846 :パトラッシュ:2013/06/22(土) 08:23:23

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART10

セシリア・オルコットSIDE(2)

 一夏さんの新たな幼馴染、中国代表候補生の鳳鈴音。いえ、ISのことなんてどうでもいいのです。わたくしが一夏さんを奪うための新たな障害。絶対に排除しなくては――。
 クラス代表決定戦で負けた後、わたくしは控え室で酷く落ち込んでいました。英国と自分の名誉を賭けて全力で戦ったのに、ほとんどISを触ったこともない男に負けるなんて……あまりに自分が惨めで情けなくて、涙がとまらずにいたところへ彼が現れたのです。

「オルコットさん、今日は全力で戦ってくれてありがとう」
「なぜ今さらそんな! 素人と戦って惨敗した代表候補生を笑いにきたのですか?」
「そんなつもりはない。俺は軍人として、必ず敵については可能な限り調べる。ピットと機体を同時制御できず、近接戦闘に弱い点などは、君の訓練を見ていてすぐにわかった。当然、対策も考えてきたが、今日はそうした弱点がかなり消えていて驚いたよ。わずか一週間でこれほど努力してきた相手を笑える者は誰もいないさ」

 聞いているうちに、わたくしは心が温かくなっていくのを感じました。思えば両親が事故死して以来、わたくしの人生はオルコット家を守るための戦いの連続で、周囲すべてを敵視していたのです。そこにわたくしより強い男性が現れ、優しい言葉で包んでしまう。ひとりになってから一夏さんの名を口にすると急に全身が熱くなり、あわてて冷たいシャワーを浴びてもほてりは冷めませんでした。そのとき、はっきり自覚したのです。ようやく見つけた理想の男。誰にも渡さない。一夏さんは絶対、わたくしのものにいたしますわ。

 それから一夏さんがフランス代表候補生と一緒にしていた放課後の訓練に加わり、もっと実力を高めるよう努めました。心身ともより強く美しくなって、一夏さんに認めてもらうために。シャルロットも明らかに同じ考えでしたが、むしろよきライバルとして仲のよい友人になっていきました。そこへ突然割り込んできた中国娘。何か大切な約束をしていたとかで、恥ずかしげな上目遣いで一夏さんを見ています。危険信号が鳴りっ放しですわ。

「約束って……?」
「ほら、小学生の頃あたしとした約束よ」
「――すまない、鈴。今は記憶にないんだ。いつか思い出せるかもしれないが」
「な、何よ、ひどいじゃない一夏! 女の子との約束を覚えてないなんて!」
「悪いけど鈴、お前には数年前かもしれないが、俺にとっては十年以上前の話だからな。しかも向こうへ行ってからは、戦場や宇宙で過ごした時間のほうが長かった。明日を生きるために今日の敵を倒す日々の明け暮れだった俺に、昔を振り返る時間はなかった……正直、こちらへ戻ってからは過去が一度に押し寄せて、つらいことさえある」

 一夏さんの低い声に、周囲はしんと静まりました。そういえばこの人は、普段はまったく感じさせませんが人類が滅亡寸前まで追い詰められた世界の軍人をしているのですわ。

「俺の十代は戦争続きだったよ。学校で勉強するのも宇宙戦士訓練学校以来だし、大気圏より宇宙空間を飛ぶほうが慣れている。しかも宇宙食やコンバットレーションばかり食っていて、親父さんの中華料理の味も忘れちまった。貧しい青春というべきか」
「……ムキになってゴメン。アンタの苦労なんて、想像もできなかったから」
「かまわないさ。また酢豚を作ってくれよ。料理の腕前は上達してるんだろ?」

 一夏さんの笑顔に見ほれながら、わたくしは別のことを考えていました。一夏さんは、おいしい料理に飢えている様子。ここはぜひ、わたくしがイギリス料理の真髄を知らしめるため腕を振るいましょう。そうすれば一夏さんはイチコロですわ。うふふふふ――。

※お久しぶりです。「セシリア」とは、声優の故川上とも子さんの洗礼名だそうです。この名を書くたびに、川上さんが生きていてアニメ版に出演していたらと思ってしまいます。wiki掲載は自由です。

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最終更新:2013年09月07日 20:07