830 :パトラッシュ:2013/10/19(土) 08:41:39

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART27

森雪SIDE

 次のヤマトの航海計画について参謀本部に報告する古代君を待っていた私は、防衛軍司令本部のラウンジで見知った顔に気が付いた。現在、軍で一番注目されている若者は、テーブルに置かれたお茶に口をつけぬまま呆然として外を眺めている。
「織斑大尉、どうしたの?」
「あ、森少佐……」
 慌てて立ち上がった大尉は、加藤君や山本さんと並ぶ屈指のエースパイロットという評判にふさわしくないほどぎくしゃくと敬礼した。常に冷静で鋭敏と評判の彼がこんなに放心してしまうとは、噂通り相当ショックだったらしい。
「お姉さんと再会できたと聞いたのに、この世の終わりみたいな顔よ」
「二度と帰れないと思っていましたからね。姉に会えたのは嬉しかったけど、俺は十年も戦っていたのに向こうでは三年しかたってないんです。ひとりだけ年を食うなんて、浦島太郎の気分ですよ」
「まさか、あなたが異世界から転移してきたなんて信じられなかったけど」

 次元回廊の発見と並行世界の地球と接触したというニュースは、軍でも驚きの声で迎えられた。しかもヤマトの大マゼラン銀河再征時からよく知っていた織斑大尉が、実はその世界から十二歳のときに転移した人間だったとは。古代君も知らなかったそうだが、確かに他人には言えない話だ。何より大尉も戦争続きの世界で生きていくのに必死で、過去を思い出す暇もなかったろう。十年ぶりに生まれた世界へ帰ってきた大尉だが、楽しいことばかりではなかったようだ。
「おまけに例のISなんてのを起動させちまったおかげで、とんだ大騒ぎに巻き込まれたし」
「詳しくは聞いてないけど、女性だけしか動かせない超兵器なんて本当に存在するの? 真田さんも最初は呆気にとられていたわ」
「存在するんです。おまけにその原理も何も一切不明ときてる。なぜ女にしか動かせないISを男の俺が動かせたのか、向こう側の国々は俺を即行で拉致して生体解剖しかねない勢いでしたよ。おかげで姉と暮らした家にも行けず、古い友人とも再会できませんでした。おまけにISのせいで男尊女卑ならぬ女尊男卑の社会に変貌していて、何度も不愉快な目に遭ったし」
「別に女だからではなくて、ISを使える才能こそ称賛されるべきなのでしょう。なぜISに関係ない女性が威張るのよ?」
「向こう側ではISの前には既存兵器なんて鉄くずに等しいですからね。どの国も優秀なIS乗りの女性を確保するため、女性優遇制度を採用した結果です。人類の存亡をかけて戦っているならともかく、途上国での局地戦程度しか戦争のない世界で勘違いして威張り散らす女の多いことといったら。ISなんてガミラス戦役に投入されても、何の役にも立たなかったはずなのに」
 何とも信じられない話だ。長い戦争を経験した大尉にとって、もはや生まれ故郷こそ異世界なのだろう。

「いろいろあったのね……大尉、四月にはまたヤマトが練習航海に出るの。宇宙戦士訓練学校の新卒者も二十人ほど乗るから、パイロット教官として頑張れば気分も晴れるわ」
「実は少佐、それですが……」
 大尉が言いかけたところへ、背後から古代君の声が響いた。
「雪、ここにいたのか――ああ、織斑大尉。今しがた藤堂長官に聞いたぞ」
「はい、古代艦長。俺はこの春から向こうの世界へ行くことになりました。パイロット訓練教官も根本大尉が代行するので、よろしくお願いします」
「え、大尉はヤマトを降りるの?」
「いつまでかわかりませんが、ISを専門的に学ぶ学校へ留学しますので。姉がそこで教師をしているから毎日会えますけど、今の俺にはこちらが故郷だから必ずヤマトに復帰します――そうだ少佐、これは向こう側のお土産です。艦長とご一緒にどうぞ」

 織斑大尉がくれたのは、こちらでは失われて久しい高級ハムの詰め合わせだった。おかげで夕食のメニューは豪華になったけど、その夜の古代君のキスは少し脂っぽかったな……。

 ※かつて森雪は理想の恋人でした。次回で一夏の防衛軍世界編は完結です。初登場のあの人が出演します。wiki掲載は自由です

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最終更新:2013年10月21日 14:53