92. yukikaze 2011/04/17(日) 21:52:34
提督たちの憂鬱支援SS  死天使達の競演

第7飛行集団第3飛行戦隊第2中隊。
構成員は『ドイツ医学ですら敗北を喫した』と称されるほどの重度のオタ集団。
まあ当然の事ながら、嫁の来てなど誰もいない。もっとも、彼らは「俺の嫁は二次元にいる」と公言し、
周囲をどん引きさせ、親兄弟を号泣させていたのだが。
そうしたことから、彼らは何時しか『痛い子中隊』と(侮蔑を込めて)呼ばれるようになったのだが、
当人たちにとってはどこ吹く風の毎日を過ごしていた。

「須川耕太中尉、入ります」

そう言って須川が部屋に入ると、そこには第3飛行戦隊戦隊長である高木順一朗大佐が
何時もどおりの飄々とした表情を浮かべて出迎えていた。

「おう、ご苦労さん。コミケで忙しいだろうに自由時間を潰してすまんな」

(相変わらずだよなぁ。このおっさん。本当に陸士や陸大をトップクラスで卒業したエリートなのかよ。
夢幻会の逆行者を除けば杓子定規で洒落のわからん連中ばかりなんだがなぁ)

そう思いながらも、須川達、第2中隊の面々にとっては、この『社長』(第2中隊の高木に対する渾名)の
性格は決して不快ではなかった。
何しろ、大抵の上官は、彼らの言動や趣味に対して眉を顰めるものが多く、そういった趣味を止めさせるよう
命じた者は両手では数え切れないほどである。
無論、彼らはそういった『助言』など聞くはずもなく、半ば厄介者払いの形で転属されたものたちが集まったのが
『痛い子』中隊であった。

しかしながら、高木は『職務に支障がない限りは』という注文はつけたが、それさえ守れば、彼らの趣味や言動に
制約らしい制約はつけようとはしなかった。
何しろ、中隊の一人が、愛機にアイマスのキャラのノーズアートを描いた所、怒るどころか『これは面白い』と、
全機に自分の好きなキャラの絵を描いてよいという許可まで出したのである。
これには陸軍省などからクレームが来たのだが『自分の好きなキャラを描いてある以上、彼らは不用意に機体を被弾させない
だろうし、実際そのための研究に余念がない』と、第2中隊が纏め上げた戦術機動についての詳細なレポートを送ることで
黙認されることになる。(これにはMMJの暗躍もあったとされる)

「で・・・機体の調子はどうだい?」
「ばっちりですね。Sランクにプロデュースされていますよ」

自信たっぷりにそういう須川であるが、彼の自身も過信ではない。
彼らが操る九七式双戦は、彼らの任務である地上襲撃に最も適した能力を与えられるよう
(彼ら自身の手で)徹底的に問題点を洗い出し、そしてそれをフィードバックさせた
改型と評してよいものであった。
具体的には、機体下面に防御装甲を追加させ、更に翼の強度を上げさせる事で、両翼にロケットや
クラスターを複数装備させることを可能にさせている。
また、後方からの襲撃対策として、史実モスキートにあった後方警戒レーダーや、後方機銃の配備
加速用のRATOなど襲撃中の奇襲攻撃にも対処できるように、様々な工夫を凝らしている。
(他にも40ミリ機関砲を胴体ではなく、ガンポット方式にしたり、20ミリ機関砲を半減し、その分装弾数を増やしている)

もっとも・・・こうした改修を執り行ったことで、機体の重量が増加してしまい、最大速度が50キロ近くも
低下(低高度での運動性を維持する為翼面積を増やしたのも大きかった)したのはマイナス点であったが
そもそも襲撃機の場合、航空優勢が確保できていない戦場ではもろいと『痛い子中隊』の面々は認識していた為、
許容範囲とされていた。

