461. yukikaze 2010/09/06(月) 18:57:22
艦船が採用されたので御礼をば

支援SS  全てはこの時の為に

1905年3月5日。
満州におけるロシア最後の根拠地であるハルピンを遠くに臨みながら、
砲音を背に聞きつつ、二人の初老の男は感慨深げに呟いていた。
「とうとうここまで来たね」
「ええ。長いと見るべきか短いと見るべきか難しい所ですけど」
そう言葉を交わす二人の脳裏には、ここに来るまでの間の出来事が走馬燈のように駆けめぐっていた。
「私にとっては、あっという間だったよ。この世界に来て、最初はこの世界で生きるために必死になって
勉強して、気がついてみたらこうなっていたからね」
「僕にとっては、ようやくという気分ですね。僕らの過去の世界よりも少しでもマシなものにしようと動いてあがいて」
そう言いながら、男はふっと笑みを浮かべた。
「しかしびっくりしましたよ。僕のような境遇の者がいるなんて予想すらしていませんでしたから。
正直、閣下のこともお会いするまでは馬鹿にしていたくらいですから」
「それは私も同じだよ。仮に歴史通り進んだ場合、君をどのように取り扱うべきか悩んでいたんだから」
お互いの評価を聞いて、男達は呵々大笑する。
遠くからその姿を見ていた将兵達は、帝国陸軍の中でも屈指の猛将の呼び声高い二人の余裕の表れだとして、
従来から抱いていた敬意を益々強いものとする。
もっとも、そんな周囲の心情を知ることなく、二人の会話は続く。
「ところで、君は何故自分がこの世界に呼ばれたのか、考えたことはないかい?」
男の問いに、彼は間髪入れずに答える。
「勿論考えましたよ。と、言うより考えたことのない人いるんでしょうかねぇ」
「で・・・答えは?」
その問いに、男ははにかみながら答える。
「色々考えましたけど、結局でませんでした。まあ「日々の仕事が忙しいから」
ということでごまかしていましたですけどね」
で・・・閣下は?  と言う問いに、男は重々しい口調で答える。
「私はね。無念の感情が引き寄せたのではと思っている」
「無念・・・ですか?」
オウム返しに答えるその声に、男はゆっくりと頷く。
「そう。無念だ。君も私も、私達のいた時代では、どのように評価されている?  私は彼らが、もっとマシな未来を選べなかったかと、
無念の感情を抱いていたのではと思ったんだ。そして我々もまた、本来よりもマシな過去を求めていた。この強い感情が結びついたことで、
我々は過去に逆行し、いまこの場にいると考えているよ」
その推論を、男は否定できなかった。
確かに、様々な理由があるが、彼らの同志達の多くにあるのが「あの時ああだったら」という、
無念というか願望と言った感情だからだ。
無論、そう言った感情が自分自身にも多々含まれていることは、自分自身がよく知っていた。
「そうなると・・・彼らは今満足しているのでしょうか?」
「それは、この戦いの結果次第だろうね」
男はそう言って身を翻すと、彼らの後ろで固唾を飲んで命令を待っていた将官達に、命令を下す。
「第三軍全軍に指令。これより予てからの作戦指示の元、攻勢に打って出る。我らの目的は敵右翼軍を撃砕し、
ハルピン後方にまで進撃。ロシア全軍を包囲殲滅する役目である。この会戦でロシア軍にとどめを刺すぞ」
老人とは思えない大音声の声に、命令を受けた将官達は一瞬身を震わせ、そして敬愛する司令官に負けないくらいの
大声で復唱すると、脱兎の勢いで自分達の任務に取りかかる。
「では・・・後方は頼むよ。伊集院参謀長」
「お任せを。砲兵の尻を叩いて、閣下の進軍を防ごうとする者達を片っ端から吹き飛ばして見せますよ。御武運を。乃木大将閣下」
見事なまでの敬礼をする伊集院に、乃木はこれもまた見事なまでの答礼をすると、何人かの護衛を引き連れ、前線へと駒を進める。

「全てはこの時のために!!」

後に、ハルピン会戦の勝利を決定づけたとされる、乃木第三軍の攻勢は、彼のこの雄叫びを表すかの如く
激烈なものであり、ロシアの猛将リネウィチが恐怖のあまり顔面蒼白となり、
「やつらは死ぬのが怖くないのか」と絶叫したといわれている。
直、この時の雄叫びは、西南戦争時に軍旗を奪われながらも生き恥をさらし続けた事への感情の表れ
ととる史家が殆どであるが、長きに渡って彼の友人として過ごした伊集院元帥は、後に夢幻会の同志達に
「あれは、彼をこの地に呼んだ乃木大将が言わせた言葉かもしれないなぁ」と述懐したという。
465. yukikaze 2010/09/06(月) 21:31:19
以前、大火力信奉者の乃木大将のSSがあったわけですけど、一度古武士的な
乃木大将を書いてみたいなぁと思って書いてみました。

実はこれ、最初は伊集院参謀長との出会いとか、児玉大将との交流とか、
旅順戦での智将ぶりとかもネタに合ったんですけど、本編30話での、
「逆行者はどういうプロセスで来たのだろうか?」という問いかけに対して、
自分なりに考えた答えを乃木大将に言わせるのはどうかなと考えて、
本編日露戦争での陸上での最終決戦であるハルピン会戦中のひとコマという
シチュエーション思いついたわけです。

ちなみに、最後の「全てはこの時の為に」というフレーズは、三国志大戦の
劉備の計略が発動した時の台詞です。(実際やったことはないんですけど)

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最終更新:2012年01月01日 01:51