20. ham 2009/03/21(土) 17:23:36
作者  テツ

ドイツ第3帝国が史実通りポーランドに侵攻し第二次世界大戦のゴングが鳴った。ソ連との密約通りポーランドを分割し、ドイツ軍の主力がフランス国境に展開し始めた頃、北欧の小国で後に世界を揺るがす事になる、密談が行われていた。

1939年9月。フィンランド共和国の首都ヘルシンキ。
北欧の短い夏は終わり、秋を通り越して晩秋のようなフィンランド。9月の平均気温は約10度であるが既に10月間近なので、体感気温はそれ以下だった。
そしてそのヘルシンキに1人の日本人の老人が降り立った。
「あー、寒い。雪降る前の青森より寒いな」
冬用外套を日本から持ってきていたのは正解だったようだ。
そう口の中だけで呟いた。
ヘルシンキ・マルミ空港は1936年に開港されたフィンランド最初の国際空港であり、最初の陸上航空機用の空港でもあった。
老人がタラップを降りてターミナルに入り、入国手続きを済ませようとした。
「失礼ですが」
英語で話しかけられたのはその時であった。
「Mrナリサワでしょうか」
「そうだが、君は?」
「失礼いたしました、スオミ貿易産業の者です。この度、我が社との取引の為に起こし頂けましたので、お迎えに上がりました」
「なるほど。だが、少々お待ち願えるかな。手続きの途中なのでね」
そう言ってナリサワと呼ばれた老人は手続きの書類を速やか記入し、担当の人間に渡した。
「では案内の方をお願いできますかな」
「ええ、ではこちらに」
ターミナルを出て空港側の駐車場に向かう途中で、ナリサワが案内の社員に呟いた。
「所で、今日は寒いね」
「いいえ、冬のモスクワほど寒くはありませんよ。アオモリは寒いですか」
「ああ、コレからドンドン寒くなっていくよ。多分8月には氷点下40度まで下がるだろうね」

「ようこそフィンランドへ、閣下」
「ありがとう大尉。しかし、偽装が必要なほどイワンの間諜が入り込んでいるのかね?」
「念には念を入れるに越したことはないかと」
「なるほど、確かに同意できる言葉だ」
ヘルシンキ都市部に向かう乗用車の中で、先程の二人が表向きの身分をはがして話していた。
因みに駐車場に向かう前に話していたジョークのような会話が、実は合い言葉だったのだ。もっとも、他者が聞いたら非常に寒い思いをしただろうが。

提督たちの憂鬱  支援SS〜灼熱の冬のその前に〜


「ようこそ将軍、わざわざ地球の裏側から来ていただいて恐縮だ」
「いえ、元帥閣下。貴国へは一度来てみたかったので、今回は丁度良い機会でしたよ」
元帥と呼ばれた老人(70をとうに過ぎているがそうは見えない)と日本人はガッチリと握手を交わした。
「フィンランドの英雄とお会いできて光栄です、マンネルヘイム元帥閣下」
「私はただの老体だよ。私こそ、日本陸軍の英雄と会えて光栄だ、山口少将」
「今の私はただの退役軍人で、ただのサラリーマンですよ」
そういって笑い合う2人。
カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム陸軍元帥。フィンランド最大の英雄にして最高の軍人。現在は国防会議議長としてフィンランド軍の強化に努めていた。
山口?退役陸軍少将。史実において八甲田山の陸軍歩兵第5連隊の集団遭難事件を引き起こす人物だが、この世界では「夢幻会メンバー」であり憑依者であった。そして現在は日本(主に夢幻会関係)の国策会社でもある「帝国総合商社」の経営責任者である。
21. ham 2009/03/21(土) 17:25:07
山口がフィンランド軍の実質的最高司令官であるマンネルヘイムと接触した理由はただ一つ。夢幻会(大日本帝国)がフィンランドとソ連との戦争(冬戦争)に介入することを決定したためだ。
そして「超人集団のフィンランド軍をチート強化して赤いクマー達をカレリア地峡やコッラ川やラーテ林道で肥料にする」為に様々な支援をすることであった。
だが、現段階で出来ることは限られていた。まだフィンランドとソ連の関係は戦争状態にはない。その為、武器の無償供与や兵員の派遣は不可能であった。
下手をすれば冬戦争の開始時期が早まってしまうからだ。
あからさまな大規模な武器供与は交渉が決裂する11月まで待つ必要がどうしてもあった。
しかし、武器を直接供与しなくてもフィンランド軍を強化する方法は幾らでもあった。