「成る程。それを聞いて安心した。では君達に2つのニュースを伝えよう。グッドニュースとバッドニュースだがどっちがいい?」
「勿論グッドニュースで。それ以外は聞きたくはありません」
93. yukikaze 2011/04/17(日) 22:25:08
並みの人間ならその発言だけで『ふざけるな』と怒鳴りつけるだろうが、
高木は苦笑を浮かべるのみであった。
正直、この程度のことで怒っていたら、始終怒鳴りっぱなしだろうし、
それに何より、彼らは戦力として非常に有用なのだ。

「ふむ。グッドニュースだが、君達第2中隊全員に5日間の休暇が与えられる。
確か君たちが行きたがっていたコミケの日じゃなかったかね?」
「マジで・・・」

須川は掛け値なしに驚いた。普通、中隊のパイロット全員が休暇をもらえるなんてありえない。
さしもの彼らも、その事だけは理解していたので、ローテーションを組んで「遠征組」と「居残組」
に分けており、今回のコミケでは彼は居残り組だったのだ。

(よっしゃぁぁぁっ!!  これで今回ふしみんの新作が即getできる。千早(俺の嫁)が俺を待っている!!)

そう歓喜に震える須川であったが、高木の次の一言で一気に我に返る。

「喜んでもらってありがたい。大いに楽しみたまえ。休暇後は直に部隊は大陸移動だからな」

それを聞いた須川の顔は「お前は何を言っているんだ?」といっても良い顔であった。

「戦隊長殿。今、何と仰いました?」
「大陸への移動だよ。戦争だ」

再度そう告げると、高木の顔はさっきまでのひょうひょうとした態度は消え、厳しい顔つきになる。
その変化に、須川も慌てて態度を切り替える。重度のオタではあるが、彼もまた職業軍人であった。
流石に話が戦争になると、本能的に軍人としての態度を見せる。

「最早、日米での避戦の可能性は絶たれたと言っていい。5月末の一件以降、連中は聞く耳持たずだ。
太平洋は海軍さんがなんとかするだろうが、大陸はこちらが何とかするしかない。
だが、陸上兵力では向こうさんが上だ。その為に、襲撃機部隊である我等にお声がかかったわけだ。名目上はな」

そう言って、高木は思わせぶりに笑みを浮かべる。

(名目上は?  つまり裏の意味があると言うのか?  確かに中国の兵力は膨大だが、あんなもんは陸相自慢の機甲部隊
による包囲殲滅で片付けられるし、アメちゃんの軍隊は機械化はされて手ごわいが、それでもうちの機甲科なら対処可能だし
おまけに大軍の殲滅なら、俺らよりも爆撃隊の連中の領分だろう。俺たちの主敵は強大な機甲部隊。まさか・・・)

ある事実に思い当たり、慌てて高木の顔を見ると、高木は凄みのある笑みを浮かべて回答した。

「そうだ。我等は大陸で米中軍に派手に暴れることで、この戦場を注視しているソ連軍に対する抑止力となる。
下手に火遊びをすると、大火傷どころか焼死することになると思わせるくらいにね」

(ヒデェ話だ。米中軍はソ連をびびらせる為の当て馬かよ)

そう思いながらも、須川は彼らに同情するつもりは一切なかった。
何故なら須川にとって見れば、オタ三昧が許されるのは平和であるが故であり、平和を乱す連中は
誰であろうと許しがたい存在であったからだ。

「了解したかね、須川中尉。では任務に取り掛かりたまえ」

高木の命令に、須川は惚れ惚れするような動作で敬礼をすると、一目散に部屋から退出した。
まずは部隊のみんなに福音を告げ、そして来るべき戦場への準備を始めなければならないからだ。

後に、第7飛行集団第3飛行戦隊第2中隊は、その圧倒的なほどの破壊力を、大陸のあちこちに
これでもかと見せつけ、終盤には、彼らの姿を見るだけで、士気が崩壊し、降伏した部隊もあったとされる。
彼らの愛機には、例外なく美少女たちの絵が描かれていたことから、何時しか彼らの部隊は『冥界の使者』『死天使』
と畏怖されることになるのだが、それは又未来の話である。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2015年07月19日 07:12