親日化を図ったりとかでは無く、
アイドルにファンレターとかを贈るようなそういう気分でやってる・・・
という風な脳内設定にしてます。ロンメルへの手紙は、おそらくモロにファンレター。
肝心の本人の方は何が何だかサッパリ分からないでしょうw

余談ですがハルトマンやカリウスは、Wikiによると活躍が1943頃からとの事なので、
1942年を想定している今はパッとしない感じにしています。

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最終更新:2011年12月31日 20:39