336. yukikaze 2011/06/11(土) 22:03:38
名無し三流様に敬意を表して

提督たちの憂鬱  支援SS  〜魔王の贄〜

朝鮮半島とソ連の国境付近に設けられたアジトにおいて、反日組織の領袖達は
憂鬱の色を隠そうともしなかった。
それも無理はなかった。日本とアメリカの開戦以降、彼らの組織は、裏切りがばれたことに
恐怖を覚えた韓国政府が、生き残りをかけて情け容赦なく弾圧を加えたことと、満州に侵攻した
日本陸軍の攻勢によって、半島の内外に構築していた拠点が悉く潰されていたからであった。
彼らの目の前におかれている地図の上に、無数の×印が加えられているのを見ると、憂鬱になるな
というのが不可能であった。

「満州の拠点は諦めた方が良いだろう。中華民国の豚共め。保身の為に売ったとしか思えん」

忌々しげに吐き捨てる男に対し、隣に座っていた眼鏡をかけた男が血相を変える。

「馬鹿を言うな。あれを構築するのにどれだけの時間と金をかけたと思っているんだ」
「金をかけたのは張学良と在満米軍だろ。お前はその尻馬に乗っただけではないか」

対面に座っていた小太りの男が、侮蔑を込めた返答をすると、眼鏡の男は怒りのあまり身を乗り出し
掴みかかろうとする。

「やめんか。仲間内で争ってどうする」

数多ある反日組織の中でも古参の部類に入る初老の男から叱責が入り、眼鏡の男は
不承不承席に着くが、その視線はかなりの憎悪に彩られている。

(困ったことだ。劣勢の時こそ結束を固めなければならないのに、その逆のことをやっている。
  これではどうしようもない)

心中溜息をつきながら、初老の男は自分たちはどこで何を間違えたのか問い直していた。
337. yukikaze 2011/06/11(土) 22:16:49
朝鮮における反日武装組織にとって、1942年は輝かしい年になる筈であった。
彼らにとって不倶戴天の敵である日本は、中国とアメリカとの関係が徐々に悪化し
追い詰められていっていた。
そしてアメリカや中華民国は、戦争が勃発した際、朝鮮半島内における撹乱を行うことによって、
関東軍への援軍阻止と、反日武装団体の保護を名目にしての半島侵攻を果たす為に、彼らに対して
軍事教練や軍需物資の融通を図るようになった。(最も二線級兵器であった)
滑稽だったのが韓国政府で、彼らは自らが攻め込まれると言う予想を全くせずに、反日武装団体に
協力することで、アメリカや中華民国への得点にするつもりであったことだ。
無論、反日武装団体は、心中、韓国政府の馬鹿さ加減を大笑いしつつ、彼らの申し出をありがたく受け取っていた。
もっとも、反日武装団体は知らないことであったが、既にアメリカと中華民国の間で、韓国は中華民国の好きなようにしてよい
という確定がなされていた。そして張学良にとっては、韓国侵攻の名目が立った時点で、彼らの存在理由は全くなかった。

そんなことを知らない彼らは、口々に半島制圧後の構想について話し合っていた。
まあ「構想」と言っても、それは韓国政府の上層部の財産の分け前の比率を決めるものであったり
あるいは日本から未来永劫収奪を図るというようなものであり、まかり間違っても「韓国を如何に発展させ、
民衆の生活を底上げするか」と言ったようなことは口にも上らなかった。
どうかんがえてもそれは、国家の指導者と言うよりも、夜盗の類の話であった。
338. yukikaze 2011/06/11(土) 22:35:08
そんな彼らの甘い未来が木っ端微塵に吹き飛んだのが、日米開戦であった。
当初、開戦に大喜びした彼らであったが、その直後に起きた大津波によって米国は壊滅。
そしてその気に乗じて行われた日本軍の大攻勢によって、彼らが頼りにしていた在満米軍や
中華民国軍は、それこそ鎧袖一触とばかりに蹴散らされてしまった。

彼らは日本の悪運の強さと、アメリカや中華民国の不甲斐なさに口汚く罵っていたのだが、
一月もたつとそういった事を楽しむ余裕は既に尽きていた。
罵詈雑言を言うより先に、彼らはまず日本や韓国(場合によっては、彼らを突き出すことで
生き残りを図ろうとする中華民国軍)から逃げなければならなかったからだ。

