678. 名無しさん 2010/12/22(水) 22:52:44
「何、私に航空機の仕様書を?」
「はい、ルーデル大佐。何でも、新型の爆撃機を作るとかで・・・
  それで大佐に仕様書を見ていただいて、
  付け加えるべき点があれば何でもおっしゃってほしいと」
「ふむう・・・」


  男の名はハンス・ウルリッヒ・ルーデル。いわずと知れた『空の魔王』『スツーカ大佐』である。
この世界では、どこかの逆行者が下手に彼に手を出そうとした事を聞きつけたヒトラーによって将来を過度に期待され、
彼の根回しによって1942年の時点で既に大佐となっていた。本人はその詳しい経緯は知らなかったが。



          提督たちの憂鬱  支援SS『魔王と鳥と』



  独ソ戦の真っ只中、ドイツ軍はとても苦しかった。ソ連もソ連で苦労していたのだが、
まず人的資源の数が違う。史実で「畑から兵士が採れる」と揶揄されたソ連に対し、
ドイツは枢軸国の援軍を集めても兵力的にたいした数にはならなかった。
また、兵器の数もかなり足りていなかった。補給も遅れがちだった。
  それでもゲッベルスのプロパガンダ映画『西南西へ進路を取れ』に比べれば、
ずっとマシな状況だった。が、今のドイツ軍は兵器と人手が、喉から手が出るほど欲しかった。

  ルーデルのいる格納庫にあったのは、使い古しのBf109が2機(出撃中)と激しい損傷を受けたスツーカが3機。
格納庫の隅にあるBf110は左翼の端が折れており、さらには胴体には機銃の貫通した跡があった。
彼としてはスツーカが無ければ他の機体に乗るのも仕方が無いと思っていたが、まず乗り換える機体が無かったのだ。

(今はやたらガタついている主翼を修繕しているそうだから、
  まともに飛べるようになるには時間がかかるだろうな。新型か。
  いずれ私も乗るようになるのだから、見ておくのも悪くないか)

  彼はそう考え、とりあえずこの依頼を引き受ける事にした。

「いいだろう。で、その仕様書は?」
「司令部の会議室の方にありますが」
「ここまで持ってきてくれないか?
  スツーカの修理が終わり次第出撃したいのでな」
「はぁ・・・?・・・ええ、分かりました」
「ヘンシェル、君も見るかい?」

  隣にいた後部機銃手のエルヴィン・ヘンシェルも微笑みながら頷く。
五、六分してルーデルに要件を伝えていた伝令が鞄を片手に戻ってきた。
679. 名無しさん 2010/12/22(水) 22:53:20
「これです大佐。・・・あの、一応軍機扱いらしいですから・・・」
「そのぐらい分かっている。どれどれ・・・?」

  彼は鞄を受け取り、書類を取り出すと早速目を通す。ヘンシェルも後ろから覗き込む。
少しして、ルーデルはおもむろに眉間に皺を寄せた。その仕様書の内容は凡そこんな物だった。

?機体のベースは『Ju−87  スツーカ』にすること
?対戦車砲を装備、地上の砲撃を可能にすること
?急降下爆撃はこれまで通り可能であること

「まず、対戦車砲というのはどういう事だ?」
「あの、伝令の私に言われても・・・」
「む・・・そうか、確かにそうだな。なら今から感想と意見を言うから、
  君は後で仕様書にそれを書き足しておいてくれ」
(何だこの無茶振り・・・
  そもそも私は司令部に彼を呼ぶだけの筈だったのに・・・)

  ルーデルは呆れる伝令を意に介さずしゃべり続ける。

「対戦車砲の口径をどうするかは知らんが、
  飛行機に載せるつもりならばなるたけ小さくしてもらわないとな。
  攻撃手段が増えるのは良い事だが、操縦が重くなっては困る。
  できれば新入りでも楽に操縦できるようにしてもらいたい。」

(メモ帳持っててよかったな・・・こんなの一度に記憶しろなんて無理だよ)

「あとは、もっともっと頑丈にして欲しい。過剰すぎるくらいで構わん。
  歩兵の小銃で傷が付くような装甲では困る。」

(あれ?飛行機ってそんなにヤワだったっけ?)

「それからこれは余裕があればで良いが、弾と燃料は多めで頼む。
  今のスツーカだが、爆弾が切れる度に補給に戻るのが面倒なんでな」

(あぁ、確かに・・・って、何納得してるんだ俺は!?)

「今思いつくのはこのぐらいかな。・・・そうそう、
  速度がどうこうというのは構わん。はっきり言ってどうでもいい。
  機体を好きな時に、好きな向きへ持っていけるだけで十分だ」

「はぁ・・・分かりました。では大佐、御機嫌よう」
「ああ。御機嫌よう」
680. 名無しさん 2010/12/22(水) 22:57:01
「全くもう・・・どうしてこう余計な仕事が増えるんだ、
  私はただ前線の取材に来ただけだって言うのに」

  司令部に戻る道中、ルーデルから帰された鞄を片手に伝令は呟いた。
伝令―――確かにさっきまでの彼は伝令だったかもしれない。
しかし彼は本来、伝令を任されるような立場の人間ではなかった。

「それにしても・・・私みたいな記者に、
  いきなりこんな仕事を押し付けるなんて・・・
  こっちの方は随分人が不足してるみたいだ」

  彼・・・従軍記者エルンスト・ニールマンは司令部に戻り、
仕様書の入った鞄とルーデルの言葉を記したメモを衛兵に渡すと、
中のにいるお偉方に届けてもらうよう頼んでから、
報道陣へあてがわれた宿舎へと戻った。

(あの男、ハンス・ルーデルか。悪い人には見えなかったな・・・)

  一方、格納庫でスツーカの修理が終わるのを、
まるでクリスマスプレゼントを待つ子供のように待っていたルーデルも、
あの伝令の事が妙に頭のどこかに引っかかっていた。

(あの伝令・・・何で軍服を着ていなかったんだ?)

  これは夢幻会のみが知る事であったが、
このエルンスト・ニールマンは史実の第二次大戦中における、
ハンス・ルーデル最後の後部機銃手となった男だったのだ。
夢幻会の歴史への介入は、こんな所でも不思議な出会いを作っていたのであった・・・



          〜Fin〜
681. 名無しさん 2010/12/22(水) 22:57:31
恒例の後書きです。

えーと、そこそこ、って感じですかね?
とりあえず微妙にgdgd感漂う前作よりかはマシだと思います。
大砲鳥、微妙にA−10神要素がミックスされそうな予感w

この新型機ですが、まだ仕様書段階にしてあるのは、
後で無かった事にできるようにするためです。
なにせ私、本編に干渉するのが怖くて怖くて・・・

ゲッペの挑戦の続編が書けないのも、
B−29の話でルイジアナルートその他の末路を書いていないのも、
総統閣下&風水で贈答品攻勢を受けた方々の反応を明記してないのも、
全ては本編への干渉を恐れるがあまり、という訳なのです。

・・・チキンですみません。
とりあえず仕様書がどんな感じになったかだけ書いておきます。
(※)はルーデル閣下により追加、改変された部分です。
・・・随分と手直しされてるなぁ・・・

〜ドイツ空軍  次世代型爆撃機  仕様書〜

・ベース機体はJu−87スツーカ
・(※)小口径の対戦車砲を装備
・急降下爆撃可能
・(※)小回りを重視、操縦は簡単に
・(※)最高速度は考慮しない
・(※)とにかく頑丈にする

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最終更新:2011年12月31日 20:39