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支援_yukikazeさま_ジョージ・サーストン卿の日記
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加筆訂正もふくみます。
取得中です。
337.
yukikaze
2010/01/20(水) 21:55:04
既に攻龍様が書かれておりますが、私もこのネタで挑戦。
提督の憂鬱 支援SS ジョージ・サーストン卿の日記
1910年1月10日
兼ねてよりIJNに売り込みをかけていた巡洋戦艦案だが、正式に当社が設計する事が決定した。
もっとも、当初契約案にあった「日本海軍が基本計画案を出し、それを当社が詳細設計を行う」が
「海軍艦政本部から派遣された技術官達と本社の技術官との合同設計」に変更になったのは不満が残る所だ。
確かに彼等はド級戦艦や巡洋戦艦を独力で設計・建造した訳だが、それでもこちらよりもノウハウは少ないだろう。
我が信頼する補佐役にして友人であるワトソン君は「本音は、我等の設計技術を実地で学ぶ為じゃないですか?」
と推測し、私もそれが真実であろうと思うのだが。
願わくば、派遣されてくる同盟国の技術者が、妙な事を言い出して設計の邪魔をしないことを願うのみである。
1910年2月24日
どうも予想と言うのは悪い方には良く当たるものらしい。
もっとも、会議が始まって時間が過ぎれば過ぎるほど、会議室の空気が険悪になることまでは予想できなかったが。
彼等を弁護するならば、確かに彼等の提案は斬新であったことは素直に認めよう。
まあワトソン君の言葉を借りれば「確かに斬新ですが理論倒れじゃないですかね」であったのだが。
それにしても・・・もう一度よく見直しても、彼等の提案は我々の想像の斜め上を行くものとしか思えない。
重油専焼缶の導入はさておき、垂直防御用の主装甲を傾斜してみたり、水平装甲を無意味に増やしてみたり。
経験がないからこそ出来る発想なのかもしれないが。
1910年3月8日
はっきり言おう。フランス人やドイツ人との方が、日本人よりもはるかにスムーズに仕事が出来るであろう。
今日の会議で決まったのは、本艦で使用する缶は、重油専焼缶を主、混焼缶を従とすることだけであった。
確かに重油専焼缶を積極的に利用する事はメリットがある。
なにしろ、混焼缶のみでやるよりも、機関室の重量や横幅が削減される事や、戦闘速力の維持が容易になることは、
重油の安定した確保と言うデメリットを差し引いても魅力的であろう。(もっとも、重油の確保の観点から、なくなく混焼缶残すようだが)
だが決まった事はここまでだった。
我々が機関重量と艦幅の削減を以って更なる高速化を提案したのに対し、彼等は防御力の向上を主張したのである。
何を考えているのかとしか思えない。日本人は巡洋戦艦の特質を理解しているのだろうか?
「防御力が強い船が欲しいのなら、素直に戦艦を作ればいいのに」とワトソン君が呟いたが、全く同意だ。
1910年4月1日
本日はエイプリルフールであるのだが、現在の状況も嘘であってほしいと思う。
正式に本社が輸出用として開発していた14インチ砲搭載が決定したのだが、砲塔関連の防御でまたいつもの対立が始まった。
採り合えず決まったのは以下である。
・ 砲塔中央部に縦隔壁設置
・ 換装室及び装薬庫の防炎、防火対策の強化
・ 揚弾薬框への防弾鋼板の装備
・ 火薬庫を下にし、弾庫を上に配置すること
特に防炎、防火対策については偏執的ともいえるものであった。ワトソン君が後で教えてくれたが
どうも演習中に、砲塔内で火災が発生して換装室にまで入り、あわや爆沈になりかけたらしい。
確かにかの国にとっては、戦艦は貴重だろうから注意してもし足りないのはやむをえない事であろう。
338.
yukikaze
2010/01/20(水) 22:53:31
>>337
の続き
1910年4月5日
私は最近無性に思うのだが、彼等は技術者ではなく宗教家ではないのかと思うのだ。
ワトソン君など「新興宗教か何かの教祖の説法を聞いている心境ですよ」とボヤキ、それを聞いたもの全員が深く同意したほどだ。
確かに、妙に裏返った声で、自らの主張をあきもせずに繰り返すのは、そう取られても仕方がないだろう。
それにしても・・・垂直防御の主装甲を傾斜して装着するのは、対弾性が増す事が明らかになった以上、こちらも導入するのを認めたのに
何でその分装甲を削る事を拒否するのやら。どうにも理解できないものだ。
1910年4月10日
向うの海軍省から派遣されてきた連絡士官がまた病院に担ぎ込まれたらしい。
これで何人目だろうかと、ワトソン君に聞いてみた所、4人目だそうだ。
病名は・・・書くまでもないだろうが胃潰瘍である。流石に同情の念はある。
それにしても、防御についてはいい加減ケリをつけよう。これ以上は付き合いきれない。
重役どもは「頼むから商談を壊さないでくれ」と言っていたが、知ったことか。
1910年4月15日
不快だ。実に不快だ。
あの忌まわしき会議が終わって後、本社の設計陣はみなそう思っているであろう。
日本側の提案をベースにして設計しろなど、正気の沙汰と思えない。
せっかく従来提案より安価で、しかも高速に出来ると言うのに、真逆のことをしているのだから。
「防御」「防御」高速で動き回る巡洋戦艦にそうそう主砲弾が当る訳ないのに、そんなこともわからないとは。
ワトソン君など会議の後、「僕は反対したぞ。きっちりそれを議事録に書いてくれ。これが失敗しても僕は責任を取らないぞ」と啖呵をきって
細君の元に帰ったのだから。僕もそうすべきであったかなと思う。
それにしても・・・日本側案の中央断面図に、何故「ダンケルク」という文字が入っているのだ?
新任のカトウという少佐に「どなたかフランスに旅行にでも行かれるのですかな。休む余裕を失わないのはさすがですな」
と言ったら、顔を引きつらせてその場を去っていった。
伝え聞く所によると、技術者達を一箇所に集めて、凄まじい勢いで怒鳴りつけたそうだ。
実にいい気味だと思い、今晩は秘蔵のワインを余分に飲んだほどだ。
1910年10月21日
忌まわしい日々は今日で終わり。ようやく全てから解放された。
正直、設計の終わったこの艦は、私にとっては不出来な娘にしか見えない。
まあ出来の悪い娘ほど可愛いと言うようだが、私はそういう気分にはなれない。
むしろ、優れた素質を持った娘が、駄目な男に引っかかり、滅茶苦茶にされた心境であろうか。
ワトソン君など「計画では27どころか28も狙えたのに、連中の横槍のせいで26後半が限界じゃないか」と
憎悪に満ちた視線で彼等を睨んでいた程だ。
今度の休日に、ワトソン君と二人して、不出来な娘の弔いの酒でも酌み交わすか。
1916年6月4日
ユトランド沖海戦の正式な結果が出された。
はっきり言おう。不出来なのは我等であったことを。
私の目の前のタイムズには、ボロボロになりながらも、ドイツ巡洋戦艦2隻を撃沈すると共に、
ジェリコー来援までの時間を稼ぎ、海戦に勝利をもたらせた、コンゴウとヒエイが誇らしげに
ライジングサンを掲げている写真が掲載されていたのだから。
我が愚かさを懺悔すると共に、悪罵を投げたコンゴウと、それを作りし同盟国の造船官に幸運あらんことを。
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