4 :パトラッシュ:2013/11/23(土) 09:27:10

earth様作『嗚呼、我ら地球防衛軍』と某作品のクロスオーバーのネタSSの勝手な続編PART32

織斑千冬SIDE(3)

「知らない天井だ……」
「気が付いたか」

 起きようとしたラウラは小さな悲鳴をあげて硬直する。唇を血がにじむほど嚙みながら、上半身をベッドに起こした。意地っ張りなところは変わらんな。

「全身打撲と疲労で当分は病人だ。無理をするな」
「何が……起きたのですか?」
「お前の『シュヴァルツェア・レーゲン』にVTシステムが積まれていた」
「ヴァルキリー・トレース・システムが? しかしあれは……」
「IS開発上のタブーとされていたはずだが、各国の軍関係者やIS企業の前で人体実験したようなものだから機密もへったくれもない。ドイツ軍幹部は今頃泡を吹いているだろう。何人の首が飛ぶことやら」
 私の説明を聞きながら、シーツを握る指が震える。眼帯が外れた金色の左目が力なく揺れた。
「VTシステムでも完膚なきまでに負けたのですね。織斑一夏に、教官の弟に……」
「悔しいか?」
「教官に鍛えられてシュヴァルツェ・ハーゼ隊長にまでなれたのに、不肖の弟子としか言えません。いくら織斑大尉が実戦経験豊かな軍人とはいえ、私はあまりにも弱い……」
「確かに弱すぎるな、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐」

 がっくりと肩を落とすラウラを、冷たい言葉が容赦なく鞭打つ。IS学園の制服ではなく地球防衛軍の軍服姿の一夏が、いつの間にか入室していた。

「おい一夏、一応、女の病室に無断で入るな」
「ごめん、千冬姉。ノックしようとしたけど、負け犬根性丸出しのセリフが聞こえたもので」
「ま、負け犬……」ショックを受けたラウラが、視線を虚空にさまよわせる。
「違うか? 尊敬する千冬姉の前でカッコいいところを見せようとして失敗しただけで酷く落ち込むなんて、志望校の受験に失敗して自殺する奴と変わりないな」
「おい一夏、そこまで言うか……」
「あえて言わせてもらう。ボーデヴィッヒ少佐、お前はなぜ強くなりたいかという動機がないんだ。自分はこんなに強いぞと他人に自慢したいだけなら、子供の喧嘩と同レベルだろう」
「喧嘩……な、なら織斑大尉、貴様が強くなりたいと願った動機は何だ?」
「俺は滅亡寸前の地球を救いたい、その一心で軍人になった。あっさり戦死などせず、生きて生き抜いてガミラス軍を撃退し、少しでも多くの同胞を救うために強くありたい、強くならねばならないとの思いが俺の拠りどころだった」

 その話は以前に聞いた。一夏たちは最後まで希望を失わず戦い続け、ついに地球を取り戻したと。まだ十代の少年少女が、こんな重い〝希望〟を背負って戦わねばならなかった世界に比べれば、ISなど児戯に等しいな。

「――なら、私はどうすればよい? 出来損ないの烙印を押された惨めな世界から救ってくれた教官の恩に報いるため、強くあろうと頑張ってきた私など何の値打ちもないのか!」
「悪くはないが、強くなりたいという動機としては貧弱だ。だから一回負けただけで、あれほど落ち込んでしまった。何度負けても這い上がってやるという意志のない奴は、強い弱い以前に歩き方を知らないも同じだ。強くなって何をやりたいか、お前に欠けていたのはそれだ」


 打ちのめされたように黙り込んでしまったラウラを置いて、私と一夏は病室を後にした。
「一夏、その服はどうした?」
「制服がクリーニングから戻るのが遅れるそうなので」
「そうか……しかし、あの試合での零落白夜は何だ? あれだけ派手に戦いながら、エネルギー消費量が信じられないほど少なかった。今頃各国政府やIS委員会、関係企業は大騒ぎだぞ。お前か地球防衛軍が白式を改修したのか――」

 不意に一夏の指が伸び、問い詰めようとする私の唇をふさいだ。

「禁則事項だよ、千冬姉」

 弟の指の感触に、思わず鼓動が早まる。く、昔から感じていたが、お前がこれほど自覚のない女たらしになるなんて。さっきの説教で、ラウラも確実にお前に惚れたぞ。騒ぎにならねばよいが……いや、期待するだけムダかな。

 ※よく考えたら、ラウラが十代前半でドイツ軍に属していたというのは、15歳未満の児童の軍隊への採用を禁じた「児童の権利に関する条約」違反ではないでしょうか(ガンダム世界は条約違反のオンパレードですが)。Wiki掲載は自由です。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年11月23日 11:57