「祖国にいる同志達はどうなっている?」

初老の男の問いに、誰もが無言となる。
政府の有無を言わさぬ弾圧によって、主だった組織は壊滅状態になっていた。
無論、生き残りもいるだろうが、彼らは生き残りを図る為に深く地下に潜らざるを得なかった。

「アメリカや中華民国にいた同志達は?」

その問いもまた無言であった。
ワシントンで正統政府代表を名乗っていた李承晩も、上海に作られていた政府組織も
ともに音信不通であった。伝え聞くところによると、上海の組織は、日本軍に囲まれた時に
半分が国民党政府によって殺され、もう半分は中国人と間違えられ、アメリカ軍に殺されたと言われている。

「国内も国外も壊滅状態か。補給も既に途絶え、生き残った同志達も全てを合わせても4千人程度。
  これでは強大な日帝には太刀打ちは不可能だろうな」

一瞬、部屋はざわめくが、誰もが無言になる。半年以上の逃避行は、彼らに楽観的な
判断をするのが自殺行為であることを嫌になるほど叩き込んでいた。

「では・・・どうすればよいと?」

その問いに、初老の男はこう答える。

「ソ連邦のメクレルという男から手紙が来た。ソ連に亡命してはどうかと?」
339. yukikaze 2011/06/11(土) 22:59:26
その発言は、部屋の中の男達を驚かせるのに充分であった。

「ソ連がですか?」
「一体何のために?」
「確かに一時期はソ連との関係を深めたことがありましたが、中華民国と
  結び付きを深める為に手を切りました。彼らはそのことを忘れてはいないはずです」

口々に質問を浴びせる領袖たちに、初老の男は落ち着いた声で返答する。

「同志達のの懸念は尤もだ。私も彼らに対して同じ質問をしている。
  そして彼らの回答はこうだった。「半島をソ連の影響下に置くためには貴方方が必要だ」とな」

それを聞いて男たちは鼻じろむ。彼らが言っているのは「お前たちは俺たちの傀儡になれ」であった。
なるほど確かに彼らは本音で語っていた。全然感銘は受けなかったが。

「もう一つの理由としては、シベリアに少しでも兵力が欲しいという事であろうな。
  ソ連にとっての悪夢は、ドイツと日本が挟撃することだ。そしてそのための保険として、
  日ソ国境には1人でも兵隊が欲しいのだろう」
「明らかに我等は駒扱いではありませんか。無礼にも程があります」

眼鏡の男が激昂した声を出すと、それに賛同する声が湧き起こる。

「同志の怒りは尤もだ。しかし私はこれを受け入れようと思う」
「なっ」

初老の男の声に、眼鏡の男は絶句し、何か言おうとするが、それにかぶせるように
初老の男は言葉を続ける。

「我らにはもう選択肢がないのだ。このままでは確実にジリ貧のまま消滅する。だが、
  ソ連に行けば、生き延びる可能性がある。例えそれが僅かばかりなものであってもだ」

そこには、既に自分の運命を受け入れた男の姿があった。それを見て
項垂れる者や、泣き崩れる者が続出した。彼らも理解したのだ。自分たちがもうどうしようもない
状況なのだという事に。

「生き延びよう。泥をすすっても生き延びよう。いつか祖国に胸を張って帰る日のために」

初老の男の声に、男たちは皆、涙を流しながら誓い合った。生き延びよう。絶対に生きて祖国に帰ろうと。



そして・・・彼らは祖国に帰ることはなかった。
スターリンにとって彼らの存在を政治的に活用するのは、日本のソ連参戦の口実になりかねず
とてもではないが出来る相談ではなかった。
スターリンが彼らに求めたのは、『使い捨ての労働者』としての役割だけであった。
そしてその扱いは過酷を極め、1人また1人と倒れていった。

彼らの悲惨な運命が明らかになったのは、ソ連が崩壊して情報が公開されて後、1人の
日本人研究者がKGBの資料ファイルから発見されて以降だったのだが、彼らが反日団体であったことから
韓国は冷淡な反応しか示さず、彼らの遺骨は未だ祖国には戻ってきていない。

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最終更新:2012年01月01日 01:06