410. yukikaze 2010/04/10(土) 18:42:34
韓国ネタでの支援SS  皇帝の憂鬱

大韓帝国第三代皇帝である英宗は、報告を聞いて呆れ返っていた。
最初にこれを聞いた時は、報告者に対して「これは酒の上での話か?」と問いただし、
「閣議での話である」と返答されるに及んで、益々呆れ返る事になる。

「満州から少なからざる量の軍需物資が我が領内の反日派に送り込まれているにも拘らず放置するだと?」
「御意。流石に文章にするのはまずいと判断したようですが」
皇帝の呆れに同感だったのだろう。報告者もまた、呆れ返った思いを隠そうともせずに返答する。
「馬鹿なことを。日本憎しに目が眩んだか。閣僚たちからすれば『日本が困るだけ』と思っているだろうが、
  反日派に渡った軍需物資が、自分達に向けられる可能性を考えてもおらんのか」
閣僚の顔を浮かべながら、英宗は嘆息する。

日露戦争以降、大韓帝国は日本から様々な「助言」と言う名の干渉を受けていた。
無論、この「助言」に従ったからこそ、まがりなりにも大韓帝国は、国として存在することができ、
大韓帝国成立時よりも、ゆっくりとではあるが確実に国力が上がっていたのだが、だからといって、
干渉を受ける事に対する感情的反発はどうしても生じる事になる。(既得権益を失ったものは尚更である)
英宗からしてみれば、「そりゃあ自業自得だろうよ」と思っていたし、実際、閣僚などにも
「内政面で日本に口出しされたくないのならば、彼らが口出しできぬような政を行えばよい事」とも言ったのだが、
その事で、逆に英宗自身が宮廷人から嫌われているのだから、もはや処置なしともいえた。

「それにしても、日本への留学組は、日本で何を学んだのだ?  彼らが侮れない存在である事は嫌と言うほど理解しているだろうに」
開国して近代化してから僅か70年で世界有数の軍事大国、経済大国に上り詰め、その勢いは衰えることを知らない日本。
英宗にしてみれば、彼らを侮る事など正気の沙汰ではなかった。
「『世界最大の国家であるアメリカには、日本は勝てない』と言うのが彼らの判断です。この点については妥当な判断とはいえますが・・・」
「そして、我が韓国が日本に心中する義理はない。彼らが劣勢になったら、これまでの恨みをすべて返すか」
苦虫を噛み潰したような顔で、英宗は呟いた。

無論、彼も皇帝である。自国の利益こそが最優先事項であり、幾ら皇后が日本人だと言って、
日本と一緒に心中しようと考えるほどお人よしでもない。
しかしながら、閣僚達がやろうとしていることは、英宗からすればあまりにも姑息過ぎた。

「この国の民は、一体何時になったら、自分の両足で立つ気概を持てるのだろうな」
そう呟く英宗の声は、嘆息と言うにはあまりにも重い声であった。
「この国の民は、誰かを恨まなければ生きていけないのか?」
英宗の独白に、洪思翊侍従武官は返答する言葉を見つけることは出来なかった。
それは、彼自身も、常日頃思い続けていた事であったからだ。

「洪思翊侍従武官」
「はっ」
「最悪の事も考えておいた方がよさそうだな。このような姑息な行動、
  日本は決して見過ごしはしまい。恐らく痛烈なしっぺ返しが来るぞ」
そう言うと、英宗は、報告を聞いていた庭園の木陰から身を起こすと、ゆっくりとした
足取りで宮殿へと戻っていった。

後に、洪思翊大将は、自分の回顧録でこの時のことをこう記載している。

『皇帝陛下の足取りはとても重たかった。間違いなく陛下は、これから起きるであろう事を理解されていたであろうし、
  そして御自身ではもはやこの流れは止められないであろうことも理解されていたと思う。
  この後、陛下の懸念は的中することになるのだが、私はその時ほど、自分達の愚かさを悔やんだ事はなかった』

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年01月01日 01:43