1:重機・セメントの販売
これは主にマンネルヘイム線の強化に使われる予定であった。何しろ冬戦争では開戦以来ソ連軍の生田の猛攻を跳ね会し2ヶ月持ちこたえたが、最終的には突破されてしまった。しかし重機とセメントで陣地の強化や増設、ベトン製の要塞砲陣地の構築などで史実より頑強な要塞線を作り上げる予定だ。
2:スノーモービルの販売
史実では、カレリア地峡はマンネルヘイム線とコッラ川の防衛戦が主体だったが、フィンランド北部のラーテ林道付近ではフィンランド軍のスキー猟兵による戦闘が多かった。そこで雪上で抜群の機動性を誇るスノーモービルを販売することにした。
まだ日本本国でも配備数が多くはないのに、それを売ると言うことが在る意味日本の覚悟を表しているだろう。
しかし民生用として軍用部品は全てオミットし「レジャー用品」としてソ連の目を誤魔化して多数輸出する事にしていた。もっとも、オミットされた部品はヘルシンキで改めて装着されたが。
3:山岳・寒冷地用機材の大量販売
フィンランドは北極圏に属するため、寒冷地用機材が必要不可欠であった。そしてウィンタースポーツも盛んであるため山岳用品やスキー用品が大量に輸入されても特に疑問には持たれなかった。携帯型の小型ストーブや携帯コンロ、湯たんぽや試作の使い捨てカイロ、カ○リーメイト擬きやインスタントラーメン等々。
勿論、軍隊でも直ぐさましよう出来るような物ばかりである。

「なるほど、確かにこれらの事は有り難い。英仏はドイツとの戦争中なのでこういった物の支援はあまり期待できないからな。スウェーデンやノルウェーも大規模な物資の支援はきついだろう。だが・・・」
「言いたいことは大体解っております。もっと直接的な防衛力。ですな」
そう、武器弾薬等の販売品は山口の言葉にも販売予定表にも書かれてはいなかった。
「残念ながら「現段階に置いて未だ」フィンランドはいずれの国とも交戦状態にはありませんが、某国が貴国の軍備強化に目を光らせているのはほぼ確実でしょうから、あからさまな事は」
「ほう。スペインや中国大陸で武器商として名前を馳せた帝国総合商社の経営責任者の言葉とは思えんがね」
マンネルヘイムの言葉に山口は苦笑するしかなかった。
彼が(厳密に言えば夢幻会)中国大陸やスペイン内戦で売りまくった武器は小は拳銃、大は旧式軍艦まで様々在った。「日本人は血で汚れた金で発展している」と言われることもあるくらいだ。もっとも、某大蔵官僚のドンに言わせれば「汚くても金は金、お金は大事よ。それに需要があったから供給しただけだし、文句は使う方に言ってほしいね」なのだが。
「ええ、それに関して今から「重大な独り言」があります」
「拝聴しよう」
「ありがとうございます。・・・実は帝国はドイツがポーランドに攻め込み、今回のような事態が起こることを在る程度予想しておりました」
まさしく爆弾発言である。
「そして欧州へ帝国陸海軍の派遣を内密に決定していたのですが、英仏から「戦争を煽るだけだから来ないでいい」と部隊の派遣を拒否されました。ですが・・・」
マンネルヘイムは驚いてはいたが何も喋らない。あくまで今話されていることは「独り言」だからだ。
「欧州への派遣を断られるとは思わなかったので、重砲や高射砲、りゅう弾砲等嵩張る重火器の武器弾薬は既に欧州行きの貨物船に載せて、現在喜望峰の辺りを航行中なのですよ。一応アメリカ船籍の貨物船なので攻撃はされないのですが、『荷物の引き取り手が現在居ない』状態でして。元々英仏軍への供給用として送ったのですが」
山口の言葉の裏にある意味を、マンネルヘイムはしっかりと理解した。
「・・・そう言えば風の噂で聞いたのだが、某所に重火器を輸出しようとしたがキャンセルされたそうだね」
「ええ、良くご存知で」
2人とも、実にイイエガオであった。
22. ham 2009/03/21(土) 17:25:39
11月の中頃にヘルシンキ大量の砲が弾薬込みで貨物船で到着した。
船はスウェーデンのストックホルムから来た。しかしその砲や弾薬はスウェーデン製ではなかったが、誰も気にする者は居なかった。
そう、戦争の冬が到来しかかっていたからだ。

終わり
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最終更新:2012年01月03日 21:27